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見ている人は みている

杖をついた方が、大通りをゆっくりと渡っていました。
片側2車線ずつの幹線道路。交通量も多い道です。
杖をつき、歩くリハビリをされているのかな、と思われる歩き方で、道のあちら側に向かって1歩1歩進んで行かれます。
でも、どう見ても、間に合わない。ようやく半分くらいのところで、もう、青信号が点滅を始めました。
時間は止まらず、歩行者信号が赤になり、車が動き始めました。その人をよける車、停車したまま待つ車、対応はそれぞれで、車列が乱れ、少し混乱したようにも見えましたが、どうやら、交通事故は起こらずに、その人は道の向こう側まで渡り切りました。

私は何もできずに、道のこちら側で、ただ見ていました。
何もできませんでした。

どうしたら良かったんだろう。
何か、できることがあったんじゃないだろうか。
それとも、何もしない方がいいのか。
答えは分からず、ずっと気にかかっていたのです。

そんな出来事があったのは、もう1年以上前のことだったと思います。

その時の横断歩道を渡ろうとして、見慣れないボタンが設置されていることに気づきました。

はじめて見ました。最初は、目の不自由な方のためのボタン?と思ったのです。でも、イラストに描かれているのは、杖をついている人と車椅子に乗っている人。

側面には

ゆっくり

と書いてありました。

おぉ!これはきっと、青信号の時間を延ばしてくれるボタンだ!と気づきました。そうです。ゆっくりのスピードで歩く人が、安全に道を渡るためのボタンです。
そして、あの日、車が少しばかり混乱する中、淡々と歩き続けていた方のことを思い出したのです。
あぁ良かった、と思いました。

どうして、この横断歩道に設置されたのかは、知りません。もしかしたら、この大きな幹線道路沿いに、順々に設置している順番が来ただけかもしれません。

でも、何だか、私以外にも、あの方の姿を見た人がいて、その人が何とかしてくれたんじゃないか、という気がしてしまったのです。いるのかどうか分からないけれど、この横断歩道を「なんとかしてくれた」その人に、「ありがとう」と言いたい気持ちになりました。

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