JapEn 19th 感想

毎年クリスマス時期になると公開される日本ペン回し界の伝統行事、JapEn。今年で19作目となる(※)
僕は3rdからリアタイしているが飽きることなどは全くない。いつだって強烈な高揚と感動を与えてくれる。
公開の瞬間はどんな事よりも最優先で観る。高級フレンチのメインディッシュが目の前に置かれていようが、美女と枕を交わす瞬間だろうが関係ない。絶対にリアルタイムで観ると決めている。
(※JapEnは12のみ2つあるが、本稿では1年で1作品と数えている)

19年もあれば、JapEnの歴史よりも年齢の若いペンスピナーがJapEnに出演する、なんて事も起きる。
ペン回しはまだ未発展のジャンルで、毎年のように「トリックは出尽くした」と言われていながらも、あちこちで新たな要素が露出する。
そうやって、今こうしている間にも着実に歴史は塗り重ねられていく。その最先端を見ることができるのがJapEnだと僕は思っている(日本ではね)。

とりわけ何かを成し遂げたわけでもなく、ただ悪態をつき汚名ばかり積もっていく残念極まりない身分と化した僕だが、この時期だけは来年こそは自分もと毎年思わされる。賞味期限切れの腐ったスピナーでさえも鮮度を取り戻すほどの魔法がJapEnにはある。

前置きが長くなってしまったが、ここからはそんな素晴らしい日本ペン回し界を代表する本作の記念すべき19作目を通して感じた事を述べていこうと思う。
(!注意:後半に出演者さんについても述べておりますので、見る際は自己責任でお願いします)

JapEnに関わると言うこと


まずは制作陣、もとい制作に関わった全ての皆様。本当にお疲れ様でした。
そして、今年も素晴らしい作品をありがとうございました。

CVと呼ばれる文化により、ペン回しと言うコンテンツには副産物的に動画編集の技術も磨かれる側面を持つ。それもあってかもはやプロ並みと言える程のクリエイターも多く、職業として発展しているケースもあるとかないとか。
そのせいもあり、ここ数年のJapEnはただのCVに収まってはいけないと言う命題を抱え、制作に携わろうと名乗り出る者があまり多くないのが現状だ。

かつSNSの台頭やKay君の影響などによりペン回し自体の認知度も高まり、メディアでも度々取り上げられるなどしていく中で、そのトップに君臨するであろう作品としての期待値は青天井となっている、、、ように内側からは見えてしまう。
もはや単なる"趣味の延長"を超えた究極のステージ。JapEnはよりドラマティックでなければいけないものになったように思える。

プロに楽曲の制作依頼をしたり、大規模なイベントを開催したり、グッズを制作したり、多方面に宣伝するなど、制作陣の負担を考えるともうボランティアでやらせていい仕事量ではないと思う。
もちろん誰もそうしろと言ったわけではない。言ったわけではないが、このとんでもない期待値のスケールでいい加減な仕事が許されるはずもない。
この異常な責任を背負い必死で奔走している彼らを見て「勝手にやってる」などと思えるだろうか。いや、それこそ勝手すぎる感覚なのではないだろうか。
こんな所業はもはや中高生にはほぼ不可能だろう。大学生でもギリギリだろう。社会人なら可能とは言え、仕事をしながら自由な時間をなげうってJapEnに血肉を溶かしているわけだ。

この彼らの頑張りが多くのペンスピナーには伝わっていないように見える。それはあまりにも悲しい。ましてやここ数年は運営を阻害するような悪評を広めるような行為が散見される。マジか君たち。マジなのか、それは。
ペン回しが好きなら、ほんのちょっとでも界隈が良くなる方に時間を割くことはできないのだろうか?
同じようにしてペン回しを愛し、たくさんの人を感動させたいと日夜制作に取り組んだ制作陣に、多少なりとも力添えしたいとは思えないのだろうか?
お前が言うなと思うなら、僕みたいにならないように人に優しくしてくれたらそれでいい。

