彼の名前はキム・ソクジン ②
-- 現在 --
明日のプレゼンの資料
最終チェックしていただきたいんですけど
時間よろしいですか?
そう声をかけてきたのは、チームリーダー最年少のソクジン。
私は、新しく構築される社内システムプロジェクトのプロジェクトマネージャー。
このプロジェクトが始まって1年。
明日のプレゼンが通れば、ようやく次のフェーズに進める。
左手の腕時計を確認する。
大丈夫だ。次の予定までまだ時間はある。
わかった。
じゃ、会議室おさえて、それから
彼は、大きな手のひらを私に向ける。
会議室はとってあります。
他のチームのリーダーにも声かけ済みです。
こう言うところ。
全く、感嘆の息が漏れる。
彼が若くしてリーダーを担える人材だと言う証。
機転が効く。
そつがない。
そして、仕事が早い。
それが嫌味なく見えるのは、彼の持って生まれた人柄なんだろう。
背が高く、広い肩。
その上にちょんと乗っかっている小さな顔は気品さえ感じさせる。
彼の事を悪く言う人を、あまり見たことがない。
人として、彼は尊敬できる存在だと、大袈裟でなく思う。
-- ソクジン 6年前 春 --
入社式の朝。
慣れないネクタイを何度も結び直す。
後ろが長くなりすぎたり、短すぎたり。
ある程度形になったところで、時計を見る。
慌てて、デイパックを肩にかけ玄関を開けた。
新入社員の受付テーブルの向こう、昨日の彼女がいた。
同じ会社だったんだ!
ソクジンの顔が綻ぶ。
覚えているかな?
入社式の緊張とはまた別の緊張を抱えて、列に並んだ。
彼女は下を向いたまま、流れる人の名簿チェック作業を黙々と続けている。
「キムソクジンです」
名前を告げ、書類を受け取る。
彼女が顔をあげる。
「あ、昨日の!」
覚えていてくれた。
覚えていてくれたことに動揺したのか、書類が手からするりと落ちた。
受付のテーブルに散らばった書類を彼女がかき集める。
「今日は私が拾いましたね」
そう言って、彼女はまた、弾けるような笑みを見せた。
※Twitter画像お借りしています。
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