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RPGツクールXP (RPG Maker XP) が期間限定無料配布中!だが…?

2024年2月20日3時まで、RPGツクールXP (RPG Maker XP) が Steam で無料配布されている。

2バイト文字は文字化けして使えないという報告がある一方、素材集としての価値を見出している人も居る。
(英語のアルファベットが入力できればローマ字は入力できるはずなので、「日本語が使えない」とはいえないことに注意)

しかし、利用規約を確認すると、これは罠の可能性があるように思える。

利用規約 - RPG Maker Official | Gotcha Gotcha Games


無料での入手は「購入」ではなさそう

無料配布中の Steam ストアの画面を見ると、「もらう」「アカウントに追加」という表現になっている。

Steam ストアで無料配布中の UI

Steam で 100% オフ:RPG Maker XP

これは、有料販売中の製品の画面で使われている「購入する」「カートに入れる」とは異なる表現である。

Steam ストアで有料販売中の UI

Steam で 50% オフ:RPGツクールMZ

さらに、

プレイ無料のゲームは購入自体は不要です。

ゲームの始め方(Steamアカウントを作成し、ゲームを購入する) - GeForce NOW Powered by au

という主張をしているサイトもある。

また、Steam のアカウントの情報で、「購入したゲーム」と「無料で受けとったゲーム」は区別して管理されていることがわかる。

無料ゲームにおけるSteamの所有権の証明へアクセスする | Ubisoft ヘルプ

よって、製品を無料で入手しても、購入したとはいえない可能性が高そうだと考えられる。
製品を購入していなければ、後述の通り利用規約上一部の許諾が得られないのである。

GGG製品利用規約を読む

では、「RPGツクールXP」を含む「GGG製品」の利用規約の内容を確認していこう。

利用規約 - RPG Maker Official | Gotcha Gotcha Games

製品を購入していない「ユーザー」が存在する可能性

「ユーザー」は、利用規約の冒頭で以下のように定義されている。

下記に記載の弊社製品群(以下「GGG製品」といいます。)の購入者(購入者と、GGG製品をコンピュータ機器にインストールする者が異なる場合には、当該インストールする者を含みます。以下「ユーザー」といいます。)

ここから、「ユーザー」には「GGG製品」を購入せず、インストールだけをする者が含まれることがわかる。

また、第2条の1には以下のように書かれている。

ユーザーは、弊社が認める正規の方法により購入又はライセンスを受けて、GGG製品対応のコンピュータ機器(以下「ユーザー機器」といいます。)にGGG製品をインストールの上、利用することができます。

ここから、「購入」以外の方法で「ライセンスを受け」ることができる可能性があることが読み取れる。
たとえば、今回のような公式の無料配布が該当しそうである。

さらに、「ユーザー」であるだけで「GGG製品をインストールの上、利用することができ」ることがわかる。
ここでは、「利用」の具体的な中身は定義されていないようである。

まとめると、「GGG製品」について購入以外の方法でライセンスを受けてインストールし、「ユーザー」になることで、「GGG製品」を「利用」することができるらしいことがわかる。
たとえば、このように投稿サイトでネタにするのも「利用」の一形態かもしれない。

製品の購入者に対する許諾 (購入者だけに対するとは限らない)

第5条には、以下のように書かれている。

弊社は、弊社が認める正規の方法でGGG製品を購入したユーザーに対し、次のとおりGGG製品を利用することを許諾します。

① GGG製品(GGG製品を構成するコンピュータ・プログラムを含みます。)及びGGG製品に収録されている素材(文章、音楽、画像等をいい、以下、総称して「弊社素材」といいます。)を使用して、オリジナルのゲーム(以下「ユーザーゲーム」といいます。)を制作すること。なお、弊社素材の利用に際し、ユーザーは、本規約附則の「素材利用規約」を遵守するものとします。
② 前号に基づき作成したユーザーゲームを、有償・無償を問わず、複製、譲渡、販売、貸与、上映、公衆送信、送信可能化(以下、総称して「頒布等」といいます。)すること。ただし、この場合、ユーザーは、本規約附則の「ゲーム頒布条件」を遵守するものとします。

ここでは、無条件の「ユーザー」ではなく、「GGG製品を購入したユーザー」に対し、以下を許諾するとなっている。

  • GGG製品およびそれに収録されている素材を使用してオリジナルのゲームを制作すること

  • 制作したゲームを「頒布等」すること

GGG製品を購入していない「ユーザー」についてこれらが許諾されるかは、ここでは未定義である。
ただし、自作ゲームの「頒布等」については、後述の通りGGG製品を購入した「ユーザー」に限られる。
ゲームの制作については、そのような条件は見当たらない。
「明示的に許可されていない使用は一切禁止する」のような条件も見当たらないので、GGG製品を購入していない「ユーザー」によるGGG製品を使用したゲームの制作、および購入の有無にかかわらずGGG製品を使用してゲーム以外を制作することについては、許諾されるかは未定義であるといえるだろう。
第7条の2の