それと、作品に対してのネガティブな感想もあった。
もちろん、全てを肯定し、全てを褒めろとは言わない。創作物である以上、全ての人間の琴線に触れる事など不可能だし、作品の良し悪しの基準はだれにも強制できない。
ただ、せめてまずは労いの一言くらいはあっていいのではないかと思う。お疲れ様くらい今なら3秒もあればpostできるし、それで救われる人もいるのだから。
そして一年に一度、センセーショナルな感動を産み出してくれた事に感謝の二言目を。どうか彼らに。

編集について

前置きの前置きが長くなってしまった。
素晴らしい編集でした。本当にお疲れ様でした。

専門的な知識はないため、主観的な感想になるが、「日本のCV」らしさを全面に押し出したような形になったと感じた。
SpinFest2019を彷彿とさせるような大正ロマン的演出はペン回しとの親和性が高いと思わされた。
とても良かった。

正直、最近は編集の水準がめっちゃ高いので、すごい編集ってよりかはアイデア勝負みたいなところあるかなーと感じていた。
今作のような日本全開放みたいな編集は斬新な発想でこそないけれど、逆を言えばこのパッケージに新しいも古いもないかなと思った。

特に「ペン回しの見やすさ」についてはここ数年で最も意識されているのではないかと感じた。

出演者について

まず、みなさん本当に素晴らしい役割を果たしていました。紆余曲折あったでしょうが、まずはお疲れ様でした。

落選した身なので、羨ましいなーと言うのが第一に来るが、じゃあこの中に自分のあのFSが入っていたらと思うとゾッとするので出なくて良かった(そもそもあんなFSで出れるわけがないのだが)。
とまあ、自分語りはこれくらいにして、遠慮せずに素直な感想を述べたいと思う。
※褒めるだけではないので、閲覧時はご注意下さい。

・aonekoさん
トップバッターはDr.Grip使いのJapEnではお馴染みaonekoさん。
私は毒栗使いは主に2種類のタイプに分かれると考えている。
・Dr.Gripだからできること
・Dr.Gripでもできること
伝説の毒栗使いであるEaseさんは前者で、aonekoさんは後者を代表するスピナーだと認識している。
(最近はpineさんのような新しいタイプも存在しているが)

aonekoさんは明らかに毒栗でできっこないことをやっている。単発でも何十回チャレンジしてやっとできるかできないかな技を一つのFSにいくつも組み込んでいる、完全なパワータイプ。思いついてもやらないやつ。凄まじすぎる。

そんなaonekoさんを見てきたが故に、今回のFSは割とさっぱりした内容だったように思う。
もうちょっと変態的な難易度の見せ場があっても良かったかなと感じた。
あんまりJapEnっぽくないと言うか。
技術力は申し分ないので、魅せ方においてもまだ進化の余地があると思う。

・Cakeさん
破壊的すぎる。これがJapEnなんだ。
とんでもなくペンが踊っている。
正直わかるところの方が少ないので具体的なコメントには困るが、環境、ペンの色、アングル何から何まで「Cake」を体現しているように見えた。
私はこの実力の爆発みたいなものをJapEnで見たい。

ノエ泥系?の系譜ではあるが、完全に自分のスタイルとして飼い慣らしている。
もはや二番煎じではなく、Cakeと言う一つのスタイル。
こんなにぴょんぴょん飛び跳ねているペンを制御できるのはすごい。
〆凄すぎる。
お見事。あっぱれです。言うことないです。

・『Beat Red』さん
クラシックスタイルからの参戦。
めっちゃ回ってる。ラダーかっこいい。
正直、専門外と言うかこのようなニッチなジャンルには余り口を出したくないと言うのが本音、、、。

ビートレさんの指使いは個性的と言うか、指が基本的に弧を描いた形をしているように見える。個人的にはここが魅力だと思っていて、特にシャドウ系など手の甲側でペンが回るときに何とも言えない旨味を感じる。

そして何より、目新しい事をしない勇気に感動する。スタイル的に当たり前ではあるが、オーソドックスなトリックで見せ場や展開を作れるのは本当にすごい事だと思う。
それでいてこの見ごたえのある内容にするのは、近代的なペン回しとはまた違った技術だろう。
このやや薄暗い中にうつる赤いデスク。これだけでビートレさんだとわかるブランディングも流石。
そして〆に衝撃を受けた。
1212spで〆れるか? 私は絶対に無理。

