見出し画像

NounsDAOから考えるDAOは人類には早かったのか


ブロックチェーンの世界における「DAO」

DAOはDecentralized Autonomous Organizationの頭文字をとったもので、そのまま日本語に翻訳すると「自律分散型組織」です。
ブロックチェーンの世界では、

  1. 共通のFT(ファンジブルトークン、いわゆる普通のトークン)またはNFTをWalletに持っている人たち(以後「DAOメンバー」)で構成され

  2. ブロックチェーン上に誰でも見れる形でDAOに所属するTreasury Walletがあり※会社の銀行口座がいつでも誰でも見れるような状況

  3. 個々のDAOメンバーがTreasury Wallet内の資金の用途として何かを提案し、この提案DAO内の投票で可決されるとTreasury Walletから自動的に資金が移動する

仕組みを「DAO」と呼んでいます。
上記の性質上、DAOはもともと共同投資的な用途で始まりました。トークン/NFTの購入資金がTreasury Walletにプールされ、投資対象をDAOメンバーが提案し、DAO内で可決されたら当該投資対象のWalletに資金が拠出される、投資によりリターンが出たらDAOメンバーにも分配される、というような仕組みです。

※ちなみに2016年にEthereumがハードフォークするきっかけとなった「The DAO事件」は「The DAO」という投資DAOのSplitという機能の実装にバグがあり、資金が抜かれたことに起因する事件でした。

2021年の「Web3」ブーム以降、〇〇DAOと呼ばれているもの、自称しているものは増えていますが、上記の要素のうち1(同じFTやNFTを持っている人たちで構成されている)しか満たしていないものが多い状態です。DAOというよりは、「同じNFTを持っている人たちのdiscordにおけるサークル活動」に近いのですが、とはいえこのサークル活動もNFTがなければ生まれなかったものです。
私はこのサークル活動を持続的に続けていくためにはどうやってDAOの要素の2と3、つまりお金を拠出する要素を入れていけばよいかを研究していました。

という中で、遅まきながらNounsDAOを8月上旬に知り、これは一つのDAOの理想なのではと思っていたところ、「フォーク」が起きてとても興味深い、というかたいへんな展開になっています。

NounsDAOとは何か

NounsDAOとは、NounsというNFTを持っている人たちで構成されているDAOです。
NFTのNounsは2021年8月8日から1日1体が自動的に生成され、オークションで販売されています。
Nounsは顔の形が[200]種類程度、メガネも[200]種類、胴体も[200]種類、胴体の模様も[200]種類程度で毎日ランダムに組み合わせが決まるいわゆる「Generative」の形式をとっています。
2021年8月8日から毎日発行されているので今(2023年9月24日)は855個目をオークション中です。

2023年8月1日に生成されたNoun(NFT)

2023年8月1日時点で、NounsDAOのTreasury Walletには28,896ETHが入っていました。$53,496,037、日本円にして70億円程度・・・!(1ETH24万円換算)
796個で70億円なので、NFT1個あたり平均して871万円で売れていたことになります。
※2023年10月1日追記:2023年8月1日時点でのトレジャリーは28,896ETHで、発行済みNounsNFTは797枚、NounsNFTのうち71枚はNoundersなのでオークション無し、つまりオークション落札分は717枚。
ここの時点のトレジャリー28,896ETHは「いろんなプロジェクトのために使われた後」なので、実際のオークション落札額の累計は、717枚の落札額の合計分で49,654ETH今の価格で約117億円、それをオークション落札分(717枚)で割ると69ETH、約1600万円。とCharonさんに教えていただきました!