⑥ その他、弊社が適当でないと判断する行為。

に該当すれば禁止だといえるだろうが、該当するかはわからない。

GGG製品を使用して制作できるゲーム以外の作品としては、たとえば以下が考えられるかもしれない。

  • 映像作品

  • サウンドノベル (ゲームに該当するかどうか意見が分かれるかも)

  • ツール (計算ツール、記録ツール、絵などのエディタなど)

  • マニュアル・ドキュメント・リファレンス・解説資料など

  • GGG製品の使い方・ノウハウ・テクニックなどを紹介するウェブ記事・同人誌など

製品の購入者のみに対する許諾

「【附則】ゲーム頒布条件」の第1条には、以下のように書かれている。

1. ユーザーは、次の条件を満たした場合に限り、ユーザーゲームを頒布等できます。

① 弊社が認める正規の方法でGGG製品を購入したユーザーにより制作されたゲームであること。
(②以降略)

「【附則】素材利用条件」の第1条には、以下のように書かれている。

弊社が認める正規の方法でGGG製品を購入したユーザーに限り、GGG製品の弊社素材をGGG製品以外の自作プログラム及び他社のゲーム作成ツールなどで作成した作品に利用することができます。

「[附則]アドオン利用条件」の第1条には、以下のように書かれている。

弊社が認める正規の方法でGGG製品を購入したユーザーに限り、公式アドオンを以下のとおり利用できます。

まとめると、以下の行為は無条件の「ユーザー」であるだけでは足りず、「GGG製品を購入したユーザー」でないと認められないようである。

  • GGG製品を使用して制作した自作ゲームを「頒布等」する

  • GGG製品に収録されている素材をGGG製品以外で作成した作品に利用する

  • 公式アドオンを利用する

GGG製品に収録されている素材をGGG製品を使用したゲームの制作に利用することについては、「正規の方法でGGG製品を購入したユーザー」については第5条の①に基づいて許諾されると考えられ、それ以外の「ユーザー」については未定義である。
GGG製品とGGG製品に収録されている素材を使用してゲーム以外の作品を制作することについては、GGG製品の購入の有無にかかわらず、許諾されるかは未定義である。(素材以前に、GGG製品の使用自体が未定義である)

製品を購入していない「ユーザー」でも認められること

第2条の1には、以下のように書かれている。

ユーザーは、弊社が認める正規の方法により購入又はライセンスを受けて、GGG製品対応のコンピュータ機器(以下「ユーザー機器」といいます。)にGGG製品をインストールの上、利用することができます。

「【附則】ゲーム頒布条件」の第1条の1には、以下のように書かれている。

ユーザーは、次の条件を満たした場合に限り、ユーザーゲームを頒布等できます。

「【附則】素材利用条件」の第2条には、以下のように書かれている。

ユーザーはGGG製品の弊社素材を、ユーザー自身のブログ、ポートフォリオ等で紹介する目的で、改変して利用(他ユーザーへ無償で譲渡または頒布する利用を含む)することができます。

これらの規定の条件は「ユーザー」であることのみであり、「GGG製品を購入した」などの条件はついていない。
まとめると、「ユーザー」は、GGG製品の購入の有無にかかわらず、以下ができるようである。

  • ライセンスを受け、GGG製品をインストールし、利用すること

  • 条件を満たした「ユーザーゲーム」を「頒布等」すること

  • GGG製品に収録されている素材を自身のブログなどで紹介する目的で改変して利用すること

「ユーザーゲーム」の「頒布等」については、「頒布等」するゲームには「GGG製品を購入したユーザーにより制作された」という条件がついているが、「頒布等」を行う者にはGGG製品の購入などの条件がついていないことに注意したい。
すなわち、GGG製品の購入の有無にかかわらず「ユーザー」であれば、GGG製品を購入した「ユーザー」である他者が制作した「ユーザーゲーム」であり、他の条件も満たし、権利者から「頒布等」に必要な許諾が全てとれているものの「頒布等」をすることができると考えられる。

素材については、作品への利用は「【附則】素材利用条件」の第1条で「GGG製品を購入したユーザーに限り」となっているが、紹介する目的での改変しての利用は「【附則】素材利用条件」の第2条でGGG製品の購入の条件なしで許可されている。

まとめ

「RPGツクールXP」は「GGG製品」に含まれる。
GGG製品利用規約上、GGG製品をインストールする者は、GGG製品を購入していなくても「ユーザー」である。
「ユーザー」には、GGG製品の購入の有無にかかわらず、以下が許可される。

  • ライセンスを受け、GGG製品をインストールし、利用すること

    • ただし、「利用」の具体的な中身は不明

  • 条件を満たした「ユーザーゲーム」を「頒布等」すること

    • 条件には「正規の方法でGGG製品を購入したユーザーにより制作されたゲームであること」が含まれる

    • 「頒布等」とは、「複製、譲渡、販売、貸与、上映、公衆送信、送信可能化」である (第5条の①)

