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【短歌30首連作】紙飛行機を放って

(2023年3月26日追記)有料から無料にしました。

2022年7月1日から1週間配信していたネプリ「紙飛行機を放って」をここに再録します。
人生初の短歌30首連作ですが、短歌研究新人賞の佳作になったものです。

人々の爪や睫毛がそれぞれに光り行き交う上京の春

女子寮の開けっ放しの玄関に門番代わりの犬の置物

真夜中の電子レンジに閉じこもり光って回るひとりで回る

故郷なんか燃やしてやると豪語して虚勢で頼むカシスオレンジ

幾重にも酔芙蓉吐き出すきみを放っておけず片手で打った

帰る場所なんてないふり 川沿いのガードレールにもたれてふたり

「光るんだ、あんた」ぽつりと舐めた口きくきみと友達になった日

三角のティーバッグばかり浪費してずっと語った真善美など

肉体があるのを忘れがちだった時代、石ころばかりを愛でた

圧倒的成長なんか信ぜずに耳に貝殻おしあてて聴く

「馬鹿にしたような目つきがいい」なんて言うと「馬鹿にはしているから
ね」

ファインダー越しに覗けばきみでさえキリンみたいに優しくなれた

白木蓮の花びらほどの重さだけ眠い目をして袖を引かれる

坂道や階段ばかり憶えてる きみといた日の記憶の角度

真っ直ぐに伸びる背筋の傷跡に触れないままで雲は流れて

ニヒリズムさえも拒否してぬばたまのアイライナーで目を吊り上げた

「女の子二人でそんな遠いとこ」きっと行けるよ、どこまでもきみと

伏せた目のシャドーは夜明けの地平線 紙飛行機を放ってみたい

学校の窓ガラスみな降ってこい まぶたのうつくしい人のため

「これが愛、これが愛だよ」雨なのか心臓なのかわからなかった

舌先で触れるあなたの輪郭につねに微風が吹いてかなしい

胸に耳寄せて聴き入る 湖底から陽の差す方を見上げるように

向かい合うほどにあなたの面差しがほどけて怖い「ねえ、夜が明ける」

頼むから星になるなと叫んでも窓辺の影で分け隔たれてまた会えるみたいに

「じゃあ」と言ったけど、明るい窓は明るかったな

名を呼ぶと死ぬ生き物のようにすぐ舌に載せれば融ける半月

広げれば七色のさざ波のよう サランラップに日差しを包む

六ページめくればいつも地下水のようにあなたの指先の影

洗い髪なびかせながら手を伸べる夜風の銀の部分にそっと

遠いあなたの欠伸なんかも知らないさ 勝手に生きて勝手に死ねよ

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