彼の名前はキム・ソクジン ①
※これは妄想小説です。私の勝手な妄想から生まれたものです。
苦手な方、不快に思われる方にはオススメしません。
-- ソクジン 6年前 春 --
ここが明日から働く場所。
柔らかな春の日差しの下、ガードレールに腰掛け、ビルを見上げる青年がいた。
彼の名前はキム・ソクジン。
まだ、あどけなさが見え隠れするその顔は、木漏れ日と明日からの希望で輝いていた。
ふと、目の前を通る女性が、携帯電話をカバンから取り出そうとした時、一冊の本がするりと歩道に落ちた。
ソクジンはガードレールから飛び降り、その本を拾う。
「星の王子さま」
白い表紙にはそう書いてあった。
女性は、落としたことに気が付いていない。コツコツとヒールの音を響かせ、歩いて行く。
颯爽としたその雰囲気とは似合わない本のタイトル。
本を手にしたソクジンは、その女性を追うが、声をかけるタイミングを見つけられずにいた。
次の交差点。
信号が赤になったとき、電話がちょうど終わった。
「あの…」
肩より少し下まである髪をなびかせながら、彼女は振り返る。
「これ、落としましたよ」
一瞬、怪訝な顔をして、そしてすぐにパッと笑顔になった。
「わっ、ありがとうございます。」
右側の髪を耳にかけながら、空いた左手で本を大事そうに胸に抱えお辞儀をする。
「あ…いえ…」
くるくる変わる表情。
もう一度頭を下げ、彼女はまた雑踏の中へ消えていった。
綺麗な人だったな…。
そう考えた自分が恥ずかしくなり、隠すように一回下を向き、そして顔を上げ、もと来た道へと歩き出す。
少しだけ軽い足取りで。
春の風が、ソクジンの赤くなった耳を撫でていった。
※Twitter画像お借りしています。
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