見出し画像

みがきの都市歩記 #2富山

都市計画を学ぶ大学生が世界の都市を巡り、過去と未来が交差する都市の姿を学び観察する「みがきの都市歩記」シリーズ。今回は北陸の中核都市にしてコンパクトシティ政策実践都市として有名な富山を歩きます。

 2023年8月上旬、私は富山を訪れました。富山市と聞いてまず思い浮かぶものはなんでしょうか。海鮮?立山?もちろんそれらも有名ですが、都市計画を学ぶ者としては「コンパクトシティ政策実践都市」を挙げないわけにはいきません。中心市街地の再開発やLRTの整備といった文脈で必ず登場する富山。今回は富山のまちを歩き、コンパクトシティ政策がどのように機能しているか探っていきましょう!

※使用した画像・図は特に表記がないものは著者撮影・作成です。また記事内に登場する感想や意見はすべて著者個人の考えです。

富山の都市案内

富山の都市構造 -城下町の骨格の上に形成された地方都市

 富山は16世紀に本格的な城下町建設がなされ、以後その時の骨格が大部分で残されています。下の図は江戸時代から現在に至るまで富山中心部がどのように移り変わってきたかを示したものです。この図から、城下町時代の骨格が維持されつつ、神通川の直線化によって官公庁街が生み出されたこと、またまち外れに設置された富山駅側にも少しずつ市街地が広がっていったことが分かります。現在では城下町時代からの繁華街である中心市街地(総曲輪/西町/古町)と駅周辺の商業地が共存し、その間に官公庁街が立地する都市構造となっています。第二次世界大戦中に富山大空襲を受け市街地の99.5%を消失したため、歴史的建造物はほとんど残されていません。この点は隣県の金沢市との大きな違いです。

富山中心部の移り変わり

近年の動向 - 串とお団子のコンパクトシティ政策

 戦後は高度経済成長とともに自家用車が普及、まちが郊外に拡がることで中心市街地が衰退するとともに、バスや路面電車の利用者が減少していきました。こうした状況を改善するため、富山市は2008年に地域拠点を「団子」、公共交通を「串」に見立てたコンパクトな都市構造を目指す「富山市都市マスタープラン」を策定、公共交通の活性化、公共交通沿線への居住促進、都市施設の拠点への集積といった多数の施策に取り組んでいます。今回歩く中心市街地もコンパクトシティの中心として多数の再開発ビルが建設されているほか、路面電車の復活による環状化など多くの取り組みが行われてきました。

富山都市歩記 -コンパクトシティ政策のリアル

 ここからは実際に富山を歩いた様子を写真と共にお伝えします。当日のルートは以下の通りです。まずは駅周辺の様子を観察するとともに路面電車やLRTに乗車します。その後古くからの中心地区に向かい、コンパクトシティ政策の実情を探ります。

①駅前地区 -新幹線開業で高架化され美しく整備

 大宮駅から北陸新幹線かがやき号でわずか1時間40分、新幹線のスピードに驚きつつ私は富山駅に降り立ちました。まず改札を出て驚いたのが、駅舎内の南北自由通路に路面電車の駅がそのまま設置されていることです。利用者は雨に濡れることなく路面電車のターミナルに向かうことができ、交通結節点として理想的な整備をされていると感じました。駅周辺も美しく整備され、歩いていて気持ちのいい空間が広がっていました。

富山駅自由通路内に設置された路面電車のターミナル
美しく整備された富山駅

②LRT -赤字路線を蘇らせたLRT化とその課題

 富山市内の路面電車には6の系統がありますが、そのうち北側岩瀬浜方面に向かう路線は2006年に旧JR富山港線を富山ライトレールとしてLRT化したものです。LRTとはライトレール・トランジットの略称で、従来の路面電車と高速鉄道の中間に位置する新しい輸送形態です。赤字路線であったJR富山港線をLRT化し、15分に一本の高頻度運転、平行バス路線との連携を行うことで利用者が大きく増えたことから、富山ライトレールはLRT導入の成功例として知られています。今回実際に乗車してみても、富山駅から多くの乗客が乗り込み立ち客も多く出るなど、輸送機関として成功している様子が見て取れました。
 一方乗車していると一部区間が道路に線路が敷かれた併用軌道であることから信号待ちにより遅延が発生、さらに単線区間が多いことから行き違いでその他列車にも遅れが波及していく場面がみられました。交通機関としてある程度の遅延は致し方ないのですが、鉄道と比べると定時性の面で課題があるとも感じました。

