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『分けずにはいられない人間の性(サガ)』

「線引き」と「漢字」

2021年から創作している漢字で現代社会を考える作品。
前回までの「回」「影」に続き、今回は「分」をモチーフにした作品についてです。

2020年から2021年にかけ大量に創った「コウモリ」「BAT」作品たちは、「分」という文字では表現はしていなかったのですが、これらのテーマはズバリ!「分ける」や「境界線」でした。
そこで書かれていた夥しい数の「コウモリ」や「BAT」の文字、
その文字たちの微妙な違いや変化を見つけては、独断と偏見でそれらの間にひたすら区切りの線を引いていくという、ちょっとエキセントリックな作品でした。

「分」という漢字の成り立ち

そして、その「分ける」行為自体を抽象化した「分」という漢字は、「刀で真っ二つにわける」という状態を表した会意文字です。
会意文字とは既にある複数の文字を組み合わせてできた文字のことで、「分」は二つに切り分けられた状態を表す「八」と、刀の形を表す「刀」が組み合わされてできている文字です。

ちなみに、「刀」はその形状や状態を表した象形文字で、「八」は抽象的なこと、形のないものを指で指し示した指示文字になります。

「分ける」という行為

この「分」という字、とてもシンプルで分かりやすい字です。
しかし実際、人間社会の中においての行為「分ける」を考え出すと、なかなか悩ましいんですよねぇ。

まず一つの形あるものを真っ二つに切ることはなんか簡単そうです。でも、どこで切るのかとなると、それは大きな問題です。
そして、その形あるものたちの集合体を分けたり、もしくは形のないものを分けたりするに至っては、その分け方はもう複雑怪奇になっていきます。

私たち人間は生まれてすぐの赤ん坊の頃に、自分と自分以外を分けることから始まって、ありとあらゆるものを分けていき、識別して、名前をつけて世界を認識してきたんですよねー。
「分ける」は「分かる」ことでもある、というのは興味深いことだなぁ、って思います。

「この人は家族」「あの人は近所のおばちゃん」「あの子は友達」「あの子は背の大きな子」「私は〇〇小学校の何年何組の女子」「ここは田舎であそこは都会」「私の偏差値は〇〇だから△□高校」「私は体育会系で文化系はちょっと・・・」とか、
いろんなシーンでどんどん分けていき、自分が分けることもあれば、何かによって分けられ、枠組みに入れられたりもしてきました。

常に自分は何者で、どこに帰属しているのか意識していたように思います。
それによって、安心感を覚えたり、疎外感を感じることもあったりと、「分ける」「分けられる」についての記憶エピソードは数限りなくあります。

「世の中の線引き」

多種多様な情報や価値観に溢れた現代社会、その中での線引きは複雑怪奇で、それらに振り回され、一喜一憂したりとなかなか心穏やかではいられない時が多いです。

との境界線も、分ける時や人(特に力のある人たち)の違い、その時その人の都合や気分でコロコロと変化するあやふやなもの。
それでも、線引きをしないではいられない人間の性(サガ)を思いながら書いた「分」の作品たちです。


『divide(分ける)』
2022年    紙・墨
53.5cm × 74.8cm(額装サイズ)   


『divide(分ける)』
2022年   紙・墨
45.0cm × 57.0cm(額装サイズ)   



『divide(分ける)』

2022年    紙・墨
  64.0cm×55.5cm(額装サイズ)

【ステイトメント】

ここに複数の「分」という漢字を書いた。
「分」という字は、「刀で真っ二つに分ける」様子を表した象形文字である。
人はまず、ほとんど目の見えない赤ん坊の頃に明暗の境界線を認識することから始まり、そこからどんどん形や色、物事を「分け」ていくという。
「分ける」ことは解ることであり、安心できる自分の世界を構築することなのかもしれない。
切る刀が違えば、もしくは刀を使う時や人が違えば、その境界線は当然のことながら流動的に変化する。
そんな恣意的で曖昧な境界線に翻弄され縛られながらも、また自分も常に無意識のうちに周りを分けている。
好むと好まないに関わらず、「分け」ずにはいられない人間の性(サガ)を思いいくつもの「分」の線を引いた。

人類は太古の時代に、自然現象から観念的なことまでを、どうにかして伝え残そうと、文字という記号を創り出した。
その形成期の跡を現代に色濃く残す「漢字」という文字をモチーフに選び、私は創作している。
古代に生きた人間の感覚を抽象、概念化、凝結したものを、今一度、スライムのように解凍し、現代社会やそこに生きる私たちの精神世界の中に滑り込ませてみる。
そして、そのスライムが纏わり付き、浮かび上がってきた形や線を、「書」として留めようと試みる。

一つであるはずなのに、分断だらけの世界

地球は丸い一つの惑星。
宇宙衛星からみたならば、どこにも境界線など引かれていない。
人間同士の間にも本来は何の線引きもないはず。
何かの思惑があって引かれる境界線。
私たちはこの境界線によって、常にあらゆる分断に巻き込まれている。

それでも、自分を含め「分ける」ことを止めることができない人間の性を、しみじみと考えさせてくれる文字です、「分」。

次回は「象」です!




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