ノーメイク無双。
まずは、ぬるま湯で顔を洗う。
お肌の調子をみながら、スキンケアをほどこす。
ベースメイクに、アイメイク、気分を上げたい日はチークをのせて。
ブラッシングした髪に、温めておいたアイロンを滑らせて、艶を足して。
「こんなもんでどうでしょう。」
心の自分と対話、意見交換。
朝の所要時間、10〜15分ほど。
長らくこのサイクルをこなしてきた。
来る日も来る日も、顔をつくって、セットして。
バッチリメイクではない。ほどよいフルメイク。
出社して、顧客と面談しても差し障りない程度。
サラリーウーマンとして、義務ともいえるこの作業。
嫌で嫌で仕方なかった。
肌を何重にもこしらえて、必要以上に目の周りを装飾するのも、ぜんぶ。
「早くおばあさんになりたい!」と嘆いた。
お化粧なんかしなくてもいいように、早く歳をとりたかった。
だが、どうだろう。道ゆくおばあさんが身だしなみに疎いかというと、そうではない。へんぴな田舎で暮らしていた祖母でさえ、毎朝せっせとお粉を叩いていたではないか。たまに赤い紅をさして、スカーフを巻いて、さ。
うーん、こりゃ一生つきものなのかも、、。
文字通り、頭をかかえた。
メイクが嫌い、というわけではない。むしろ、好きだ。
朝、天気予報とお顔のチェックをして、服とのバランスを練る。頭のてっぺんから足元まで、トータルで今日をつくるのは楽しい。生活に寄り添えているようで、自分を褒めたくなる。
出先のお手洗いで鏡越しに顔を見て、安心する。
「ちゃんとしてきてよかった。」と。
いつもオシャレしてるあの子の隣にいても恥ずかしくないし、偶然昔の知り合いに出会しても、躊躇いなく声をかけにいける。
あるかないか分からないような出来事を想定して、事前に備える。
外出用のコンパクトなファンデーションに、お直し用のアイライナー、顔色がパッとする無敵のリップ。これさえ持ち歩けば、もう安心。
お化粧ポーチが、いつしか防災バッグに変わった。
・
今日、出先のお手洗いで鏡ごしに顔をみた。
さっぱりとしていて、化粧っ気がない。だって、ノーメイクだから。
戦闘力は0。誰か知り合いにでもあったら、「人違いです~」なんて言って、そそくさとどこかに消えてしまうかもしれない。
それでも、鎧を下ろしたくて。
専業主婦になって、フルメイクから卒業をした。
出向く場所によっては、それなりに施して臨む。必要に応じて、足したり引いたり。バッチリメイクだって、たまには楽しむ。
お化粧をすることで、「気分が上がる」「スイッチが切り替わる」という方は多いだろう。私もそうだ。
けれど、普段の生活にはいらない、と思った。必要ないし、求めていない、と。
いざってときに施して、身も心もひとつグレードをあげたい。そういうときに力を借りる。それがきっと私の希望で、理想。
東京のど真ん中で、私はノー武装。
綺麗にコーティングされた人たちに囲まれて、意気揚々と素顔をさらしている。
「なんだ私、やればできるじゃん。」
誇らしい気持ちになった。
鎧のない私は、きっと無双だ。
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