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BTSの軌跡: 原爆Tシャツ騒動 その前に知っておきたいこと

2018年当時、この騒動をきっかけにMステの出演がキャンセルになったという話はネットニュースか何かで見た気がするのだが、BTSはおろか日本のテレビ番組にも興味のなかったわたしは完全にスルーしていた。

11月9日放送の音楽番組「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)で、韓国のヒップホップアイドルグループBTS(防弾少年団)の出演が急遽キャンセルになった。8日、番組の公式サイトで発表された。同グループをめぐっては、メンバーが「原爆投下を肯定している」Tシャツを着ていたと一部メディアなどで報じられ、ネット上で大きな波紋を呼んでいた。問題視されたTシャツは「ourhistory」というブランドの商品で、原爆が落とされた直後のキノコ雲の写真と、万歳をする人々が写っている写真がプリントされていた。

https://www.huffingtonpost.jp/2018/11/08/bts-music-station_a_23583660/

わたしは、日本の大好きなところも嫌いなところもあるごく平凡な日本人。(国を全肯定すること=”愛国心”だとは思っていない。批判すべきところは批判してより良くなって欲しいと思っています。)現在はアメリカに住んでいる。そんなわたしが2020年にBTSを大好きになった。

日本の多くのファンが複雑な気持ちになったかもしれないこの騒動について、そしてその前提となる「歴史観」について、今のわたしが思うことを書いてみる。BTSファンに限らず、幅広い方に読んでいただけたらうれしいです。(また長くなっちゃったー!)


他国で学ぶ「歴史」

突然だけど、これを読んでくださっている方の中に、12月7日(日本では8日)が何の日か知っている人はどれくらいいるだろうか。

第二次世界大戦中だった1941年に、日本軍がハワイの真珠湾を攻撃した日だ。

まともに学校の授業を受けたアメリカ人で、この日を知らない人はいないだろう。アメリカの公立小に通う息子の、小学3年生のときのテキストの一部を以下に抜粋した。

6日)フランクリン ルーズベルト大統領が日本に和平を求める最後通告するも返答なし
7日 4:00)真珠湾攻撃予告をワシントンで受け取るもコミュニケーションラインがダウン
7日 7:02)戦闘機が最初にレーダーに現れる
7日 7:20)フォート・シャフターはラダーコールに応え、その飛行機はカリフォルニアからのものであろうから心配ないと伝える
7日 7:55)日本軍の攻撃開始。第一の標的は戦艦、第二の標的は戦闘機…
(以降も攻撃の詳細が続く…)

アメリカの損害: 死者2400名以上、負傷者1100名以上、沈没した戦艦2隻、破壊された戦闘機188機
日本の損害: 死傷者&捕虜60名以上、沈没した潜水艦5隻、破壊された戦闘機29機

わたしはアメリカに来て、生まれて初めて真珠湾攻撃の詳細を知った。だって日本の歴史の授業では、教科書に一行かそこら書かれているだけだったから。(世界史受験だったし)

そして、アメリカ人がこの歴史を幼いうちから詳細に学んでいるということも初めて知ったのだ。

そうか…今までハワイに遊びに行って接した現地の人々は、このことをしっかり勉強してきた人たちだったんだ。わたしは何も知らず、真珠湾を訪れることもなく、リゾートを楽しんでいただけだったよ…

同じ歴史、同じ事実を見ていても、国によって重要度や関心や意味合いが大きく違う。それをまざまざと知ったできごとだった。

歴史を語り継ぐ役目

アメリカの多くの人々は真珠湾攻撃の日は覚えていても、原爆投下の日は覚えていない。

「繰り返してはいけない戦争の悲劇」について、より実感と熱意を持って語ることができる立場の者=被害側が語り継ぐのは自然なことなのだと思う。

「やった方は忘れても、やられた方は覚えてる」
「他人の骨折より自分のささくれ」

そんな人間の心理は、当然ながら人間が作る国家や教育にも現れている。

以前、韓国人のYouTuberさんが、日本と韓国の歴史教科書を比べた動画を見たことがある。彼らは日本の教科書に、日本による朝鮮植民地支配の記述があまりにも少ないことに驚いていた。

真珠湾攻撃について、日本人よりよく知っているのはアメリカの人々だ。日本の植民地支配について、日本人よりよく知っているのは韓国の人々だ。

同様に、原爆について、沖縄戦について、東京大空襲について、この地球上でいちばん詳しいのは日本の人々だ。広島や長崎や沖縄の痛みに、わたしたち日本人以上に思いを馳せられる人はいないのだ。(世界には、キノコ雲の写真を見て、それが原爆だとわからない人の方が多いのではないかと思う。)

つい、自分と相手が同等の知識を持ち、同じ歴史を見ていると考えてしまうかもしれないけれど、現実は違う。

各国の人々がそれぞれ自分の立場から歴史を語り継ぐことで、わたしたちは協力しあって悲劇を繰り返さないようにしている。

他国にとっての8月15日

BTSのメンバーが着たTシャツは韓国の「光復節」を祝うデザインだったそうだ。

「光復節」とは8月15日、日本からの自主独立を果たした記念の日。日本にとっては言わずもがな「終戦記念日」だ。

では、他の国では何と呼ばれているだろうか。

イギリス、オーストラリア、カナダ等、イギリス連邦加盟国の一部ではVictory Over Japan Day (日本に勝った日 通称:VJday)と呼ばれ、毎年式典も行われている。

