像面位相差AFとコントラストAF, DFD技術

2021/10/27 に、OMDSとパナソニックが、新たな発表をするとウワサされている。

発表された後に綴ると掛けなくなる気がしたので、本項では像面位相差AFとコントラストAF、パナソニックのDFD技術について考察してみたいと思う。

少し時代は遡る。
オリンパスは、OM-D E-M1(初代) で初めて像面位相差AFを搭載した。

フォーサーズ機の戦艦であるE-5の後継機種として披露され、コントラストAFのみの搭載であったOM-D E-M5(初代)ではサクサク駆動させることが出来がなかったフォーサーズマウントAFレンズを、ネイティブに位相差AFで駆動できることで、実質、フォーサーズレンズの資産を活かしたいユーザーの乗り換え先としては唯一だった。

しかし、OM-D E-M1(初代)の像面位相差センサはパナソニック製だと言われており、長秒露光時の熱ノイズが悪く、私は星空撮影をすることがあるため、悩んだあげく、私個人としては見送りが決定した。
先に手に入れていた、コントラストAFのみの OM-D E-M5(初代) のほうが、画質素性が良かったと感じたからである。

E-5 が11点オールクロスセンサ(しかもオールツインクロス)を搭載していたのに対して、OM-D E-M1(初代) は、クロスセンサではなかったことも、懸念事項のひとつだった。

オリンパス ニュースリリース: 最高水準の高画質・信頼性を実現したフラッグシップ機、デジタル一眼レフカメラ「E-5」を発売
https://www.olympus.co.jp/jp/news/2010b/nr100914e5j.html

オリンパス、新フラッグシップ機「OM-D E-M1」 - デジカメ Watch Watch
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/614658.html

この記事によると、左右のチャンネルで位相差を得ることが明確に書かれているため、E-5ユーザーの一部のコアなユーザーのなかでは、AF性能がE-5に対して落ちることから、力不足を指摘されていた。

クロスセンサとラインセンサが混在している一眼レフカメラでは、どうしてもセンサーターゲットによって使い勝手に差が出てくることを経験的に知っており、E-5がオールクロスであり絶対的な信頼が置けたシステムであったために、そこからグレードダウンというのは、私としても納得いかなかったのが正直なところである。


その後、OM-D E-M1 Mark II が発表され、それらの流れが一段落した。
SONY製センサーに置き換えられ、高感度耐性や熱ノイズが飛躍的に向上し、像面位相差AFとしてオールクロスセンサが採用されたのである。
ついに、きたか!

連写&AF | E-M1 Mark II | オリンパス
https://www.olympus-imaging.jp/product/dslr/em1mk2/interview/feature1.html

【伊達淳一が徹底解剖!「OM-D E-M1 Mark II」の先進性】【高速性能編】一眼レフに迫る動体性能の秘密 - デジカメ Watch
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/dateem1mkii/1041430.html

詳しい人がいたら教えて欲しいのだが、像面位相差AFを搭載していながら、オールクロスセンサをうたう他社製カメラを見たことが無い。
「像面位相差 オールクロス」というワードでググってみると、OM-Dの話しか出て来ないのである。

いまや像面位相差AFを搭載したミラーレスの代名詞となっているSONY製ミラーレス一眼カメラよりも、OMDSが採用するカメラのほうがポテンシャルが高いのではないか?と想像しているのだが、演算能力の速度や、センサーサイズからくる位相検出画素1画素あたりのサイズが小さいことによる低照度時の位相検出S/N問題、全体的なアルゴリズムの課題もあり、画期的なセンサーを積んでいるのにも関わらず、なぜか話題にならないのは残念なところだ。

そんな OM-D E-M1 Mark II は、E-M1X、そして E-M 1 Mark III と進化していくわけだが、これらは全て同じセンサだと言われている。
カラーサイエンスや、センサ前に儲けられているフィルタ、コーティングの状態は世代によって異なるが、息の長いセンサであることは間違いないだろう。