・Nanafushiさん
ジャパモの血継網羅ナナフシさんが今年も登場。
理解系の人たちのペン回しは、ノエ泥系とまた違ったベクトルで全くもって何をしてるのかわからない。
ナナフシさんの登場によってペン回しに新たなトレンドがもたらされたのは間違いなく、今年のJapEnでもそのスタイルがいかんなく発揮されている。

やや低速でさらさらとよく分からない事を連発することにASMR的な快感を覚える。普通の人がやったらグシャりそうな繋ぎ方も全く途切れる事のない一連の流れの一つでしかないかのように軽くこなすところがカッコいい。

しかしながらその反面、この「よく分からなさ」が悪さをして、どのFSを見ても同じくらいよく分からないため、FSごとの区別がつきづらいと言う課題が見えてきたように感じた。

個人的にファンなので今回のFSも大好物なのだが、贔屓目を抜きにすると、そろそろ次のステップを目指す必要があるのかなと感じた。
JapEn3rdが公開されたあたりの頃、とある有名な方の「JapEnはいつもより上手くないといけない」という言葉を目にしてからずっと心の中にある。

単調に見えないようにスピード感やキレを意識するのか、それとも従来のオーダーのセオリーに何らかの着色していくのか、挑戦できることは全て試してみると良いのかもしれない。

・Sariaさん
明らかにおかしな難易度を軽々とこなす技術派。
今回のFSも本気度がめちゃくちゃ伝わってくる。
実は結構なファンで、いつも陰ながらうまいなーと思って見ているのだが、正直JapEnのFSより他のFSの方が上手いと感じてしまった(ごめんなさい)。

これの難しいところは自分にとっての認識とオーディエンスの認識との距離感にあって、多くのペンスピナーがそこで一度はつまずくと思う(私はまだ抜け出せていない)。

ちらほら「回っていない」との評価を目にしたが別に回ってはいると思う。(回っていないって何だろう)
それに斬新なトリックや高難易度な繋ぎを随所に散りばめており、FSとしては非常に濃い内容となっているのはわかるのだが…

あまり展開を感じさせないのと、やや完成度が低いと思う部分があったりで、せっかくの内容の濃さが伝わってこないのがもったいなく感じた。
これまでの活動を見ても課題への対応は早いと思うので、2024年は更なる進化に期待!

・葉脈
北海道組からの出場!おめでとう!
JapEn狙えると思っていたので本当に嬉しかった。
正に唯一無二の葉脈スタイル。唯一無二すぎで評価が追いつかなかったがとうとうここまできた。

「なんか面白い動きしました」
「なんか変な技ができました」
みたいな実用性ではなくアイデアで誕生したトリックをそのままFSにしてしまったみたいな奇才タイプ。
特にアクロバティックなトリックは頭ひとつ抜けており、実際にオフ会で目にした時も「え、それ手癖でやってたんだ」って思う技のオンパレードで度肝抜かれた。

この好きな事を貫いて評価されるパターンってやたら感動的なんだよな〜。
指遣いとか完成度などの課題はあれど、繊細さと大胆さを同居させるのはけっこう難しい。
そもそも彼の代わりを務まる存在がどこにも居ないので、このまま競合不在のままクオリティ上げ続けていって欲しい。

・Shadixさん
めっちゃ速い、めっちゃ上手い。
オーダーで目を見張る部分はあんまりないけど、とにかく疾走感が半端じゃない。
見ていて快感性が高く、歴数年ではたどり着けないよなぁと思わされる貫禄と勢い。
それこそ繊細さと大胆さが同居している印象。

賛否あるようだけど、めちゃくちゃ上手くね?
JapEnらしさと言われるとうーん…だけどいても浮かないんだから凄い。
古参枠としても見応えあったからヨシ。

そもそもShadixKTけっこう重いのにこの速度で回せることがすごい。
〆の最後ペンが勢いを消しきれずちょっと揺れる感じ死ぬほど好き。

・yuaさん
ピョー大ファンです。
手に勢いがないのにペンが回っているの凄すぎる。
yuaさんのもつ「静かさ」がとても心地よく、それだけじゃなくて非常に独創的なオーダーを持ち合わせている。
こんな天才いないとずっと思っている。

