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あら汁も主役になりたい時がある

私は早朝に一人で台所に立ち、ひたすらにタイミングを待っていた。あの白い湯気が立ち上ってくる時間だ。もう他のおかずは用意してある。昨日の残りであるチンジャオロースとかぼちゃの煮物だ。これを温めてテーブルに置き、白いご飯を電子レンジで温めながらタイミングを待つ。

しゅしゅっ、しゅっ

しばらくすると音を立ててやかんの蓋はぐらぐらとし始め、お湯が沸けたということがわかる。私は先にご飯をテーブルに置いてからお椀を出し、こぽこぽとお湯を注いでいった。途端にふんわりと立ち込める淡い味噌の香り。そして何かの他のものの香り…?私は思わず首を傾げた。


とりあえずひとくち口にしてみると謎はひとところに解けた。その飲み物は私が飲もうと思っていた普通の味噌汁ではなく、本当はあら汁だったのだ。かなり寝ぼけていた上に同じような袋詰めに入っているために間違えてしまったのだろう。これは他の家族が自分用として飲んでいるものなのでどうやって誤魔化そうかという焦りが生まれる。だけど普通に考えて「寝ぼけて飲んでしまった」と正直に話すのが一番良さそうだ。

それにしても…と思い、そのままあら汁の二口目を頂いてみる。あら汁という商品なだけあってとても魚くさい味噌汁だ。だがそれがいい。私は元々魚が好きなのでこんな料理は大好きだ。何の魚をあら汁にしているのだろう。我が家では鯛をさばいた後のあら汁くらいしか食べたことがない。港町などに行ったらもっといろんな種類のあら汁が食べられるんだろうけど。羨ましい。食べてみたい。旅行行きたい。

しばらくずずっと飲んでは「はー…」とため息をつくことを繰り返した。




最近は魚の方が高いと言って我が家の食卓には主に豚肉が並ぶ。私はあじやいわしやかつおが食べたいと何度も口にするのだが、生活費を握っているのは私ではないので仕方がない。実は牛肉もほとんど食べられなくなっているが、そこにはほとんど困っていない。

私はとにかく魚が食べたい。いわしも刺身で食べたりするし、かつおは薬味なしでも余裕で食べられるので家族には若干引かれているような気がしている。もちろんあまりに古くて悪い意味での魚くささを感じるものは好きではないけど、そうでない新鮮な本来の魚の匂いには舌鼓を打ってしまう。その場合私の「うーん、魚くさい!」は褒め言葉だ。


それにしてもこのあら汁は本当においしい。他の家族に相談して私も食べていいことにしてもらおうか。それとも自分用にもう一袋買ってみるか。正直このシリーズで一番おいしいんじゃないかと思う。前はしじみがいくつ入っているかわからないしじみの味噌汁でギャンブル気分を味わっていたものだけど、やっぱり自分が気に入って毎回「おいしい」と思えるようなものが食べたい。

そんなことを考えていたらあら汁を自分用にしていた家族は「あら汁はあまり好きではない」と言って、あっさりと豚汁に鞍替えしてしまった。まさかの経緯であら汁の所有権を与えられた私。しかもあと三袋も残っているという。やった、今日はついている。

しかし一つ問題がある。それはあら汁というのはけっこう主張の強い味噌汁だということだ。今日のチンジャオロースとは正直言って合わない。豚肉と魚くささが微妙に喧嘩を繰り広げてしまうせいだ。他にも匂いが強かったり味がわりと濃いものとは合わないのではないかとそんなことを考える。たぶん魚料理と合わせるのが一番いいだろうけど、今では魚料理がおかずになることはほぼないと言っていい。じゃあどうするか。


いっそどーんとあら汁が主役になれる食卓を考えて朝ごはんを作ろう。
こぶしを握ってそんなことを誓った私だった。

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