ところが、こんな素晴らしい像面位相差AFを持ちながら、OMDSの位相差AFのアルゴリズムは、残念なことにC-AFにおいてはニコンやキヤノンの一眼レフで培われた動体追尾アルゴリズムには敵わない。

特許的な問題があるのか、エンジンの処理速度の問題なのかは定かでは無い。 E-5 の時点で、位相差AFとしては世界最速を謳うシステムを搭載しながら、C-AFに設定を変えると、ギュンギュンぶっ飛んでファインダーの中はお祭り騒ぎになる。

そこで言われたのは、例え動体であっても、S-AFの速度を活かして、追尾せずにその瞬間にAFを合わせて撮る方が歩留まりが良い、というジンクスである。
世界最速AFを謳うE-5を使いこなす上では、SWDレンズとS-AFで狙い続けるのが最も良いとされていたのは懐かしい話である。


そんなC-AFのアルゴズムにも転機が訪れる。
OM-D E-M1X、並びに、OM-D E-M1 Mark II のファームVer3.0だ。

小型・軽量、OM-Dシステムのプロフェッショナルモデル ミラーレス一眼カメラ「OLYMPUS OM-D E-M1X」を発売 :2019:ニュース:オリンパス
https://www.olympus.co.jp/news/2019/nr01027.html

「OM-D E-M1 Mark II」のファームウェア Ver. 3.0を公開:2019:ニュース:オリンパス
https://www.olympus.co.jp/news/2019/nr01269.html

OM-D E-M1X は後日入手したため、感動の変化は、OM-D E-M1 Mark II Ver3.0 で身をもって体感することになった。

従来までは像面位相差AFだと逆光時に全然AFが合わない問題や、低輝度時にAFが捉えられない問題があったのだが、この世代を境に、低輝度限界が-6Evに対応され、舞台撮影では暗転時の僅かな光のなかでも、強烈な逆光のなかでも、撮りたいと思ったときにAFが合わない問題が無くなったと記憶している。

当時は、OM-D E-M1 Mark II と OM-D E-M5 Mark II の2台体勢で舞台写真を撮影していた。
E-M1 Mark II のほうが当然スペックは上なのだが、E-M5 Mark II のコントラストAFオンリーのほうが、素直な応答をするため、AFは遅いものの、シャッターチャンス的に、「撮れる」と思ったものがカメラのせいで撮れないことが少なかったように記憶している。

私はピントが外れている写真はゴミだと思っているため、連写時は必ずAF追従モードで、AF優先とシャッター優先があれば、AF優先にしている。
そういう設定で撮影を行うと、ピントが合わなければシャッターが切れないわけだが、E-M1 Mark II のほうが、ここぞというタイミングでシャッターが切れずにヤキモキすることが多かった。

しかし、E-M1 Mark II Ver3.0 になってからは、こういう問題は各段に減り、撮影の歩留まりが大きく向上した。
同時にC-AFのアルゴリズムもかなり向上し、使い物になるようになったため、積極的に利用することになった。

従来から、顔認識は非常に便利で、舞台撮影では必ずONにしているが、「C-AFのオールターゲット+顔認識ON」の状態であれば、舞台にカメラを向けてシャッターを切るだけで、演者の誰かにはピントが合った写真が勝手に仕上がってくるため、撮影時には露出と構図に専念することが出来る。


前置きが長くなってしまったが、本項の本題はここからである。

C-AFを多用するようになってから、気になっていることがある。
目を見張るようなガチピン率が、S-AFのときよりも低下してそうだ、という事だ。

細かく言えば、E-M5 Mark II のときよりも、E-M1 Mark II、E-M1X、E-M1 Mark III の C-AF で撮った写真は、クッキリ感の低いカットが多い気がするのである。