  • GGG製品に収録されている素材を自身のブログなどで紹介する目的で改変して利用すること

「正規の方法でGGG製品を購入したユーザー」には、以下が許可される。
ここでは、これらがGGG製品を購入していない「ユーザー」に対して許可されるかは未定義である。

  • GGG製品およびそれに収録されている素材を使用してオリジナルのゲームを制作すること

  • 制作したゲーム (「ユーザーゲーム」) を「頒布等」すること

    • ただし、条件を満たしたゲームに限る

「正規の方法でGGG製品を購入したユーザー」に限り、以下が許可される。

  • GGG製品を使用して制作し、条件を満たした自作ゲーム (「ユーザーゲーム」) を「頒布等」する

    • 前述の通りGGG製品の購入は「ユーザーゲーム」の「頒布等」自体の条件にはなっていないが、「頒布等」できる「ユーザーゲーム」の条件に「正規の方法でGGG製品を購入したユーザーにより制作された」が含まれている

  • GGG製品に収録されている素材をGGG製品以外で作成した作品に利用する

  • 公式アドオンを利用する

「株式会社Gotcha Gotcha Games が適当でないと判断する行為を行わない」という条件はあるものの、「明示的に許可されていない使用は一切禁止する」のような条件は見当たらない。
GGG製品を購入していない「ユーザー」がGGG製品 (素材を含む) を使用してゲームを制作してよいか、およびGGG製品の購入の有無にかかわらず「ユーザー」がGGG製品 (素材を含む) を使用してゲーム以外の作品を制作してよいかは不明である。

この記事は執筆時点でのGGG製品利用規約に基づいているが、利用規約は改正される可能性があり、またこの記事で紹介していない規定も含まれている。
GGG製品を購入・使用するか、および「ユーザー」になるかを検討する際は、最新の利用規約を直接よく確認するべきである。

購入したい場合

2024年2月22日 昼12時まで、RPGツクールXP VALUE!+が308円で販売されている。

RPGツクールXP VALUE!+ ダウンロード版 – KOMODO Plaza (JP)

また、その他のRPGツクールシリーズにも、数百円~数千円程度で販売されているものがある。

ツクールの日フェスティバルが始まりました♪ – KOMODO Plaza (JP)

未確認だが、GGG製品を「購入」し、使用の許諾をフルで得たい場合は、これらを利用するといいかもしれない。

ただし、GGG製品利用規約の「GGG製品群一覧」には、

『RPGツクールXP』(VALUE!版も含む)

とあり、VALUE!+版については言及が無い。
RPGツクールXP から、「VALUE!」と「VALUE!+」では少なくとも64bitOS上での利用の手順が異なり、別物であることがわかる。
このため、ここで販売されている「VALUE!+」はこの利用規約の対象となる「GGG製品」には含まれない可能性が考えられる。
とはいえ、「VALUE!+版は含まない」ことが明示されているわけではなく、「VALUE!+」も「GGG製品」に含まれる可能性が無いとはいえない。

利用規約の改正案

もしも、現在は「GGG製品を購入したユーザー」にしか認められていない行為をGGG製品を購入していない「ユーザー」にも認めていただける場合は、「(正規の方法で)GGG製品を購入したユーザー」のかわりに「(正規の方法で)ライセンスを受けたユーザー」という条件にしていただけると良さそうである。
第2条の1に「ライセンスを受けて」という表現があるため、これを活かす案である。

「購入」は、「ライセンスを受け」るための方法の一つであると考えられる。
そのため、この場合、「ライセンスを受け」ることが「購入」とは完全に異なる行為であるととらえられる「購入又はライセンスを受けて」という表現は、「購入又はその他の方法でライセンスを受けて」としたほうがよいだろう。

今回無料配布されているのって「RPGツクールXP」ではないのでは?

今回無料配布されている製品の Steam 上での名称は、「RPGツクールXP」ではなく「RPG Maker XP」となっている。

Steam で 100% オフ:RPG Maker XP

ただし、この製品を含むバンドルの名前では

RPGツクールXP x RPGツクールMZを購入する

と、「RPGツクールXP」が使用されている。

だとしても、RPGツクールXP のサンプルゲームでは漢字・ひらがな・カタカナなどが使用されているようであり、今回配布されている「RPG Maker XP」について報告されている「2バイト文字が文字化けする」という特徴と矛盾する。
UTF-8 の3バイトや4バイトの文字なら回避できる…というわけでもなさそう。
というか、UTF-16 なら半角英数字を含む、サロゲートペアを使わないすべての文字が2バイトなのでは…?
このことからも、今回配布されている「RPG Maker XP」は「RPGツクールXP」とは異なると考えられる。

とはいえ、以下に「RPG Maker XP」を含む「GGG Products」の利用規約がある。

Rules - RPG Maker Official | Gotcha Gotcha Games

内容は「RPGツクールXP」を含む「GGG製品」の利用規約とだいたい同じようであり、今回の議論への影響は少ないと考えられる。

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