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こちら、集中した雰囲気が漂う図書室からお届けします 〜塩中ABDレポートVol.2

塩中でABDを始めて3ヶ月。
これまで4回あった授業のうち、3回分のABDを実施することができました。「総合的な学習の時間」の全授業の中で、おおよそ前半が終了したことになります。
今回は、これまで実施した授業の振り返りをレポートしていきます。

※ABDの進行については公式サイトの「進め方の流れ」をご覧ください。

慣れるが勝ち

実施する中で、私にとって一番の衝撃だったのが、子どもたちの慣れるスピードがめちゃめちゃ速いということでした。
普段の「朝読書」の習慣があるからか、1回目から本を読むのに抵抗がある子は少なそうな印象でした。ただ、ABDでは1冊の本を分担して読んだ部分を「コ・サマライズ」として要約します。これには最初、大変そうにしていました。

しかし2回目以降あっという間に慣れて、3回終了した今は、ほぼ全員要領が格段に良くなりました。回を追うごとに段々と本の内容は難しくなっているにもかかわらず、時間的にはほとんどの子が早くまとめ終わるようになりました。

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(毎回子どもたちが書いてくれるコ・サマライズの原稿。力作です。)

発表とは「伝えること」

今回の授業では、終了後にGoogle  Formで振り返りアンケートを書いてもらっています。その中で、やや苦手意識が高かった「リレー・プレゼン」。先ほど「コ・サマライズ」でまとめた用紙をもとに、本の最初を読んだ人から順番に内容を発表していくフェーズです。

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図は、2回目のABDの直後にとったアンケートのグラフです。授業を4つのパートに分けて、それぞれのできた具合を自己採点してもらいました。
驚くべきことに、子どもたちはほとんど「よくできた」「だいたいよくできた」につけているのですが、リレー・プレゼンだけ「どちらともいえない」の割合がやや高いのがわかります。

子どもたちの様子はといえば、確かにやや緊張ぎみでした。そもそも、人前で何か発表することに慣れていない子が多そうだったので、その次の3回目のABDではちょっとしたコツを伝えてみました。
と言っても、ほとんど準備なしの一発発表なので、すぐにできそうなことを。
「発表で一番大事なのは伝えること。だから、手元の紙を見るよりも、目の前の人の方に向かって喋ることと、普段より大きな声で話すことが大事」と伝えました。

その日のアンケートは、感想コメントで「前回よりも大きな声で発表できた」と答える子もいたので、多少なりと手応えは感じられたようです。グラフでは大きく差が出ていませんでしたが、プレゼンの習得は一度でできるものでもないので、継続的に発表をしていくことで、今後、変化があれば良いなと思います。

協力して実施するダイアローグ

ABDでは、本を読んで発表した後に、「ダイアローグ」の時間があります。ここでは、まず個人でテーマに対してふせんで意見を書き出してもらい、次にグループになって、そのふせんを一枚ずつ紹介しながら自由に意見を交換する形式を取っています。

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当然ながら、テーマにはとても気を使います。子どもたちがイメージしやすく、書きやすいものであること。本だけでなく、実生活にも結びついているテーマであること。

1回目のダイアローグは、ふせんに自分の意見を書くのも精いっぱい。しかも、同じ中学とはいえ普段話さない人たちと話すので、ダイアローグもなかなか盛り上がらない。それもそのはず、本来なら大人でもグループに一人ファシリテーターがいるようにするのが常なのですが、生徒20名に対してファシリテーターは私1人。運営上、どうしても目が足りないのです。

そこで2回目以降は、作戦を立てました。
グループで一人ずつ、私の代わりにファシリテーター役、書記役をしてもらえる子を募って、その子に会の進行を委任したのです。ファシリテーターの人にやって欲しいこと、書記の人にやって欲しいことをそれぞれ説明し、グループでそれ以外の人は役割のある人に協力してもらうようにしました。すると、ダイアローグに取りかかるまでに時間がかかっていたのが、スムーズに話題に入れるようになりました。

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ダイアローグが盛り上がらなかったのは、子どもたちの積極性に原因があるのではなく、そもそも何をしたらいいか分からなかったから話せなかったのでした。やることがわかれば、みんな協力して進められる。すると、テーマ次第で子どもだけでも十分会話が盛り上がります。2回目以降、ダイアローグを純粋に楽しめる子も見られるようなりました。

ちなみに、第3回の書籍「14歳の自分に伝えたいお金の話」では、「100万円あったら何に使う?」という話題をテーマに設定。
しばらく生活に困らないくらいのお金を手に入れたら何に使うか、という問いは、個人個人で異なるはずなので、それぞれの考え方や価値観を知れると思ったのです。
すると、なんと貯金派が結構多数を占めていました。つまり、お金はあってもすぐ使わないで「何かに」備えるという子が多い。そこで私からも「貯金した結果、いつ使うのか?」「何のために貯金するのか?」とさらに質問。そこではっとする子もいれば、即答で起業のため!と答える子もいました。さらに「大金を手元に所持していること自体がどこか怖い」から貯金するといったように、本にはなかった視点も見つかりました。

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こうした対話の時間は、ABDのなかで知識を深めるために不可欠なものですが、この質問を通して、講師である私自身も少し子どもたちと仲良くなれる気がしています。

生徒たちがどんな力を使っているか?

