彼の名前はキム・ソクジン ④
-- ソクジン 5年前 夏 --
ソクジンは社長室にいた。
「仕事は慣れたか?」
「困ったことはないか?」
社長からの質問に、ソクジンは丁寧に答える。
「そろそろ、いいんじゃないか?」
「いえ。僕はまだ未熟ですから。
まだまだ努力して、立派なところをお見せできるように頑張ります。」
ソクジンは深くお辞儀をして、部屋を出た。
-- 現在 --
終業を知らせるチャイムがなる。
約束の時間まではまだ余裕がある。
飲み会の日の独特の忙しない空気感が、周囲から汲み取れない。
今日…だよね?
頭の中でさっき見た走り書きのメモを思い返す。
なぜか、周りに確認する事を躊躇った。
まぁいい。
待合せ場所にいなければ、1人で帰るだけだ。
お疲れ様
残った仕事を片付け、周囲に声をかけながら、部屋を後にした。
街路樹の下、駅のロータリーから少し離れた駐車場の前。
そこにはソクジンもいない。
風が、街路樹の葉をざわつかせる。
間違いだったかな…
そう思った時、背後からクラクションが鳴った。
車の窓がゆっくり降りる。
ソクジンだった。
-- ソクジン 5年前 秋 --
共に働くにつれて、彼女のことがいろいろとわかってくる。
7歳年上で、とても有能で、同期の人たちより一歩抜きん出ていること。
ただ、彼女の功績が認められるたびに、彼女の笑顔が少なくなっていくことにも、気がついていた。
とても美しく、仕事もできる人。
嫉妬。やっかみ。そこから派生するあらぬ噂。
彼女は一人、耐えているように見えた。
あの笑顔が見たいのに。
ソクジンがふざけても、フッと笑みを浮かべる程度。
あの笑顔が見たいのに…。
彼女の笑顔を守りたい。
ソクジンは、そう思うようになっていった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?