2023年8月1日時点のNounsDAOのTreasury Wallet

NFTのNounを2個以上持っていると集まったお金の使い方を提案でき、Noun保有者は1NFT=1票で賛成か反対か投票し、一定以上の賛成が集まると、提案者のアドレスにTreasury Walletから資金がTransferされます。
過去に提案され、実施されたプロジェクトは例えば以下
NYのTimes SquareにNounsの広告を出す:これはUS$16,000の予算を要求していて、実際にこちらのTransactionで資金移動しているのが確認できます。
予算については何にいくらかかるのかを説明していることがわかります。(NFT NYC Billboard掲載料: $15,000 (50%ディスカウント後)、写真&映像撮影する人への支払い: $600、映像編集代金: $400)

NYのTimesSquareのNouns広告

日本人のNouns保有者によるプロジェクトも通っています。
Nouns Running Club:これはUS$52,650の予算を要求していて、実際にこちらのTransactionで資金移動しているのが確認できます。
※Nounsについて私に教えてくれたShutoさんたちのProjectです。

Nouns Running Club

現在までに386個のProposalが行われています。
実際に可決されたプロジェクト(他にも世界中のイベントでNounsを紹介する!とか、スケートボードパークにNounsメガネのオブジェを置くとか)を見ても、もともとのコンセプトはNounsというCC0で著作権フリーのキャラクターを使って、楽しいことを自由にやってね!というものであると考えられます。

NounsのFounderたち

NounsDAOのFounderはNounderと呼ばれています。
@cryptoseneca、@supergremplin、@punk4156、@eboyarts、@punk4464、solimander、@dhof、@devcarrot、@TimpersHD、@lastpunk9999の10人です。
発行されるNounsNFTの10体に1体(1の位が0のNoun)は自動的にNounderにTransferされる仕組みになっています。なので、議決権の10%はNounderが持っています。
過去、Nouns40はNounderのひとり、eboyartsが200ETHで売却しているようですが、それ以外はNounderによるNounsの換金はないように見えます。
Noundersは本PJを儲けるためではなく、一種の社会実験としてやっている、というようにNounsDAOでは理解されていました。
実際にNounderの意向でDAOが動いている、というような印象も持たれていないようでした。(作ったSatoshiがいなくなったBitcoin的ですね)

Nounsのフォークと現在の状況

私がちゃんとNounsを学んだのは2023年8月頭で、投機的ではない目的でちゃんとスマコンベースに続いているDAOですごい!LocalDAOもこの仕組みを学べるのでは?と思い諸々リサーチしていたのですが、NounsDAOも市況の影響は避けられず、今「フォーク」で大きく揺れている状況です。

そもそも、NounsNFTの価格は2021年には155ETHで落札されたこともあり、ながらく50-100ETH程度で推移してきていたのですが、2022年の12月ごろから落札価格が30ETH代になってきていました。

NounsNFTのオークション価格の推移

ここから何が起こったか、についてはPajiさんの解説がとてもわかりやすいのでそのまま引用します。
要は株式で言うところのPBR1倍割れ(株価<1株当たり純資産)になっており、株を買ってすぐ会社が清算すると儲かるという状況になってしまい、清算を迫る人たちが出てきて一部清算した、というような話です。

<引用ここから>
このトレジャリーウォレットにプールされた30,000ETHをNFT発行数で割り、他のDAOでも行われている”Rage Quit”によって清算をかけると、市況が落ち込んだときのオークション落札額と清算額において、アービトラージを発生させることができ、ここに目をつけたアービトラージャーが利ざやを狙って、NounsDAOの”清算期待”の派閥を形成していいくことになったのです。

この派閥にとって、トレジャリーウォレットに溜まっているETHは、清算額を減らすことに繋がるあらゆる提案に対して”反対票”を投じて、NounsDAOの活動は2023年初頭から半年近く停滞することになったのです。

この事態の収集のためにDAO内で生まれた解決案が、オンチェーン上でのフォーク機能と”Rage Quit”の組み合わせでした。紆余曲折ありながらも、この機能がオンチェーン投票によって可決され、第1回目のフォークが行われることになりました。

結果、過半数を超えるNounsとトレジャリーウォレットが”清算期待”の派閥のほうにフォークしていき、すでに大半のNounがバーン(償却)され、約35ETHの清算金を受け取り離脱することになったのです。

本流のNounsDAOでは、Nounsの長期的ビジョンを信じる約380体のホルダーと、13,000ETHのトレジャリーウォレットが残り、改めて再始動をすることになりました。
<引用ここまで>

ということで、今はNounsDAOのページにいくと、Treasuryにはフォーク後の13,525ETH(32億円程度)しかありません。
そして直近のNounsNFTの落札価格は20ETHを下回っており、20%の賛同があればForkする、というもともとの閾値を10%に変えるという提案もされており、再度フォークが起きる可能性もある、という状況です。

