【短編】ひなた
「あなたは家族の縁が薄い。家庭を持つのは難しいかもしれん」
興味本位でやってもらった占い。
占い師が、さも重大な事を知らせるかのように、低い声で言う。
「あぁ。そうですかー。」
作り笑いを浮かべ、当たり障りのない返答をして部屋を出た。
家族の縁。
父は、私が幼い頃に若くして亡くなった。だから父の記憶はほとんど残っていない。
母は、一人っ子の私を懸命に育てた。
だが、子育ての手が離れ、物心つく頃には、母には父とは違う別の男がいた。
記憶する限りでは、高校を卒業するまでには3人の男がいたと思う。
女手一つで私を育て、1人で生きてきたのだ。
男ができることには何ら問題はないだろう。
ただ、娘である私を1人残し、その男と住む事以外は。
大人になる前に、母は母親ではなくなった。
たまに帰ってきては、お金だけを置いていく。
私はアルバイトをしながら、やっと高校を卒業した。
そして、当たり前のように家を出た。
その後の母の消息は知らない。
就職し、至極一般的なOL生活を送り、そこで彼に出会った。
ちょうどそのころだったと思う。
同僚と面白半分で占いの館に入ってみたのは。
今までの自分の人生を振り返る。
確かに家族との縁は薄い。
彼との結婚は、夢を見てはいけないと自分に言い聞かせるようになった。
それでも、何度かのデートを繰り返し、いつしか何度目かの同じ朝を迎え、それでも彼がプロポーズしそうな雰囲気をはぐらかし続けた。
ある日、ベッドの中でそっと彼が聞いた。
「ねぇ、僕と結婚する気はないの?」
彼も不審に思っていたのだろう。
私は正直に、占いの結果を彼に話してみた。
途端に笑いだす彼。
ひなたみたいな笑い方だった。
「僕が家族になるよ」
そして、私たちは結婚をし、3年後に女の子を授かった。
本当に、ひなたのような人だった。
私は家族の縁が薄い。
今、私の傍に立ち、細い煙突から立ち昇る煙を共に見上げる娘。
「お母さん、お父さん空に登っていっちゃうね」
娘の手をしっかりと握りなおす。
この子もいつか、私の元から巣立っていくのだろう。
私と結婚しなければ、この人はもっと長生きできたんじゃないだろうか。
そんな事を考えてみる。
人生に「たられば」は存在しないのに。
もう2度と、家族を作る事はないだろう。
ひなたのようなあなた以外に。
いつでも思い出せる、あのひなたの温もりがある限り。
あなたとの家族の縁は、こんなにも濃い。
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