終点岩瀬浜駅で接続するLRTとバス

③大手モール -歩いていて気持ちのいい空間

 ここからは古くからの富山の中心部を歩いていきます。まずは④大手モールです。大手モールは富山城へとつながる通りで、路面電車を復活させ環状化させる工事を行う際にトランジットモール化に向けた整備が行われました。実際に歩くと広くとられた歩道空間や車道を意識させない石畳の舗装によって歩いていて気持ちのいい空間でした。一方大手モール沿いには複数の商業施設が集積しているにも関わらず、人通りがあまり多くないようにも思えました。イベントを行っている際に訪れるとまた違った姿を見ることができるでしょう。

歩いていて気持ちのいい空間である大手モール

④グランドプラザ -中心部に整備された広場空間

 デパート大和の隣には広大な広場空間があり、グランドプラザと呼ばれています。両隣の建物を市街地再開発事業によって建設する際に道路付け替え等の手法を用い新たにねん出されたもので、道路でも公園でもない条例で定められた富山市独自の空間となっています。屋根付きの空間委はステージやモニター、椅子やテーブルが備えられており全天候型のイベントスペースとなっています。昼頃に訪れると飲食を行う人やモニターに写されたテレビを見ている人など様々な利用がなされている様子が見られました。しかし、土曜日の昼間の中心部としてはもう少し人出があっても良いように感じました。これはイベントを行っていない時間だったというのもありますが、この場所をどう活かしていくか、富山市の政策が期待されます。

広場空間として整備されたグランドプラザ

⑤キラリ -超個性的な再開発ビル

 旧北国街道と旧飛騨街道が交わる西町付近は、百貨店大和をはじめ商業施設が集積していました。しかし建物の老朽化が進展する中市街地再開発事業によって新たな建築物に生まれ変わることになりました。こうして2015年に開業したのがこの「キラリ」です。キラリは富山市立図書館、富山市ガラス美術館、富山第一銀行などが入居する複合施設で、国立競技場などを手掛けた建築家の隈研吾が設計を行いました。立山連峰の山肌を意識し地場のアルミや御影石を使用した外観デザイン、斜めに連なる吹き抜け空間、あえて美術館と図書館の空間を明確に分けないことなど様々な取り組みがなされた非常に特徴的な再開発ビルです。朝9:30のオープンと同時に訪れると大勢の中高生が自習室へと入っていく様子が見られたほか、図書館やガラス美術館を訪れる人々も多く、再開発ビルとして成功しているように感じられました。
 一方建築デザイン的に凝った建物であることは間違いないのですが、それがある意味で「分かりにくさ」を生んでいるようにも感じました。例えば前述の図書館と美術館をあえて混ぜた空間としたデザインは、初めて訪れた私はどこからが図書館で、どこからが有料の美術館なのか判断がつかず困ってしまいました。これまでの再開発ビルでは階により入居施設が分かれていることも多く、そうしたビルに比べキラリはどうしても「分かりにくく」なってしまいがちなように思います。空間を混ぜることの効果を活かしつつ、入口での案内を増やしたり、サイン類を充実させるなどの取り組みがあっても良いように素人意見ではありますが感じました。

キラリの特徴的な外観
建物内とは思えない広々とした吹き抜け空間

都市を歩いた感想

富山市の中心部は路面電車の整備や複数の再開発事業など想像以上に多くの取り組みが行われていて、富山市のコンパクトシティ政策への本気度を伺うことができました。ここまで中心部の開発に力を入れている地方都市も珍しいように感じます。一方でこうした取り組みが行われているにも関わらず、中心部の人通りは期待したほど多くはありませんでした。多くの取り組みが行われているにも関わらず現実が追い付いていない、そのように感じる場面もありました。しかし、中心部にこれほど多くの商業施設が立地し、路面電車に乗れば簡単に移動できる街は、今後の日本の都市の姿としてとても参考になるものでした。富山の姿に今後の都市開発の未来を想像した都市歩きでした。

参考資料

  • 「初めて学ぶ都市計画第二版」. 饗庭伸・鈴木伸治編著. 2018

  • 「図説城下町都市」. 佐藤滋+城下町都市研究体著.  2015

  • サムネイル画像提供: (公社)とやま観光推進機構



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?