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毎日全力で腕を振り続けて、悔しさを幸せに変えていく

2019年9月21日、巨人戦。

2対1で迎えた9回表、マウンドにはヤスアキ。
2アウト2ストライクまで追い込み、勝利まであと一歩というところで2者連続フォアボール、小林のタイムリーで追いつかれる。
延長戦に入り、10回表は三嶋が登板。増田にタイムリーを打たれ逆転を許し、そのまま反撃もできず、巨人の胴上げを目の当たりにした。

何度も何度も近づいて、それでも掴むことのできなかった「優勝」。
選手たちの悔しさはいかばかりか。
前年まで巨人にいた中井は号泣していたというし、何よりヤスアキ・三嶋のベンチでの表情が忘れられなかった。

それから3日後の、9月24日。

私は早朝の新幹線で名古屋に向かっていた。
中日戦のチケットを取ったのは直前だったけど、それでもまさか「CSハマスタ開催を決められるかどうか」という試合になることは想像していなかった。

9月下旬にも関わらず、名古屋はまだまだ暑かった。
昼前に熱田神宮へ参拝してベイスターズの勝利を願い、近くの「あつた蓬莱軒」は待ち時間が長すぎて入れず、栄で味噌煮込みうどんを食べた。

早めにナゴヤドームに着いたけど、シーズン終了間際だからかグッズショップも品薄ぎみ。16時過ぎには入場して、レフトスタンドから練習を眺める。ナゴドは全体的にビジターの試合前練習が見やすくて楽しい。

スタメン発表で、にわかにレフトスタンドがざわついた。1番レフト中井。そういえば桑原と一緒に外野フライ捕る練習していたけど、まさかの起用。
よもやと思って速報アプリを開くと、ベイスターズのスタメンは「真っピンク」、すなわり右打ちの選手だけで固められていた。

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中日の先発は左腕のロメロ。中井を外野にしてまで右打ちで固めたラインナップに、ラミレス監督の本気を感じた。

初回からベイスターズ打線の調子は良く、ロペスのタイムリー・宮﨑のホームランで4点を奪い、ロメロをマウンドから下ろした。
先発の大貫も1回裏に福田のホームランを許しただけで、5回・75球・被安打1・失点1と素晴らしいピッチングだった。ルーキーでこれだけの重要な試合を任されるプレッシャーは大きかっただろうけど、見事に試合を作ってくれた。

2回から両チームとも得点には至らず、6回裏のマウンドに立ったのは三嶋だった。登板するなら7回かなと勝手に油断していたので、あわてて三嶋タオルを取り出し掲げる。

期待とは裏腹に、前日に公開された「FOR REAL」の一節が脳裏によぎる。

三嶋は打たれた。
さらに翌日の9月21日も三嶋は打たれた。ジャイアンツのリーグ優勝をその眼前で決められた。

今日こそは、今日こそは悪い流れを断ち切ってほしい。

石垣を見逃し三振、大島をセカンドゴロに抑えたところまでは良かった。次の京田をフォアボールで出し、福田にはライト前のポテンヒットを許した。2アウト1・3塁でビシエドを迎える。
ライトスタンドからビシエドのチャンステーマが響く。対戦相手ながら、個人的には大好きなメロディーだけれど、恐ろしさの方が上回る。
一発出たら同点というシチュエーションで、とにかく祈るようにしてマウンドを見つめていた。打席の内容はよく覚えていないけど、ビシエドのバットが大きく空を切って、ほっと胸を撫で下ろした。マウンド上の三嶋もバックスクリーンに向かって吼え、堂々とベンチに戻っていった。

この時点で25球。1イニングを抑えるには球数を要している。
かつ三嶋にとってはこの日がシーズン71登板目。ベイスターズファンの多くが登板過多を心配していたし、そんな内容の記事もよく見られた時期だった。本人は「幸せ」だと言うけれど、これだけの試合数であんなに全力で腕を振り続けていて大丈夫なのか。心配は尽きなかった。

