結婚すると、結婚しなくてよくなる

 結婚・出産したらメンタルが安定した。という話をすこし前に書いた。

 
 なんでだろうと考えて、きっと正当化する必要がなくなったからだ、と気づく。結婚しない理由、出産しない言い訳を考えなくて済む。これこれこういう理由でどちらもしないんです、と、いちいち申し開きせずに済む。自分の境遇を逐一、正当化しなくていい。
 
 とはいえ、かつて誰も「どうして結婚しないの?」なんて聞いてきたことはなかった。親戚のひとりが「誰かいい人いないの?」と一度言ってきただけで、それだって強い圧じゃなかった。ただちょっと質問してみただけ、その程度の問い。
 
 まして、子どもを持つ気があるのか、どうしてさっさと出産しないのか、そんなことを尋ねてくる人はいない。どちらかといえば「近頃は、子どもがいない夫婦も多いしね」とか「子どもは夫婦の幸福度を下げるらしい」とか言う人のほうが目立った。
 
 それでもどこかで感じていた。誰もわたしにそれを聞いてこなくても、申し開きができなくてはならない。そんなうっすらとした圧。
 
 こういうことに国の違いというのはさしてないらしく、イギリス人の友達も言っていた。親に産んでもらったのなら、自分も子どもを持つのがあたりまえだと思う、そうして親がしてくれたことをするのが当然で、自分もそうしたいと。
 
 友達は家族というものをとても大切に思っていて、いつだったか自分が
 
「お母さんにはいままでたくさんのことをしてもらったし感謝もしてるけど、だからっていつでも好きでいられるわけじゃない。優しくできない」
 
 とこぼしたとき、諭すようにこたえた。
 
「ママだってあなたを育てたとき、いつだってかわいいと思えたわけじゃないでしょう。それでも育ててくれたのだから、今度はあなたがママに優しくする番」
 
 そういう人だったから、わたしについても「早く結婚して子どもを持ったほうがいい」とはっきり言っていた。

「わたしはいまは仕事を優先してるけど、落ち着いたら家庭を持ちたいと思ってる。メルシーちゃんはそこまで仕事を頑張らなくていい、結婚して子ども育てたほうがいい」
 
 いま思えば、あとにも先にもここまではっきり言い切ったのは、このイギリス人の友達だけだった。日本人の友人たちは、同棲していたり結婚していたり、子どもを何人も育てていたり独身で同性愛ライフを謳歌していたり色々だけど、なにも言ってはこなかった。
 
 自分がいまの旦那さんと会って即入籍を決めたのは、この友達の影響が確かにあった。1番の理由は「もうひとり暮らしはいいや」という思いがあったからだけど、一方で、この子に言われたこともずっとひっかかっていた。
 
 彼女ほどバリバリ仕事をするわけでないなら、他の道をきちんと選ばなくてはいけない。強く意識していたわけではないけど、どこかでそう思っていたから。
 
 いまはそういう圧力からも解放されている。メンタルの安定を感じられているのは、つまりそういうことだろう。してない言い訳を、誰に対してもしなくて済む。だって結婚も出産も、ちゃんとしたから。
 
 それにしても意外というか、イギリスの人がこういうことを言うイメージはなかったんだよな。なんかもっと「家庭を持つことに捕らわれなくていい。新しい生き方をしよう。女性がひとりでも生きていける時代なんだから」とか言うと思った。
 
 もちろん向こうの国にもそういう人はいるんだろうけど、当然そうじゃない彼女みたいな人もいるわけで、当たり前にどの国も一枚岩じゃない。実家は牧場を持っているという友達は、5月から新しい職場で働いている。
 
 そういえば『となりのトトロ』の女の子たちの名前は、サツキとメイだったな。なんて言っているうちに、GWもおしまい。


本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。