これは、S-AFで撮影するとその問題は解消する気がしている。

実は、E-M1 (初代) のころから、オリンパスの像面位相差AFは、ハイブリッドAFのアルゴリズムが採用されており、S-AFのモードでは距離測距に像面位相差が用いられ、最後の合焦状態まで追い込む判定にはコントラストAFが使われてる。

一方で、C-AFモードでは、シャッターが切れる瞬間まで、像面位相差のみで駆動される方式なのだ。

個人的には、S-AFでもC-AFでも、コントラストAFのみ、像面位相差AFのみ、ハイブリッド、の3種類が任意でカスタム出来れば楽しいと思うのだが、今までのオリンパスの思想は、オリンパスが思う最高の条件を提供することをモットーにしていると感じられ、そういうユーザー選択機能を搭載されそうな予兆は無いし、実際のところ、そういう機能は無くてもあまり困らないような気はしている。

話を戻そう。
オリンパスが、わざわざ像面位相差AFを積んでいるのにも関わらず、S-AFモードではコントラストAFとのハイブリッド方式を採用し、像面位相差AFだけにしなかったのか。
ここを考えてみると答えは自ずと得られるだろう。

つまるところ、コントラストAFのほうが最終的なAF精度が良いということがわかる。

像面位相差センサは、一眼レフ時代の位相差センサと比べると、撮像センサと位相差センサの距離ズレ調整が不要な分、理論的には調整が不要で精度の良い測距情報が得られる反面、極めて近距離の画素ピッチのなかで位相検出する仕組みであることから、分解能には限界が有るのでは無いかと感じる。

三角測距では、測距ピッチがある程度ないと角度計算が大変なのと同じで、狭ピッチの位相差を高分解能で検出するのは、なかなか原理的に大変なことなんじゃないかと思う。(詳細はよく知らん)

一方で、コントラストAFの分解能を考えると、AFレンズ玉の駆動分解能と、撮像センサのビット数、解像度(画素数)に比例するものだと考えられ、ウォブリングによって得られるコントラストの最小変化ピッチと、山登りの頂点をコントラスト変化のなかから推定するアルゴリズムがあれば、時間は掛かるが極めて正確にピント探しが出来る仕組みだと考えられる。

そういうわけで、理論的にカメラの光学系スペック内で最良のピント位置を得るには、コントラストAFのほうが良い結果が得られる可能性が高い、というのが私の考えだ。

現に、工業用のミクロンオーダーを測る画像測定機などでは、ピント合わせにコントラストAFが使われている場合が多い。
可視光レーザーAFなどが付いているものもあるが、コントラストAFが併設されていて、レーザーAFが合わない場合はゆっくりでも良いのでコントラストAFで合わせ直す、みたいなことをする。

TOF方式や、LiDAR方式(非可視光)というような新しい方式もあるが、現状のミラーレス一眼ではいずれも私が知る限り採用されていないので横置きとする。

ところで、最上位機種から低価格機種まで、頑なにコントラストAFのみを作用し続けているメーカーがパナソニックだ。
LUMIXブランドで展開されるデジカメは、フォーサーズ一眼レフ時代を除けば、全てコントラストAFが採用されてきたはずだ。

コントラストAFは先にも述べたように合焦精度が良いのがメリットだが、デメリットとして距離情報が得られない点がデメリットである。
これに対してパナソニックは、空間認識AFという謳い文句で、DFDという技術をもってアプローチしてきた。

インタビュー:LUMIX GH4の「空間認識AF」は何が凄い? - デジカメ Watch Watch
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/interview/649605.html

パナソニック「コントラストAFが現時点で最良の方式だが、方式にこだわりはない」 デジカメライフ
https://dclife.jp/camera_news/article/panasonic/2019/0325_02.html

この記事によると、DFDとコントラストAFのハイブリッドAFであることが明示されている。

オリンパスは画面全体で深度マップを作っているという話を聞いたことがある。

パナソニックはDFDで同様の深度マップを作っているのだろうと思うが、ボケ過ぎているときに、今のDFDは本当に無力だ。
わずかなボケ具合で、ウォブリングをすることで像変化が起こるような、コントラストAFでの追い込み一歩手前くらいの段階では有効に働くが、特にレンズデータを持たない他社製レンズなどでは無力である。