2023年9月21日のNounsNFTのオークション結果

OpenseaのセカンダリーのBestOfferは今(2023年9月24日現在)14.3ETHです。

OpenseaのNounsページ

ForkのあともNounsがしてるメガネ(Noggle)を実物で作るという日本人の方のProjectが可決されたりしています。これは35ETH受領して、メガネが全部売れたら40ETHの売り上げがあがるプロジェクトです。これはとてもわくわくしますね・・・✨

「Noggle Changer」の試作品

NounsNFTホルダー(Pajiさんの提案も素晴らしいですね)、Nounder、そしてアービトラージャーたちの利害関係が異なる人たちが今後どう動くのか、ちょっと心配しつつ見守っています。

NounsDAOから「DAO」が学べること

NounsDAOのフォークを受けて、すべてをスマコンで動かすDAOはまだ人類には早かったのでは、というコメントも出てきています。
確かに、NounsDAOが今後も以前と同じように楽しく運用されるかというのは定かではありません。
しかし、以下の形を実現し、グローバルのメンバーで楽しいプロジェクトを生み出し続けた実績は間違いなくあり、NounsDAOはDAOの可能性を示している事例だと考えられます。

  1. 共通のFT(ファンジブルトークン、いわゆる普通のトークン)またはNFTをWalletに持っている人たち(以後「DAOメンバー」)で構成され

  2. ブロックチェーン上に誰でも見れる形でDAOに所属するTreasury Walletがあり※会社の銀行口座がいつでも誰でも見れるような状況

  3. 個々のDAOメンバーがTreasury Wallet内の資金の用途として何かを提案し、この提案DAO内の投票で可決されるとTreasury Walletから自動的に資金が移動する

では何が足りなかったかについて、完全に私見ですが以下二つを考えています。
①DAOの目的
NounsDAOのFounderであるNounderたちがNounsDAOで何がしたかったのか、目的がやや具体性を欠いていたように思います。
Nounsのキャラクターはかわいいですが、HolderもNounsがかわいいからというよりはDAOの体験をするために購入した人が多いのではないでしょうか。DAOはあくまでツールなので、本来何かの目的を達成するために使えたほうがよさそうです。

②DAOメンバーに対するリワード
NounsDAOでProposalが通った人は簡単に数百万~数千万円もらえていいなーとちょっと思っていましたが、Proposalの内容を見ると実費分を請求しているだけなのでおそらく儲かってはいなさそうです。
(私も過去DAOでProposalが採用され資金をもらったことがありますが、実費が想定より多くかかり赤字でした。)
という中では貢献した人への何らかのRewardは金銭でなくても必要ではないでしょうか。
また、比較的安定的に運用されているDAOであるInvestment DAOは投資によって得た利益をDAOメンバーに分配しています。Investment DAO同様にProposalをしたメンバー以外もRewardがもらえる仕組みがあるとDAOの安定のためにはよいのだと思います。
しかしそのためにはDAOの活動による外部からのCash inが必要になります。投資DAO以外でこの形が実現できるかは未知数です。
※Pajiさんは「NounsDAOとして、Uniswap / AimbotなどDeFi領域におけるようなオンチェーン上の自動的なサステイナブルな事業収益モデルを構築し、日々トレジャリーウォレットの財源が増えていく仕組みを優先する」ことを提案されていますね。「運用」も最近のDAOでは多いようです。

【おまけ】DAO as a toolを用意中

私は暗号資産&ブロックチェーンを扱うことを業務として行う株式会社bitFlyerに会社員として2016年から所属していて、「Why Blockchain(それ、ブロックチェーンでやる意味あるの)」とか、「もっぱら投機に使われていて社会的有用性がない」とか言われ続けてきていますが、ツールとしてのDAOはいくつかの用途でとても有用なのではと思っています。(すでに実績があるDAOの有用な用途の一つは投資ですね)
個人の趣味としてですがDAO as a tool的なものを何人かで準備しているので、どこかで紹介できるようにがんばります🔥


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?