手のブレが本当に少なく、おそらくそれが静かさに一役買っている。
跳ねたペンを小指で受け止める時、あの時は世界中の時間が停止したと思うほどにピタッと止まっていて気持ちイイ。
序盤のマルチプルもまるでやってないみたいに回してる。

〆のスクエアだけちょっと不安定なのがもったいないかな(かえってそこで動を手にする的なストーリーで昇華したので個人的には腹落ちしている)。

・a_l_pさん
独創的なトリックを緩急なく行う。回転面が立体的な印象。
技術はあると思うが、個人的にはいつ見てもおんなじ感じがあって魅力が伝わってこない。
オーダーもあまり良いと思ったことがなく(特に〆が毎回微妙)、今回も同様の印象。
これは確実に私と世間の基準が乖離しているだけなので、マイノリティな感想だと思っていただけたら、、、。
上記のこともありあんまりコメントできることがありません…すみません。FSの内容は高水準だと思います。

・AiMoさん
抜群に上手い。
ペンスピ学者ならではの学術的な発想で生まれる技、コンボは見るたびに「その手があったか」と思わされる。
AiMoさんはジャパモだけじゃなく、様々なトリックの応用が本当に上手く、その上コンパクトなスタイルと思いきやけっこう奇抜なムーブメントも織り込む底知れないスピナー。

とは言え、スタイルの都合上、違いがあってもやや単調にうつりやすく、それを払拭するためか一時期は若干迷走しているのかな?と思う場面もあった(気のせいだったらごめんなさい)。

そして今回のFSは明らかにその課題をことごとく突破し、ネクストAiMoへ進化していると確信させられた。
どんどんスピードやキレが増し、直感的な動きも作り、これまでの集大成がここで出たなと思った。
軽くオーダーなぞってみたが、この人はネタが無尽蔵なのかと思わされるほど素晴らしい内容なので是非みんなも解析してみよう。

・Kay
プロの威厳見せつけてきやがった…。
両手回しに関しては発展余地がまだまだあるジャンルだし、あんまり着手しているプレーヤーもいないからこそ、評価基準もはっきりしないところだけど、その第一線にいるKay君の本気が見れて嬉しい。

使っていない方の手への気遣いもすごいし、片手へのトランジション、両手を使ったトリック、安定感や加速のタイミングなど高評価ポイントがたくさんある。
環境やアングルも素晴らしいし、動きの割にはフレームアウトもしていない。 強いて言えばレベルだけど、〆がちょっと気合い込め過ぎちゃったかなくらいで、プロのスピナーとしての意地を強く感じた。

しかも公募枠で勝ち取ったらしいのがめちゃくちゃカッコいい。
日頃のKay君へのネガティブな意見(有名税だろうけど)を黙らせるには十分すぎるクオリティだったと思う。

・Azukiさん
個人的MVPです。
上手すぎて言えることがフレームアウトもったいねーくらいしかない。
見てて気持ち良すぎる。

例年JapEnからG3系は減っていっている。
トレンド的にG3で出来るトリックが少なかったりするせいもあるからだろうか。
そういった意味では分母の少ないG3のハードルが上がっているように見えるが、AzukiさんのFSはそれを跳ね除けて最高峰だった。

特に緩急の付け方に関してはここ数年で最も上手なFSを見たなと感じた。
キレや安定感も混在し、見応え抜群。
技やコンボの取捨選択も完璧に等しい。
詰め込み過ぎていないからこそ見せ場が際立って見応え抜群。
超濃厚な13秒間だった。

Cakeさんと同じく完全体すぎると言うこと無くしちゃうなぁ。
マジで最高でした。半端じゃないっす。

・Jujorous
眼福。眼福。
めちゃくちゃファンです。
Jujorousさんのトリが拝めて良い年の瀬になった。
リバースの部分やエアスピの部分に痺れた〜!

招待枠と言うことで様々な苦悩があっただろうが、個人的にはとても良かったので特に言うことなし。

最後に

偉そうに語っちゃって本当にすみませんでした。

最高の作品をありがとうございました。
また挑戦します。

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