見出し画像

軟弱なモヤモヤ

 なにが正しいのか、わからなくなっちゃったな。最初からわかってなかったとも言えるけど。
 
 少し前にした出産は、医師もやや驚くくらい安産だった。理由はいくつかある。ひとつには、まだ20代だったこと。それから妊娠中(妊娠前も)、お酒やタバコをやらなかったこと。冷たい飲みものや食べものを避けたこと。
 
 短いスカートもはかなかった。体を冷やすことは悪だと、母親からさんざん聞かされていた。高校や中学までさかのぼっても、露出の高い恰好をしたことはなかった。それは妊娠中も変わらなかった。お酒を飲んだ回数は、人生でも数えるくらい。甘いものも避けた。
 
 たぶん、見る人から見ればつまらない人生なのだ。酒もタバコもやらない、甘いものや冷たいものもほぼ口にしない。夏でもホットドリンクばかりで、露出は低く。そんなの何が楽しいんだよ?そう思う人はきっとたくさんいる。
 
 別にこれがいいとは言わない。ただ、そういう生活が自分を救ってくれた、とは思う。10代のときから、健康に気を遣っていたこと。と言うより、どことなく強迫観念のように、冷えてはいけない、酒もタバコもよくないと考えていたこと。

 大学の頃のゼミの飲み会でも、みんながビールを頼んでいるときに一人だけホットチャイを頼んでいた。それくらい冷たいものは避けたかったし、お酒も呑まなかった。

 正しいことってなんだろう。

「将来、安産したいなら、お酒もタバコもやめておくのよ、もちろんカフェインも控えめに。体は冷やさないで。スカートを短くするなんて言語道断、おへそを出すのもやめなさい」

 自分が誰かにそう言ったら、すごくうっとうしがられるだろう。それはそれとして、言ってること自体は、大きくまちがっているわけじゃない。実際、冷えは女性のからだにとって大敵ではある。
 
 でもたぶん、まちがっている。服装とか、お酒を呑むか呑まないか、そんなことは個人の自由だ。他人にとやかく言われるような話じゃない。仮にその行為になんのメリットもなくたって、人にはバカをやる権利がある。愚行権ってやつだ。
 
 だから人の自由に踏み込んでどうこう言うのはまちがっていて、むしろ
 
「女の子なんだからあれをするな、これをするなって声を聞かなくていいのよ。将来妊娠するって決めつけられる筋合いもないわよね。だから好きにしていいの。酒をかっくらってタバコを吸って、冷たいものも甘いものも、好きなだけ摂りましょうね」
 
が正しいのか。これはこれで、とても欺瞞に満ちている気がする。
 
 安産だった理由に関しては、もちろんこれだけではない。妊娠中から葉酸のサプリを飲んでいたし、ほうれん草(を始めとする鉄分)もよく摂った。雑に説明すると、葉酸は生まれてくる子どもに恩恵があり、鉄分は妊娠中の貧血を予防する。

⚠注意
・葉酸も摂り過ぎは毒。
・ほうれん草は下茹でしてから食べる。でないと尿路結石になるリスクが大。 

 そんな話は置いておいて。
 
 何が正しいのか、よくわからないな、と思う。すごく軟弱なことを言っているけど。こんなの、覚悟の決まった人ならどちらかに態度を決められるのだ。お節介だ過干渉だと言われても「あれはいい、これはやめろ」と啓発として言い続けるか。
 
 それとも、他者の自由を尊重して(あるいは他人なんてどうでもいいと割り切って)「なんでもあなたの好きにしていい」というスタンスで行くのか。なんだか自分は、どっちにも振り切れない。
 
 他者の自由は尊重したいけど、自分がやってこなかったことに対して「私はやらなかったけど、あなたはやってもいいんじゃない?それであなたが不健康になろうがどうしようが、知ったこっちゃないし」と言うのも、なんだか苦しい気がして。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。