さて、ここまで生徒たちの変化を追ってきました。

毎回、楽しく時間を過ごしておりますが、結局のところこれは「総合的な学習の時間」の立派な授業として行っています。ここではちょっと真面目に、これまでのABDではどのような「力」がついたといえるか、思いつく限り列挙してみました。

・本を読む集中力
・自分がまだ知らない事柄を文脈から理解したり、推察したりする読解力
・文章の中でどこが重要かを見出し、わかりやすくまとめる要約力
・大勢の前で本の内容を発表するプレゼンテーション能力
・説明を聞いて、自分の知識と関連づける体系的理解力
・膨大な情報の中から、どこに自分の関心があるのかを見つめる内省の力
・自分が考えたことを、理由を添えて他人に説明する力
・話を聞く傾聴力
・人の意見に共感し、励ます力
・人の意見に質問し、深い理解を促す力
・場にいる人が平等に話せるように、その場を回すファシリテーション能力
・リアルタイムの対話から要点を書き出す、書記能力
・自分たちの中で問題意識の共通点や差異を考えつつ、課題全体を把握する能力
自分が深く知らない人と対話する勇気
正解のない問いに自分なりの答えを開示する勇気
・授業での自分を振り返って自己評価する力

思いつくだけ書き出しただけでも16個。よく考えたらもっとありそうです。これらを、1回110分の授業で全部使うのです
(大人の講座で、お菓子が必須な理由がおわかりいただけるでしょうか?)

もちろん、これら全ての能力が全員につくとは限りません。知識や技能の習得には、生徒たち個人の得意・不得意や、学ぶタイミングが関係しているからです。しかし確実に言えるのは、生徒たちは毎回これだけの要求に答えてくれ、回を追うごとに確実に成長しています。その伸びしろは、言うまでもなく無限大と言えるでしょう。

読むのが早くなったり、発表が上手になったりする点は、子どもたち本人も比較的成長の実感を持ちやすいポイントだと思います。これに加えて、話したことのない人と話して、かつ対話を純粋に楽しめるようになることも、また成長の一つです。
あらためて、アンケートで3回のABDをやってみてどうだったかを生徒たちに聞くと、こんなコメントが返ってきました。

・(本を通して)人の感情や、事情を深く学ぶことができたので良かった。
・(リレー・プレゼンで)みんなのがつながったときが嬉しかったし達成感があった。
・ABDをやったことにより難しそうな本でも読めて理解できるようになった。
・本がもっと好きになれた気がする。

自分の変化を自覚できている子たちがこれだけいるのもアンケートからわかり、私にとってはとても嬉しいことです。

そして後半へつづく

さて、怒涛のうちに全10回の授業のうちの前半が終了し、夏休み以降は後半戦に突入。
ABDには慣れてきたものの、実はやりたいことがまだまだあります。

この授業を引き受けた当初、この授業のテーマを「メディア・リテラシー」としました。この言葉は、「本を読むことで情報をどう受け取るか」という文脈が強いと思いますが、今はこのことより強く意識していることがあります。
それは、「自分が全ての起点にいる」という感覚です。

生徒と触れ合うにつれて感じたのは、予想していた以上に、子どもたちは他人の前で「自分を出す」ということに慣れていない、ということです。

リレー・プレゼンでは、手元の本を見ながら、一言一句正確に伝えようとする子が多くいます。確かに正確さも大切ですが、コ・サマライズでまとめたことを伝えるだけと考えれば、そこまで内容が違うことはないはずです。その点に自信を持って「伝える」ことさえできれば、もっとみんなの記憶に残るプレゼンができそうです。
またダイアローグでは、役割分担で聞くべき質問を全部し終わってしまうと、暇になったなーという空気が流れることもしばしば。役割がないと、話したり自己開示したりすることができないということは、もっと自由に話す余地は残っているということだと思います。

これらの課題を乗り越えていくために、もっと「ここでは何を話してもいい」という授業の雰囲気をつくることが、講師である私の役割です。正しいことを発言しなくては、正しく振る舞わなければ、という空気の中では、人は自分が他と違う(正しくない)行動をすることに抵抗を感じてしまいます。
普段学校にいない私には、思春期の真っただ中にいる生徒たちの立体的な人間関係を把握するのは難しく、一人ひとりに適切なフォローができているとは言い難いです。それでも、教室全体へ語りかけることを通じて、少しずつ子どもたちの中に心理的安全性を構築することが、後半の授業の鍵を握ってくると思います。

そして、いよいよ夏休み。
次回の授業は、塩尻市立図書館にご協力いただき、図書館の資料を使った授業を行う予定です。こちらも、近々レポートしていきますのでお楽しみに。

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