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秋の夜空に恋をして_2最初で最後のデート

(あの、30過ぎ、子持ち、バツイチの私とイケメンがデートしてくれるって本当ですか?!またとない機会すぎる!嘘じゃないよね?もーぅ一生何もいらない!贅沢すぎますー。)

そう、七々星は「もう恋愛はもちろんのこと、男性とデートすることなんてこの先ずーっとないんだろうな。」と思っていましたから、あの夜、(「穴があったら入りたい」)なんて思っていたのがウソかのように、彗斗とのデートに胸を躍らせていたのでした。

あの夜以降、七々星は彗斗と何度かやり取りを重ね、目的地は車でおよそ2時間ほどの距離にある、大きな丘がある公園に決めました。
実は、七々星は、「遊園地なんてべた過ぎて恥ずかしい」し、「緊張のあまりろくに話せないまま目的地に到着しちゃうなら少し遠いところがいいな」などと考えていたようです。

デートの日。

案の定、緊張でいつもよりもぎこちない会話しかできないのは七々星だけではなく、二つ返事で「僕で良ければ」と威勢よく言っていた彗斗もまた緊張していたようで、だからこそ、ふたりにとって、2時間という移動時間はむしろ好都合になったのであります。
「お昼ごはんは何を食べようか?」
そんな話をしながら、少しずつ緊張を解いていきました。
そして、ほどなくして目的地の公園に到着しました。

ふたり肩を並べ、他愛もない話をしながらゆっくり丘を上ります。
ちょうど秋桜が美しく咲き誇る時期で、丘の上から見下ろす景色はとても色鮮やかで素敵でした。
(あーぁ、今日が最初で最後なんて。また一緒にこの景色を眺められたらいいのに。)
七々星はいつの間にかそんな贅沢な思いを抱いてしまっていたのです。

丘を下りきったときに、彗斗は七々星に言いました。
「今度は夏にひまわり畑見に行こうよ?」

七々星は、内心次のデートなんてないと理解はしていたものの、(このまま夏を一緒に迎えられたらいいのに)と、ただただ願ってやまないのでした。

あっという間に空がオレンジ色に染まり始め、最初で最後のデートも終わりの時間が迫っていました。ふたりは、口数少なく夕陽を背に星蘭が待つ幼稚園に車を走らせます。

(せめて今日が最初で最後なら、もう少し一緒に居たいのに。)
彗斗も同じ気持ちだったのかもしれません。

幼稚園に到着するころ、彗斗は言います。
「このあと、3人で夕飯食べに行こ!」
「うん!!」

七々星は例え二人っきりではなくとも、まだ彗斗と一緒に居られることがとにかく嬉しかったのです。

行先は、星蘭が食べたがっていたオムライスが美味しそうな洋食屋さん。
七々星は、彗斗が幼稚園で待っていた星蘭のことを気遣って場所選びをしてくれたことに、何年も忘れかけていた感覚を覚えるのでした。

食卓を3人で囲んだことはほとんど無く、星蘭の記憶にはきっとありません。だからこそ、星蘭も緊張していました。パパではないにしても男性と一緒に食事をすることが日常になかったわけですから、無理もありません。
3人は美味しい洋食を口に運びながら、他愛もない会話をしてお腹も心も満たされていきました。

すっかりお腹が満たされた星蘭は、車に揺られて夢の中。
辺りは真っ暗で、本当にこれで最初で最後のデートが終わっていくんだ、そう悟るしかなかったふたり。

しかし、七々星は勇気を出して言いました。
「ねぇ?帰る前に夜景を見に行きたいんだけど、ダメかな...?」
((ダメなはずがあるか。))

以前、七々星は夜景を見るのがスキだと彗斗に伝えていたことがあり、彗斗は今日まで密かに夜景スポット探しをしていたのでありました。

少しばかり車を走らせたでしょうか。
到着したそこは、決して雑誌やサイトに掲載されないような超がつくほどの穴場。
あまりにも穴場スポットだったので、七々星は(ここ?)と思ってしまったのですが、車のヘッドライトを消した次の瞬間、ふたりの目の前には息をのむほど美しすぎる夜景が広がっていました。
あまりにも美しいので、ふたりは会話をすることを忘れ、ずっと夜景を眺めていました。
同時に、七々星はこんなにも美しい夜景が見れる穴場を探してくれた彗斗の密かな努力を想像し、
(最初で最後のデートなのに、どうして私のためにここまでしてくださるのか)
(彗斗がただ優しくてサプライズが好きな方だから?)
そんなことを考えていました。
一方、彗斗は夜景にうっとりな七々星の横顔を見ながら何かタイミングをうかがっているようでしたが、夜景に夢中な七々星は彗斗の視線には目もくれず。

彗斗は運転席からガッと身を乗り出しました。
七々星が振り向いた瞬間ー
彗斗はそっと唇を重ねたのです。

あまりにも一瞬の出来事に、七々星は頬が赤らんだだけでなく全身が急激に火照っていくのでした。30を過ぎて彼氏もずっと居なかった七々星にとっては、甘くて優しいキスですら遠い昔ぶりで耐性なんて全くなかったのです。
(このままずっとこの時間が続いてほしいよ...。)

まさかイケメン彗斗から最後に優しいキスをプレゼントされるなんて思ってもいなかった七々星は、そのあとの記憶はほとんどありません。

こうして、最初で最後のデートは日付が変わると共に終わっていきました。
ふたりは次はないと悟るのと同時に、ダメだと分かっていても次もまた会いたいと願わずにはいられないのでした。


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