【番外編】各種ツイートを見て-2-


 こんばんは、そふぁーです。
 今回は、巷にあふれるツイートを色々と拝見し、勘弁して頂戴と思った内容などを特に訂正していきたいと思います。

 上記でも色々と書いていますが、概念的な部分が多いですので、今回は「ワード」ごとに問題を潰していこうと思います。

Q6. IBD を治すためには AhR リガンドを食べればよいんでしょ?薬いらなくない?

Ans. 全くの間違いです。

 上記でも紹介してありますが、AhR というのは良い面と悪い面の両方を持っています。そもそも、AhR (芳香族炭化水素受容体) とは、ダイオキシンなど環境化学物質の毒性発現に関与すると言われてきた受容体(物質を認識する鍵穴のようなもの) です。
 当然ながら AhR のリガンド(鍵穴に刺さって、ぴったりはまる鍵のようなもの) は、ダイオキシン類など多くの物質があります。4/9 の記事にある様に、弱いリガンドでは炎症を誘導し、強いリガンドでは炎症を抑制できますが、そもそも論として 5-ASA (ペンタサ、アサコール、リアルダ) が AhR のリガンドであり Treg という炎症を抑制する細胞を誘導する事が報告されています。要は、AhR リガンドを食事から取れば良いというのは暴論で、リガンドにも良いリガンドとそうでないものがあり、しかも大量に届ける必要があるため、5-ASA で十分なわけです。

『AhR リガンドは、そもそも 5-ASA が該当している』
『リガンドなら何でもよいわけではなく、少量で効果があるとする論文は存在しない』

Q7. IBD はビタミンDを摂取が効果的!

Ans. 語弊があります。かつ、V.D は血液検査で欠乏しているか分かります。

 まず、IBD 患者の中に V.D 欠乏群が一般よりも多い事は事実ですし、そうした患者さんに対する V.D 補充療法は既に行われています【1】。しかし、V.D はバランスの良い食事をしている限り、簡単には不足しない栄養の1つです。具体的には、我が国の V.D 摂取に関する目安量 (このくらい摂取すると良いよ!という量) は 8.5 µg /日です【2】。これがどの程度かというと、卵の黄身1つで…⇒(修正:黄身1つの V.D は 1 µg 程度でした。申し訳ありません。)しらす大匙2杯ほどで、6割弱摂れます。しかも、約15分程度日光に浴びれば体内で作られますので、毎日頑張って摂取する必要もありません。特に、V.D は脂溶性といって、体内に蓄積しやすいビタミンなので、過剰に摂取する事は注意が必要です。
 一方で、IBD 患者さんは過剰な、あるいは自己流の食事制限により、食事のバランスが崩れていることも指摘されています【3】。つまり、適切な栄養指導を主治医-管理栄養士から受けることで、こうしたリスクを予防する事が可能だと言えます。

『V.D は簡単には欠乏しない』
『IBD専門医を介して、管理栄養士による栄養指導が肝要』

Q.8 IBD は亜鉛の摂取が効果的!

Ans. 亜鉛欠乏は血液検査で分かります

 確かに亜鉛欠乏は、日本人に多く、IBD でも重要な因子です【4】。従って、IBD 専門医らは患者さんの亜鉛を時には検査し、ノベルジン®やプロマック®の処方を考慮すると思います。ただ、医薬品による亜鉛の補充は慎重に行う必要があり、補充を始めれば定期的に銅を測定しなければなりません。
 というのも、亜鉛と銅は、体の中でバランスを取っています。亜鉛が多くなれば、銅の排泄が多くなり、バランスが崩れてしまうのです。従って、欠乏しているならば医薬品での対応も可能ですが、通常の場合は「バランスの良い食事」で十分と言えます。

『亜鉛欠乏が気になる場合は、主治医と相談し、検査も可能』
『亜鉛の補充は万能ではない』

Q.9 食事療法で IBD は治る!

Ans. 嘘です

 ツイートでも説明しましたが
独自の食事療法で IBD が治る  ことと  ・独自の食事療法中に IBD が寛解、軽快
 には、雲泥の差があります。極端にいうと、プラセボでも効果は出るんです。

 ここでも少し説明していますが、偽薬(プラセボ)群でも寛解導入に成功している方はいます。また、少数ではありますが偽薬で寛解維持する方もいます。つまり「何もしなくても寛解導入、維持される人が少数いる」のです。独自の食事療法により寛解導入されたのか、独自の食事療法をやってもやらなくても寛解導入できたのか、これは分かりません。だからこそ、きちんとコントロール群を設定して、臨床研究を行い、論文化する必要があるのです。
 『ある人にとっては治ったんだから良いだろ!
 という声も、散見されます。これは非常に問題で、あたかも根拠のない治療法が奏功したかのように見せることで、本来通常の治療を受け、より高い確率で寛解導入・維持に成功するはずだった人を、プラセボと同等の群に組み込んでしまう怖さを考えたことはあるでしょうか。
 自分にとって良いことを考え、実践する事と、それを発信して公共に出すことは大きな差があることを考える必要があります。

『何らかの行動に因果関係があるかを適切に調べるのが論文の主旨』
『医療情報をネットで発信・収集することのリスクを正しく把握する』

中締め

 IBD は非常に誤解を受けやすい分野です。
 というのも、食事制限が必要な分野というのは、本当に多くのデマや誤解に振り回されます。また、完治を医療が謳えない分野も、同様の傾向が見られます。
 IBD は、この2つをしっかり兼ね備えてしまっているのです。そのため、少なくない非医療従事者が教育を受けず、自分が好ましい論文だけを見たり、デマ医療を広げようとしたりしてしまいます。さらに、医療従事者の中にもデマに加担し、暴利を貪る連中がいることに強い遺憾の念を示すと共に何らかの規制措置が必要である事は医療界内で議論されている点も併せて申し上げます。
 患者本人が、それをやることを私は咎めたくありません。なぜなら、それは自分の選択であり、納得の上での行動だと思うからです。
 しかし、患者の家族がやるのは絶対的に間違えています。それは独りよがりなエゴであり、専門医を介さない非標準的な治療によって患者さんが被る不利益を、家族は背負うことが出来ません。

 ただし、これらの背景には多忙を理由に、きちんとした説明を欠いてしまった医療側の責任も少なくないと言えます。と同時に、医療を切迫させた行政の不作為や、国民の無理解も議論しなければなりません。
 デマ医療との戦いは、潰せばよいというものでもなく、国民の医療リテラシーを高めればよいというものでもなく、医療-行政-患者-社会の全てが良い方向を向くべく努力せねばならないものです。
 私も含め、ネットの知識を鵜呑みにせず、適切な専門家と信頼関係を構築する事が治療への最短ルートであることを強調したいと思います。

参考文献

【1】Guzman-Prado Y. et al. Inflamm Bowel Dis. 2020 
【2】厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020年版). 2020
【3】Vernia P. et al. J Crohns Colitis. 2014.
【4】Kodama H. et al. Int J Mol Sci. 2020

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