彼の名前はキム・ソクジン ③

-- 現在 --

ミーティングが始まる。
アイスブレイクも彼の得意分野だ。

おやじギャグで場を和ませ、他人の意見を上手に引き出す。
褒めることはあっても、けっして意見を否定しない。
ファシリテーターとしても有能。

ふと見ると、彼の耳が赤くなっている。
注目されると赤くなるらしい。

有能さとのギャップ。

そんなところも、好かれる理由の一つなのかもしれない。

無理にでも、リーダーに引っ張ってきてよかった。
若いからと反対する声があったのも事実。
彼の仕事ぶりを見るたび、私は安堵する。

大丈夫、明日はきっとうまくいく。

画像1


-- ソクジン 6年前 春 --

配属先に彼女がいた。
部署への紹介の挨拶をし、頭を上げた時、目が合った。

彼女は、首をちょっとだけ傾げ、柔らかい笑みを浮かべた。

画像2


-- 現在 --

翌日、無事に計画案が通った。

ここからが本当の正念場。
計画通りに進まないのが世の常なのだから。
まだまだ気を緩められない。

それでもなんだか、今日は自分を褒めたい気分だ。


  今夜、ちょっとだけ祝杯あげませんか?
  一歩進んだ記念に。


休憩室で1人コーヒーを飲んでいると、ソクジンが声をかけてきた。


  ちょうど今、私もそんな気分だった。


  やー、それなら話は早いですね。


そう屈託のない笑顔を向けながら、胸ポケットから手帳を出し、何か走り書きをしている。

1ページを破り、それを私に手渡すと
すっと踵を返し、広い肩を揺らしながら休憩室を出て行った。

渡された紙に目をやる。

時間と場所だけ。
決して綺麗とは言えない崩れた文字。
店の名前ではない。

うん…彼に任せておけば大丈夫だろう。
見あったお店をチョイスし、人もまとめてくれるはず。

さぁ、仕事に戻ろう。
やる事はたくさんある。

※Twitter画像お借りしています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?