(このVJdayは、アメリカや中国などでは降伏文書調印が行われた9月2日(3日)に制定されている。)

当時の日本の多くの人にとっても、厳しい戦争の終わりは辛いと同時に「やっと終わった」という思いもあったのではないかと思う。戦勝国や独立を回復できた国ならば、なおさら8月15日は「お祝いムードにあふれた日」なのだろう。

NYのVJ-day 有名な写真。

https://www.nydailynews.com/news/national/v-j-days-article-1.2345422

サンディエゴにある戦艦ミッドウェイ博物館には超巨大な像が建立されているよ。

枢軸国側(日本・ドイツ・イタリア)が戦争に勝っていれば、今もこの世界は全体主義に覆われていたかもしれない。全体主義とかまじ無理すぎるー!わたしは日本人だけど、心から戦争に負けてよかったと思う。(そこから頑張って国を立て直し、世界からの信用を勝ち得た日本すごいよ!)

世界には国の数だけ、人の数だけ「8月15日」の捉え方がある。日本人とは異なる視点を持つ人もたくさんいる、というか、そういう人の方が圧倒的に多いのだ。

「反日感情」を示す意図はあったのか

※個人的に、「反日」という言葉自体に違和感を覚えるが、その点を気にされている方が多いと思われるので、あえて使用しました。(追記)

ここまで、歴史の捉え方が各国でどのように異なっているかを書いてきた。それを踏まえて、原爆Tシャツ騒動について考えてみる。

わたしの推論としては、Tシャツの着用に際して、特に「反日」のような意図はなかったのではないかと思う。

韓国の人からすれば、前述した通り「光復節」にはポジティブな意味合いが強く、また原爆投下に関する知識が日本人ほどないという前提がある。

わざわざオンラインストアで商品名なども確認の上、自ら購入したのであればTシャツに描かれた内容を100%理解していただろうが、店に陳列されていたものを何気なく手に取った、またはプレゼントとしてもらったということであれば商品名、Tシャツのコンセプトを知る機会はなかったかもしれない。

また、もしTシャツにあるメッセージや写真の内容までつぶさに理解していたとして、そのメンバーの性格的に、それをカメラのあるところで着るとも思えないのだ。彼が、愛国心を示すにしろ敵愾心を示すにしろ、他のメンバーや関係者を巻き込む可能性があるような荒っぽいやり方をするタイプではないというのは、ファンのみなさまなら同意していただけるのではないか。

韓国の若者としてポジティブに愛国心を示す「光復節」アイテムを身につけていたつもりが、日本側の視点で見ると、悲劇を揶揄するような内容に捉えられてしまったということなんじゃないかと思う。

これは、どの国の誰もがやってしまう可能性があることだ。(これを読んでくださっているみなさんも、自分の手持ちのTシャツに書かれた外国語の単語、イラストや写真の意味をすべて理解している人は少ないはず)一般人がやったなら、誰も気にしない程度のことだろう。きっとあのTシャツをわたしが着て歩いていても誰も何も思わない。

しかし、BTSは国際的なスターだ。本人の中にある「自国の視点」以外に、世界各国の視点で一挙手一投足を観察されている。そうなったとき、やはり原爆被害に遭われた方々(国籍問わず)や日本のファンがショックを受ける内容にまで思い至ることができればベストだっただろうとは思う。

こういったことは数多くのスターが経験している。自分になかった視点に気づき、それをきっかけに人々を啓蒙し、次に繋げているのだ。(というか最初から全人類の視点を理解している人なんていないのだから知らない視点があって当たり前なのだが。)

(一般人のわたしだって、真珠湾攻撃に関する無知を後悔して、その後、真珠湾を訪れている。)

この騒動をきっかけに、BTSのメンバーはさらに多角的な視点を手に入れ、より大きな愛を意識するに至ったのではないだろうか。

騒動が起きた2018年末の各種ミュージックアワードの受賞スピーチでは、みんなの感情がかなり動いているのが見てとれる。(年初に解散危機があったりと大変な年だったようだ。)

わたしはこの彼らの姿を見てとても美しいと思った。まだ幼かった過去の言動まで遡って取り沙汰され、どんなに悩んで苦しんで穴に引きこもっていたくても、人々の前に立ちジャッジされ続けるという過酷さは想像を絶する。それを真正面から引き受けて、彼らは互いを支え合い、立ち続けている。

12月14日 Mnet Asian Music Awards

12月1日 Melon Music Awards

そして最後に、これをどうしても言いたい。この騒動は日本の人々にとっても多角的視点を得るチャンスなのだ。「被害者ぶりっこ」から抜け出し、広い視野で世界を見よう。視野の広さはきっとあなたをもっとラクに自由にしてくれる。(偉そうに上からごめんなさい。でも本当にそう思ってる。)


長い文章を最後まで読んでくださってありがとうございました!!

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