もし、パナソニックが像面位相差AFを採用する場合は、特許回避などの観点を含めて、像面位相差+DFD+コントラストのトリプレット機構を積んでくるものと想像している。

像面位相差で遠距離情報を得てDFDに情報を繋ぎそこから従来通りコントラストAFにバトンタッチする。
この方式であれば、パナソニックユーザーが懸念している、「像面位相差を積んだからといって直ぐに動画に見合うAFにはならない」という点は、従来のアルゴリズムを継承したまま、遠距離ピンぼけを救えるのでは無いだろうか。

もっとも、像面位相差を積んだ場合、DFDにバトンタッチするメリットがあるかどうかは正直疑問だが、コントラストAFガチピンに近い位置までレンズが駆動された状態において、像面位相差での測距精度と、DFDの測距精度、耐暗所性能、耐逆光性能、さまざまな環境下において、どちらが有利なのかは、そのうちパナソニックが答えをだしてくれるだろう。

パナソニックがこの先、カメラ業界で生き残る術は、画像内の深度マップを、暗部や逆光、高輝度領域を含めて精度良く取得する技術を搭載し、人体認識などに繋げることだ。

パナソニックの凄いところは、とんでもなくピントが大ハズレしていながらも、人体認識、顔認識、動物認識してしまうところなので、深度マップ精度が上がれば、素晴らしいカメラになるのではないだろうか。


OMDSがこの期に及んで像面位相差を手放すことは無いと思うが、動体追尾のアルゴリズムは、実は初速が遅く、最初に食いつくまでの時間が長いという問題があるので、これはエンジンの処理速度を上げてしっかり対処してほしい。

この点で、E-M1X は E-M1 Mark III よりも明らかに速いため、C-AFを多用するのであれば、E-M1 Mark III よりも E-M1X を勧める。

しかし、半押ししていからの食いつきの遅さは、ターゲットサイズをオールターゲットにしていてもシングルターゲットにしていても、画面全体の深度マップをつくるオリンパスのアルゴリズムがあるために変化がない。

その代わり、シングルターゲットにしていても、顔認識をONにしていると、ターゲットポイントとは関係無い場所に顔が合っても認識してそちらにピントを素早く合わせる、というヘンタイな芸当をやってのける。

顔認識しなくなるとこまるようなシーンでは、シングルターゲット+顔認識で撮影を行っておくと、顔認識が外れても、任意のシングルポイントで撮影を追いかけられるのでオススメだ。


いずれにしても、今後のマイクロローサーズ陣営の2大メーカーの動きから目が離せない。
2021/10/27 になにがあるのか、ワクテカしながら待とうではないか。

<まとめ>
・パナソニックはDFDでの測距アルゴリズムを100倍よくするか、像面位相差を搭載するか、別の仕組みでピントに関係無く測距する方法を搭載しないと未来は無い。

・DFDとコントラストAFは別モノ。
コントラストAFがダメだ、と言っている人もいるが、それは間違い。
コントラストAFは極めて精度の高いAF合焦技術。

コントラストAFが悪いわけじゃなく、空間認識AFであるDFD技術が、適切な測距を取得できないのが問題なので、パナソニックはどうにかして下さい。
技術成熟していないDFDが問題なんですよ。

・OMDSは、C-AFの食いつき速度を向上させて欲しいのと、C-AFでも精度優先モードをつけて、最後にコントラストAFで追い込むモードを付けてもいいと思うんですよね。

例えば、シャッターを切った瞬間、C-AFで検出したところにピッタリ合わせに行くんじゃなくて、少し通り過ぎる所まで持って行き、その過程でコントラストも検出して、戻しながらコントラストの山を見つけ直すと、ウォブリングは片道で済みますよね。

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