【 チェイサーゲームW 】第4話 小説風にしてみた
「お邪魔しまーす。」
冬雨の家の前で思いがけず冬雨に出くわしてしまった樹は、家にお邪魔する事になった。
「月、手を洗いに行こう。」
冬雨が月ちゃんと手を洗いに行ったので、樹は所在なげに部屋を見回していた。
( 冬雨はここで家族と暮してるんだ。
月ちゃんって言ったっけ?赤ちゃんの頃からの家族写真が何枚も飾ってある。冬雨と離れて5年。ここには私の知らない冬雨が沢山詰まってるんだね。)
冬雨がお腹を空かせた月ちゃんに、コンビニおにぎりを食べさせようとするのを見た樹は
「しょうがない、台所借りるね」
と手際よくシチューを作った。
「料理得意だったの?」
冬雨が聞くと
「昔作ってよく一緒に食べて…。」
そこまで言ってハッとし続く言葉を飲み込んだ。
月ちゃんがシチューをこぼしても、台拭きの位置も着替えの場所も分からない冬雨に変わって樹は甲斐甲斐しく世話を焼いた。
まるで子供が2人いるみたい。
昔から冬雨のお世話は私がしてたもんねと、樹は何だか楽しそう。
「これが朝ご飯。月ちゃんのお弁当は、これ。」
「じゃあ、帰るから。」
と言うと冬雨はほっぺたを膨らませ
左手で髪をくるくる回した。
私が目を合わせると慌ててそらす。
冬雨の甘える時の仕草だね。
そんな仕草されてほっといて帰れないよ。そうでしょ、冬雨。
月ちゃんに懐かれてしまった私は、冬雨と一緒に寝かしつけをすることになり布団に入ってる。冬雨に背を向けてても背中から冬雨を感じる。振り向いて手を伸ばせば手が届く距離、そう思うと胸が高鳴った。
冬雨がベッドから起き出した。
月ちゃんもう寝たのかな?
しばらく様子をみて樹も起き上がろうとすると
ガッシャーン!!
慌てた樹が冬雨の所に行くと電子レンジで温めたグラスが割れていた。
樹はまたせっせと割れたグラスを片付けるのだった。
樹に帰って欲しくない冬雨が、耐熱ガラスではないグラスをわざと使ったからだとも知らずに。
2人は向かい合って座り
温めたミルクを飲んでいる。
「旦那さんの家出は初めて?」
「うんっ。」
「じゃあ、急に帰ってくるかもね。」
「急に帰ってきても大丈夫でしょ。女同士だし。」
「うん、女同士だもんね。」
2人っきりになれたのに 互いの頭をよぎるのは
冬雨には旦那さんが…。
私には夫が…。
何でこんな風になっちゃったんだろう?
2人とも深いため息をついた。
次の日のミーティングで冬雨は
「現在評価は71点。合格ラインは90点。来週から私の上司も日本に来ます。頑張りましょう」と皆に言った。
アルバイトが全員辞めるというトラブルも、何とか全員で乗り切った。
梨沙と綾香が冬雨から漢方をもらったと聞いて、本来の優しい冬雨をわかってもらえたようで嬉しかった。大学時代風邪をひいた時、中国粥を作って食べさせてくれたことも懐かしく思い出した。
仕事の方はどうにか乗り切ったが、冬雨の夫は未だに帰って来ない。
その間、料理も家事もできない冬雨に代わって毎日私が手伝いに行った。
月ちゃんはすっかり私に懐いている。
天女世界のゲーム開発は北米のある会社に決まっていたが、冬雨はそれに反対。半ば強引にDD社に変えた為、もし思うような結果が出せなかったら彼女の首も飛ぶらしい。
冬雨と月ちゃんとの生活は妙に心地よかった。私は心のどこかでこの時間がずっと続いてほしいとさえ思っていた。
いつものように樹が月ちゃんを寝かしつけて下に降りると、冬雨がレンジで牛乳を温めていた。ドアの隙間からそっと見ていた樹は、ちゃんと温めれるようになった冬雨に優しい眼差しを向けた。
