【映画鑑賞】『PERFECT DAYS』#4 人間関係の断捨離、過去との訣別

(約1800字)
前回の#3では、モノを持たない主人公の部屋について書いた。今度は人や過去に関する断捨離の観点で映画をふり返る。

平山の日常には、特に親しい人は登場しなかった。
・年下の同僚→息子といえるほど年が離れていて、仕事や生活に対する姿勢が平山とはまったく違う。
・駅地下の食堂の店主→注文した料理を出してくれるとき、満面の笑みで手を大きく広げて「オツカレー」と言ってくれるが、それだけ。
・スナックのママ→他の常連客が嫉妬するほどやさしく接しているように見えるが、それだけ。
・写真屋の店主→#1に書いたとおりで、自分が読んでいる本から目を上げないような接客だけ。
・古書店の店主→本をレジに持っていくと、いちいちその作家についてひとこと言ってくれるが、それだけ。

その日常が突然くずれるのは、帰宅後にアパートの階段から、十代くらいの女の子が声をかけてからだ。平山の姪が家出してきたのだ。大きくなったねと成長ぶりに驚いているので、十年くらいは会っていないのだろう。

その姪とのやり取りをはじめとする人との関わり方については、また別に書こう。ここで注目したいのは姪の母親、つまり平山の妹との会話だ。

姪を数日間アパートに置いてやるが、頃合いを見て銭湯の公衆電話から、妹に電話をした。姪と平山が帰宅すると、ぼろアパートの前に停めた運転手付きの高級車から妹が現れる。娘を迎えに来たようだ。以前、娘には「兄さんと私たちは住む世界が違う」と説明していた。ずっと会っていなかったようだ。

言葉は違っていると思うが、妹はこんなふうな発言をしていた。
「父さんはもう長くないから、施設に会いに行ったら? もう怒らないと思うわ」

ここまでの状況から次のように考えてみた。
・妹の家庭は富裕層に属する。高齢の父親とは普通に会っており、おそらく父親も富裕層。権力者かもしれない。
・平山は妹だけでなく、父親とも長いこと会っていない。過去に父親を怒らせることをした。つまり、肉親と断絶していた。

そして、平山は父親に会いに行かないと返事をする。
そのあとで妹は、
「まさか、ほんとにトイレ掃除の仕事してるの?」
と軽く笑ったあと、悲しそうな顔をして、車に乗る。

この発言からは、本来なら、兄はトイレ清掃員ではない仕事についているはずだと思っていそうだ。富裕層ゆえに、「職業に貴賎なし」の考えは持たないようだ。

このふたつの妹の発言などから、平山の経歴を以下のように勝手に推測してみた。

推測1
大企業幹部または大物政治家の父親の後を継ぐべく、同じ世界にしばらく身を置いていたが、父親を取り巻くある不正事件をきっかけに、その世界を離れた。さまざまな職を転々とし、今に至る。

推測2
約50年前に学生運動に身を投じていた。独房に入ったこともある。父親は政界または経済界の有力者であったため、カネとコネで解決させようとしたり、身辺を洗うように指示したりするが、筋を通したい平山は従わず、別世界で生きることにした。さまざまな職を転々とし、今に至る。

妹の話しぶりや表情から、兄に対してまったくの他人行儀ではなく、少しは心情や行動を理解できているように思える。その点では上記の推測1かなと思うのだが、#3で書いた物置き部屋にあったモノの古さ(何かと訣別した時点で時間が止まっているような)を考えると、推測2も浮かんできた。

平山はテレビもスマホも持たず、新聞も読まず、本も音楽の趣味も古い。映画公式サイトのcollectionで紹介された本や音楽は、原作やオリジナルとしては1960~70年前後のものがほとんどだ。今の世界に興味がないように見える。

たまにある、小説や映画作品の解釈のひとつ「この人物は、実は死んでいる」説を当てはめてみたくもなる。
少なくとも、金儲けや夢の実現のために、今を熱く生きているわけではない。

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このnoteを書くにあたって、映画パンフレットや公式サイトのインタビューや雑誌類はまだ見ないで、映画を一度観ただけであれこれ考えているので、制作者の意図からズレているかもしれないが、まずは自分で考えてみたい。
これだけ沢山のことを考えさせてくれるのだから、間違いなく優れた芸術作品なのだろう。

この映画について、あと5つは書きたいテーマがある。あまり使いたくないが、この言葉を使わずにはいられない。ヤバい。





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