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醒めの瞬間

霧雨が降る薄暗い路地を、一人の青年、健太が肩を落として歩いていた。彼は、最近自分の趣味について考え込んでいた。

かつては、健太はトレーディングカードゲームに夢中だった。仲間と集まって対戦し、レアカードを引いたときの高揚感は格別だった。しかし、次第に疑問を抱くようになった。この趣味は本当に自分にとって楽しいのだろうか?それとも、単に他人に流されてお金を使っているだけなのだろうか?

ある日、健太はふと冷静になった。そして、自分がしていたことは単なる消費であり、自分なりの楽しみではなかったことに気がついた。彼は、まるで高尚な趣味であるかのように誤解していたことに落胆した。

その瞬間、健太は自分が世の中の後追いをしてきたことに気づいた。流行したものや、他人から勧められたものに乗っかってきたのだ。自分の本当の声に耳を傾けず、ただお金を浪費してきた。

彼は、自分と同じように他人に流されて消費に溺れていた人々を思い浮かべた。高価なブランド品を買ったり、高級レストランに行ったり、海外旅行に行ったり。彼らは、まるで自分たちのライフスタイルが特別で高尚であるかのように錯覚していた。

しかし、ふと立ち止まって考えるとき、彼らもまた単なる消費者に過ぎないことに気づくはずだ。彼らの喜びは、物質的な所有物や体験から得られる一時的なものでしかない。

健太は、路地の角を曲がると、小さな喫茶店が目に入った。彼はため息をつき、中に入った。

店内は薄暗く、静かだった。健太は窓際の席に座り、コーヒーを注文した。窓から外を眺めると、雨粒が窓ガラスを伝っていた。

健太は、コーヒーをすすりながら、自分のこれからについて考えた。もう他人に流されるのはやめよう。自分自身の興味や情熱を見つけて、自分なりの生き方をしよう。

彼は、自分の本当の声に耳を傾けることにした。自分の好きな本を読み、好きな音楽を聴き、自分の興味のあることを追求した。

最初は戸惑いもあったが、次第に自分らしい生き方を見つけていった。健太は、自分が本当に楽しめる趣味を見つけ、充実した毎日を送るようになった。

あの落胆した夜から数年後、健太は再びあの路地を訪れた。雨は上がっていたが、路面は濡れていた。彼は窓際の席に座り、コーヒーを注文した。

窓から外を眺めていると、かつての自分が同じようにこの窓から雨粒を眺めて落胆していたことを思い出した。しかし、今はもう違う。健太は自分の生き方に満足している。他人に流されることなく、自分なりの道を歩んでいる。

そして、健太は悟った。醒めることは、決して悪いことではない。それは、自分自身と向き合い、自分の人生を生きるための第一歩なのだと。

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