それに気づいた冬雨が「飲む?」と聞いてきたので樹は頷いた。
最初に冬雨が口を開いた。
「嫌じゃない?」
「何が?」
「昔、付き合ってた相手の子供見るの…。私は…嫌。」
「私だって積極的に見たいわけじゃなかったけど…。」
「私のせいだよね。
私たちってなんでこんな風に…。」
「えっ?」
「何でもない」
冬雨は言った後で少し後悔しゆっくり首を振った。
「樹ちゃーん。樹ちゃーん。」
月ちゃんの呼ぶ声が聞こえた。
樹は慌てて月ちゃんの様子を見に行った。
カーテンから覗く朝の光で目を覚ました冬雨は自分がソファーで寝てしまったこと、ブランケットがかけられてることに気づき慌てて2階へ上がった。
月の部屋を覗くと一晩中月の看病をしてくれた樹が言った。
「入らない方がいい。ウィルス性だったら伝染るよ。」
冬雨は仕事を休むわけにもいかず職場に行ったが、2人のことが気が気ではなかった。そして、樹からの電話で月がウイルス性の風邪だと聞かされた。
「あなたは?」と聞くと
「私も三日間隔離だから、このままここで月ちゃんの面倒みるよ。冬雨の上司が来るのは4日後でしょ。それまで何とか頑張って」
そう励ましてくれた。
冬雨は樹に申し訳ないと思いながらも甘えることにした。
そんな樹はあと3日間ここにいられることが内心嬉しかった。
冬雨は仕事が無事一段落つき、やっと早く帰って2人に会えると思うと仕事の疲れも吹っ飛んだ。
皆から離れ別室で月と樹から送られてきたビデオレターをニヤつきながら見ていると、呂部長から着信が入った。
明日来るはずだった呂部長は予定を変更し、今からミーティングをする為にやって来るという。
冬雨はしばらく頭を抱え考えていたが
月に電話した。
「今日はお仕事で帰れなくなったから会えないの。ごめんね。」
電話の向こうで月が泣き叫んでいたが、冬雨にはどうすることも出来なかった。
呂部長はミーティングをしながらどこか上の空。冬雨のデスクの家族写真を舐めるように見回していたが、大した話は何もなかった。
ミーティングが終わると冬雨は呂部長に、半ば強引に食事会に連れていかれた。
樹がグズっていた月ちゃんをやっとの思いで寝かしつけた、その時
ガチャっ!
玄関のドアが開く音がしたので急いで下に降りると、玄関にしゃがみ込んでこちらを見上げる冬雨がいた。
私と目が合うと嬉しそうに
「ただいまぁ~。」
とめっちゃ甘ったるい声を出してきた。
樹は、はぁ?その態度はなんなの?
と頭にきて
「飲んできたの?」
と冷たく聞いた。
冬雨はバツが悪いのか、聞き取れるか聞き取れないか位の小さな声で
「うん。」
そう言いながら上着を脱いでいる。
「大変だったんだから月ちゃん。今日ママに会えるの楽しみにしてたんだよ。それなのにドタキャンして、挙句に自分は酔っ払ってこんな夜遅くに帰ってきて、だから旦那さんだって出て行っちゃうんだよ。」
樹は感情を一気にぶつけた。
黙って聞いていた冬雨は
( 樹のバカ!こっちの気も知らないで!理由くらい聞いてくれたっていいでしょ?私だって帰れるものなら帰りたかった。でも無理だったんだもん。樹だってお仕事頑張ってって言ってくれたじゃん。だから私、樹に褒められたくてめっちゃ頑張ったのに。なのになんで叱られなきゃいけないの?褒めてくれると思って、早く会いたくて、これでもバカみたいに急いで帰ってきたのに。
「はい、お水。」とか期待してたのに。
樹のバカ!! 大っっっ嫌い!)