あと3イニング残っている。エスコバー、ヤスアキ、その前に7回は石田がくるかな。そんなことを考えている間に、打線は再び勢いづき、佐野と柴田のタイムリーで点差を6に広げた。

あれ。
ベンチ前で、三嶋が裕季也とキャッチボールしている。

珍しい組み合わせに驚きつつ、不思議と「これ以上酷使しないで」という思いは消えて、むしろ清々しい気持ちにすらなった。もうここまで来たら、行けるところまで行ってほしい。これだけ大事な試合を回跨ぎで任されていることを、思い切り楽しんでほしい。

7回裏。三嶋はそのまま2イニング目のマウンドへ。
周囲やベイスターズファンの心配を跳ね除けるように、高橋周平・阿部・平田という強力打線をあっさりと三者凡退に切った。三嶋は右の拳を控えめに握ったままベンチに戻る。レフトスタンドからの大きな大きな三嶋コールが忘れられない。

ベイスターズはそのままリードを保ち、7対1で勝利。初のCS本拠地開催を決めた瞬間を、現地で迎えることができて本当に嬉しかった。めったに外で一人飲みすることなんてないのに、そのまま栄でひとり祝杯をあげた。

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スポーツを観る者として、また指導する者として、「試合の結果は全てのプレーの積み重ねでしかない」ということを常に忘れずにいようと思っている。
勝敗を決定づけるような印象的なプレーがあったとしても、それだけが試合の結果に影響を及ぼしていたわけではない。野球なら表裏あわせて18イニング、54アウトの結果が最終的な勝敗となる。だれかひとり、いずれか1プレーに責任を問うようなことはしたくない。

ただ、プレイヤー本人はどうしても「あの時ああしていれば」と考えてしまう。私自身、プレイヤーとしても長年タッチフットボールをやってきて、忘れられない悔しい瞬間がたくさんある。

そして私たちはややもすると、うまくいかないことや悔しいことがあったとき、他の何かで埋めようとすることがある。今日の仕事はうまくいかなかったけど、趣味を楽しんで昇華しよう、とか。
もちろん仕事とプライベートでバランス取りながらメンタルを保つことも大切だけど、一方で「仕事で失った信頼は仕事で取り戻すしかない」という考え方もある。後者の方がよっぽど大変だししんどいけれど、ここを乗り越えるとビジネスマンとしての筋力が鍛えられるように思う。

前掲の記事で、三嶋はこのように語っていた。

「いい投球が出来なかったときは疲れますね。アタマを切り替える作業が必要ですから。逆に疲れがとれるのは、しっかり抑えてマウンドを降りてくるとき」

投球の疲れは投球で癒す。打ち込まれた試合があったとしても、次の試合で結果を残して、信頼を取り戻す。

とくに野球におけるリリーフというのは短時間で結果を出すことが求められ、ピンチを救うこともあれば、味方の勝ちを守りきれないこともあり、非常に振れ幅の大きいポジションだと思う。

毎日のように肩をつくり、プレッシャーと戦い続ける。打たれても、また次の日に試合が待っている。
それでも真正面から野球に向き合い続ける選手たちに、私たちは心打たれ、また明日も応援しよう、という気持ちにさせられるのだと思う。

三嶋も紛れもなくそんな投手のひとりだし、今年もガラスの割れる音をBGMにリリーフカーで現れ、飄々とした表情の裏にある勝利へのこだわりをマウンドで存分に表現してくれるはずだ。

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三嶋選手、お誕生日おめでとうございます。
誕生日記念のタオルを買ったものの、残念ながら今年は現地で掲げることができませんでした。来年こそはタオルの出番が来ることを願っています。
そして、今年も思い切りマウンドで暴れてください!

*中日戦翌日にアップしたインスタ。この投稿をさくっと膨らませて記事にしようと思い書き始めましたが、想定以上に長くなってしまいました。笑

*ちなみに当日持っていたボードはこちら。周りに座っていたベイスターズファンの皆さんがこのボードを小道具にして写真撮ってくださったのが、とても嬉しかったです。ありがとうございました!


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