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勢いで参加した美術鑑賞イベントで、好きを分かち合ってみたら、とてもよかった話

2024年1月7日、ちひろ美術館・東京で開催された「目の見えない白鳥さんといっしょにちひろの絵を楽しもう」に参加した。

こういうことはタイミングだと思う。

全盲の美術鑑賞者・写真家である白鳥建二さんのことは知らず、美術館に行くのは年に1,2回、そしてちひろ美術館に行くのも初めての私。参加のきっかけは2023年12月にノンフィクション作家の川内有緒さんを知ったことだ。

川内さんは世田谷区の生活工房で開催されたイベント「どう?就活 自分と仕事の出会い方 vol.3」にゲストとして登壇されていた。この時の対談がとても心に残っていた私は川内さんの最新刊『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』を読み始めた。

その当時、この人の言うことがなんとなくおもしろく感じられ、気になっていた私は川内さんつながりならきっと何か自分の知らない世界がみられるはず、という気持ちですぐに申し込んだ。

参加してみたら、イベントの2時間でこれがよかった!わかった!と明確には言葉にできないけれど、何かの拍子にバチっとつながったり、気づきがありそうな予感がする体験になりました。


会場へ向かう

その場に足を運ぶまでにきっかけとなった川内さんの本を読んでいこうと、年明けからせっせと読み進めたけれど、読了には至らず。
定員5名のイベントに1人で参加すること、初対面の人と詳しくもない絵について話すこと、白鳥さんに会えること、自分は何か有益なことを感じることができるのか。色々な種類のドキドキを抱えて駅から10分ほど歩いて会場に到着した。

最初に通された部屋は展示室とは別で、窓が大きい三角っぽい部屋だった。落ち着く高さの椅子とテーブルがロの字に置かれたところに白鳥さん、参加者5名、美術館の方2名がそろい、お互いに自己紹介をしたあと、説明を受けた。

当日2時間の流れはこんな感じ。企画展である日本の絵本展で絵本作家さんの絵を2枚、そのあといわさきちひろさんの絵を1枚をみんなでみる。絵についてみえるもの、感じたこと、連想したことなど、それぞれが言葉にしたいタイミングで発言して、1枚の絵を20分ほどかけて鑑賞する。合計3枚の絵をみた後、部屋に戻り、30分ほどみんなで感想をシェアする。

説明の最後に白鳥さんから提案が1つあった。

「題名は最初にみないようにしてください」

題名をみると、どうしても先入観をもってみてしまうから。とのこと。

参加者は近隣の人、白鳥さんのイベントに参加経験がある人、ちひろ美術館が好きな人、仕事に関連して興味をもった人、そして川内さんの本から興味をもった人などきっかけや美術への関心具合はそれぞれだった。

私は特に芸術や画家に詳しくないので、その点はなんとなくほっとした。

事前に本を読み、個人的になんとなく心づもっていたことは以下の3つ

・同じ絵を見てもとらえ方が違う
・一つの絵を長い時間かけてみると見え方が変わってくる
・わからないものはわからないままでもよい

さて、いよいよ展示室へ。

さぐりさぐりの1枚目

自分のはじめの感想は「きもちよさそう」「まんなかに何か影?がある」というものだった。

他の参加者が次々に絵を言葉で描写していく、「馬かな、犬かな、まんなかに何か走っている」「麦が生えてる」「黄金色」「風が強そう」「なんで走っているんだろう」

最初、白鳥さんは絵の描写を「ふーん」といった感じで聞いていた。だんだんと参加者同士が真ん中に描かれているものが馬なのか、犬なのか、はたまた木の根っこなのか、あぁだこうだ言っているそのやりとりを、ラジオのように聴いて、ふふっとちいさく笑っていた気がする。

私はといえば、風が向かい風なのか追い風なのか、犬なのか馬なのか、なぜ走っているのか。どちらでもいいし、なんでもいいけれど~と思いながら話をきき、展示されている絵について、ここまで詳しく、解釈のように言葉を出し続けることに少々めんくらっていた。

1人で見ていたら、こういうことはほぼ考えないだろうと思う。

空の色がきれいで麦畑っぽいひろいところ、気持ちいいなぁ、なんか走っているのかな、この色好きだなくらいで終えていたはず。

みんなでみるおもしろさを1番感じた2枚目

次は4つの絵が上下2枚ずつ置かれていて、これをまとめて鑑賞するという。4つの絵はどれも抑えられた色味で「猫」「ちょうと花」「12時ぴったりの時計」「ティーカップと少女」がそれぞれ描かれている。背景は特にない。

色合いから受ける印象が人によってかなりちがった。グレー、ブルーグレーをメインとし、色味を抑えたトーンに少し怖さを感じるという人、アンティークのような美しさを感じる人、私はクール、寂しげな印象を受けた。

抑えられた色味から寂しい印象を受け取った私は、ティーカップを目の前に目を伏せている、閉じているように見える少女が怒られているような状況を想像した。

ある人はこの少女は紅茶を飲みながら本を読んで、自分の世界に没頭していて、満ち足りていると思いを巡らせ、ある人は紅茶に砂糖を入れるところなのかもと言った。まったく違う捉え方のこのやりとりがとてもおもしろかった。

同じ絵を目の前にそれぞれが物語を紡いでいる。
人がみているものは、その人の経験や価値観がベースになっているってこういうことなのかもと感じた。

日々の生活、景色、誰かの言葉、本、映画、音楽、もうなんでもそうじゃないか!と軽い衝撃をもった。人によって受け取り方が違うなんて、言葉としては分かっていたけれど感覚として受けとった。