そして冬雨は爆発した。
「嫌なら樹も出てけばいいじゃん。」
「えっ?」
「出てっっってぇぇーーー!」
と力の限り叫んで樹を睨みつけた。
樹は部屋に戻り荷物を詰めながら
「冷蔵庫に月ちゃんの朝ご飯入ってる。じゃ、私行くから。」
そう荷物を持って出て行こうとした。
「ホントに出てくの?」
冬雨はさっきとは打って変わって泣きそうな声で聞いた。
「出てけって言ったのは冬雨でしょ」
売り言葉に買い言葉で返事をすると、
冬雨は体を張って樹を止めようとした。
何度か押し問答を繰り返したが埒があかず、最後の手段とばかりに、冬雨は樹を抱き寄せ無理やりキスをした。
驚いた樹が冬雨を思いっきり突き飛ばすと、冬雨は尻もちをついた。
「投げ飛ばすことないじゃん。」
「冬雨、こんな時にズルいよ。」
「ずるい…?ずるいのは樹の方でしょ?だってそうじゃん。私があなたなしでは生きていけないってわかっていながら、なんで裏切ったの?ねぇ、なんで捨てたの?」
今までずっと聞きたくて、でも1番聞けなかった言葉を樹にぶつけた。
「やっぱり冬雨だと物足りないんだ。ごめんね。」
大学時代のあの日、樹は私じゃなく青山くんを選んだ。だから4年近く愛し合った私を捨てたんでしょ?
「ずっと一緒にいるって約束したのに。」
冬雨は子供のように泣きじゃくった。
「ごめん。」
「謝罪なんか聞きたくないよ。あなたに捨てられて、私がどんな惨めな気持ちになったか知らないでしょ?
ねぇ、ねぇ?」
「ほんとにごめん。」
「来ないでよ。ヤダってば」
怒りにまかせて暴れまわる冬雨を、樹はなだめようとして揉み合いになった。
そして、何とか後ろから抱きしめるとこう言った。
「ホントにごめん。こんなにもあなたを傷つけるなら断ればかった。」
「大学時代あなたのお母さんに、中国では同性愛は幸せになれない。だから娘と別れると約束してください。お願いします…と言われた。だから青山君に頼んで浮気相手のふりをしてもらったの。」
「でも、浮気はしてないっ。絶対に。」
そう樹は言った。
「なんで本当のこと言ってくれなかったの。」
「あなたのお母さんと約束したから。」
「ママより私との約束大事にしてよ。」冬雨は心から叫んだ。
「私だって、本当は別れたくなかった。ずっと一緒にいたかったよ。」
「樹…。」
「私は今も冬雨のことが好きなの。」
「私も…私も…樹のこと愛してる。」
その時互いの気持ちが通じあった。
樹は泣きじゃくる冬雨の首に後ろから手を回し自分の方に引き寄せると、熱いキスを交わした。1度離れお互い視線を交わしまたキスをする。2人は愛を確かめるように何度もそれを繰り返す。冬雨も樹の頬に手を当て髪を優しくかきあげる。お互いの溢れる想いはもう止まらない。樹が冬雨のファスナーに手をかけ下ろすのと同時に冬雨は自ら服を脱ぎ始めた。この先体を重ね2人がひとつになる為に。
冬雨…。私は1度あなたの手を離してしまった。あなたを思っての行為が結果的にあなたを傷つけた。私が負わせたその傷。その傷をいま私が癒してあげる。優しい指使いで冬雨の肌に触れながら樹はそう思っていた。
冬雨は、何であの時樹を信じきれなかったんだろう。ショックのあまりすぐ中国に帰ってしまった。あの時、樹は浮気なんかする人じゃないって信じて話し合ってさえいれば。
お互い色んな感情を抱えながら「今だけはすべてを忘れ相手に身を委ねていたい。」2人は同じ気持ちだった。
冬雨は上目遣いをしながら甘えた声で聞いた。
「泊まってく?」
「泊まってって欲しい?」
そう樹が聞き返すと布団を頭まで被り少しだけ顔を出した冬雨が恥ずかしそうに頷いた。
「うん」
樹はこれでもかってくらい甘々な声で、既にとろけそうな冬雨に囁く。
「いいよぉぉぉぉ」
愛おしさが募りどちらからともなく顔を近づけキスをしようとしたその時
ガチャ!!
「あっ」
状況を察した樹と冬雨はお互いの顔を見合わせた。
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