この絵の独特のトーンについてひとしきり話したあとは、これが絵本の展示であるからには何かストーリーとして4枚が関連づけられるのかという話に移った。

なんとなくの着地点は4枚とも、何か動きがある一瞬前をとらえている絵なのでは?というところだった気がする。

ちなみにイベントが終わってからこの展示へ戻り、解説を読むといい線までいっており、ほぉ~と思った。

3枚目はちひろの絵

最後はちひろの展示室へ移動し、みんなで楽しみたい絵を参加者が選んだ。選ばれた絵は「この部屋で一番抽象的、ぼわっとしている絵」。
確かに、背景がぼわっとした色で、1人描かれている女の子がどういう状況なのかはよく分からない1枚だった。

描かれている花は何か、題名にある花とは違って見える、女の子の目がまっすぐこちらをみていて、なんとなく見透かされている気持ちになる、背景のぼわっとしているところは意図した形ではなく、水彩の水の加減でできた形ではなかろうかなど、色々な方向で話が交わされた。

表情を作る役割は白目が大きいから、黒目だけ描かれたこの絵はなんとなくこちらを見透かされている気になるのかもという話がおもしろかった。

そしてなんと、絵の題名は必ずしも画家がつけたものとは限らないという話を聞き、とても驚いた!特に、絵本やカレンダーなどに使われる挿絵などはそういうことがあるらしい。

あっというまの2時間

「みなさん、白鳥さんそっちのけで楽しんでいましたね」

美術館の方にそう言われるほどのいきおいで言葉を交わし、あっというまに時間がすぎた。

▼どういう「あっという間」だったか
最初の部屋に戻ってから30分ほどの感想のやりとりがたまらなく楽しかった。もしもお茶とお菓子があって、あとはどうぞご自由にとされたら、どこがおもしろかったか、何に驚いたか、など感じ方の違いを改めて話し、しばらくこの体験を一緒にふり返りたかった。

見えたもの、感じたことを口にして伝えて、それぞれがお互いの捉え方が違うことを感じていた。みんな違うということを言葉としてはわかっていたけれど、それをまさに体感することができた。

▼これまでの鑑賞とどう違うか
絵の鑑賞は誰かと行っても、あまりしゃべらず静かにみるもの。その場では1人で味わって、あれこれ感想を述べるのは会場を出たあとにするものだと思っていた。美術館からはお願いされていないのに、皆そういう思い込みがあったことについてはみんなでうなづいた。

感じたことが自分だけのものだと「ほぅ」となり、それを言葉にして笑ってもらえたり、「あぁそれもあるかも」と同意を得たりするとうれしかった。
まったく逆の受け取り方や別の解釈をきいて、「そこまで読み込むのか」とびっくりしたり、その場では受け取りきれなかったりもした。

▼白鳥さんと一緒に絵をみるということ
白鳥さんにこれはどんな絵なのか、言葉で描写し、説明しているうちに、自分がそれを犬と見ているのか、青ととらえているのか、どんな雰囲気をうけとっているのか、なんでも自分フィルターがかかる。白鳥さんがそこにいるということでそのフィルターが確かにあり、しかもそれは人それぞれだということを体感できた。

▼絵をうけとる時間
1枚の絵を20分ほどみるという体験は参加者ほぼ全員が初めてだった。みる時間以上の時間をかけて描いている絵だから、それと同じくらいの時間をかけて、その絵に込められたものを受け取るという考え方、自分にはない視点だった。ご飯を作るのは時間がかかるけど、食べるのは一瞬ということと似ているなと思った。手間暇かけてつくったものは味わって食べてほしい。

▼コンディション次第
同じ絵を観ても自分の状況、体調、経験でみえ方が違うことがある話をした人もいた。だから、何度みても楽しめる、とにかく観られる時にみておくと言っていた。これは音楽も似ているなと思った。

▼感想をシェアしてみたら
同じ体験をした人と感想をシェアすることがとても楽しかった。自分ができたこと、やってよかった時はそれだけでも幸せだけど、それに加えて、交換しあいたい欲ってあるんだなと思った。共有、共感、分かち合うとかそんな感じ。

はっきりとした言葉では覚えていないのだけど、ハッとした参加者の言葉がある。

「音楽・文章・美術、どれもどう感じるか、どう受け取るかはとてもパーソナルな営みで、同時進行で捉え方や、ここいいよね、この感じが好きということを分かち合うことは贅沢なんだなと思いました。」

それに対して白鳥さんが美術(絵)は対象が止まっているからそれがやりやすいと言っていた。絵だからこそ同時にみられるのか!と、すごく合点がいった。

確かに音楽を聴きながら、ここ、好きなの!この和音が気持ちいいの。このメロディーがあれみたい、なんてなかなか言わないし、言いながらは聴きづらい。

文章も同じものを同時に読んで、ここのこの言葉いいんだよな、この言葉の使い方が…なんてことを分かち合うことはなかなかない。

新たな贅沢を知ったことがうれしくも、まだしっくりきていないまま、この感じをお届けしました。


今回みんなで楽しんだ絵

1枚目 絵本:めざめる 絵:阿部海太
2枚目 絵本:まばたき 絵:酒井駒子
3枚目 いわさきちひろ 野菊と少女


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