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ラーメン屋である僕たちの物語2nd ⑦


「哀 戦士」


中編






悔しいけど

僕は

男なんだな



アムロ・レイ




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【読者の皆様へ】
※前編に引き続き、今話でも一部登場人物に対して、大西の「贔屓目フィルター」が過分に影響している可能性があります。
ご理解、ご了承の上、用法、用量を守って、正しくご書見ください。




2005年

2月某日 17:45 横浜駅東口


冷たいビル風が、僕たちの脇を子供の様に駆けていく。

僕とTっさんは、仕事を終えた人々が足早に行き交う横浜駅にいた。


約束の時間は18:00だったが、女子ーズを待たせるわけにはいかない。

僕たちは15分前に待ち合わせ場所に着いていた。

i村さんもまだ来ていなかった。



「やっぱり横浜の方が寒いね。Tっさん」


「そうですね…」


Tっさんに話しかけたが元気がない。


やっぱり乗り気で来たわけではないようだ。


人見知りのTっさんを無理やり連れてきてしまったことに、少しばかりの申し訳なさを感じ始めた頃…



「お・お・に・し!」





突然、後ろから呼びかけられた。

振り返ると、Nがいた。

いやー、ほんとそっくり

「お…お疲れさま!N」



ふいに声をかけられて、僕は動揺してしまった。


「今日は風が冷たいね〜!」


長いコートを着たNが身体をさする。


今日の私服も…可愛いぞ笑


Nの後ろにもう1人女の子が立っていた。


「あ、こちら、同僚のHちゃん!」


Nは僕の視線を察して、その子を紹介してくれた。


Nより頭半分ほど身長の高いHちゃんは、むっちりしたタイプのセクシーな女性だった。


「Hちゃん!大西です、今日はよろしくね!」


「今日はよろしくお願いします。」


にっこり微笑んで会釈するHちゃん。

こちらも相当の美人だった。

Tっさんも挨拶をし、お互いに簡単な自己紹介を済ませた。


「あれ?2人なの?」


Nたちが2人だけなので僕が尋ねると、もう1人は仕事で遅くなるので途中から参加するとのことだった。


ま、僕はNがいればいいんだけど。



「おーっす!」



18時ぴったりに、威勢の良い挨拶と共にi村さんがやってきた。


肩で風を切って歩く姿がカッコいい。

僕は2人にi村さんを紹介した。


「こんばんは〜」

NとHちゃんが初対面の緊張から、ちょっと余所余所しく挨拶した。


「こんばんは!今日はよろしく!」

強面のi村さんがちょっとはにかみながら挨拶を返す。


「大西くん、ちょっと」


と、僕を手招いて肩に手を回し、女子ーズに背を向けると、僕に耳打ちしてきた。


(大西くん、どっち?)


どっち?


…あ、そういうことですね!


(僕は右(N)です)


(良かった〜!おれは左(Hちゃん)がタイプなんだよ!)


i村さんがニッコリ微笑んで握手を求めて来た。


僕も握手に応えて、共同戦線を誓い合った。


そしてi村さんに、女の子が一人遅れてくることを伝えた。


「そっか!じゃあとりあえず行こうか!」


i村さんはみんなに向き直り、足早に僕らを先導して歩き始めた。


きっと楽しい夜になる。


僕は高まる期待で、胸とかいろんなところが膨らみ始めていた。



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おかしい




おかしい






絶対!


おかしい!





僕たちはi村さんの予約してくれたお店に向かって、雑談しながら歩いていた。



左から

Hちゃん、N、僕、Tっさん


の四人だ






i村さんはというと、


僕たちの100mくらい先にいた。


何故そんな先に行ってしまったのか。

その日、女子ーズはハイヒールのパンプスを履いていたので、僕たちは女子ーズの歩く早さに合わせて歩いていたが、i村さんはそんなことにおかまいなくどんどん先に行ってしまった。


「…そしたら、Tっさんが包丁握って立ってるわけ!マジ刺されると思ったわー」



「あはは!Tやばーい!笑」



遥か先のi村さんの姿を見失わないように気をつけながら、僕たちは他愛無い話を続けていたが…



いや!変だろ!この状況は!





女子ーズも戸惑ってるぞ。


人見知りのTっさんは一言もしゃべらないので、僕も間が保たない。


「ちょっと俺、i村さん呼んでくる!」


この状況に耐えかねた僕は、走ってi村さんの元に向かった。



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「ハァッハァッ!i村さん!」



白い息を切らして、僕はi村さんに追いついた。



「おお、大西くん、店はもう少し先だから」



「ハァッハァッ!いや、そうじゃなくて…!i村さん、女子ーズ(i村さんの歩く速さに)着いて来れてないですよ!」



僕はi村さんに抗議した。


女子ーズも不安になるから、1人でずっと先に行かないで欲しい。


そう思って抗議したのだが、i村さんは後ろをチラッと見たかと思うと、余裕の表情を向けてこう言い放った。



「いやいや、
(店に)着いてからが勝負でしょ!」




ニヤリと笑う。




…この人、本気で言ってるのか?



いや、待てよ…


僕はi村さんのバンド時代のモテモテ武勇伝を思い出し、これも作戦なのかもという気がしてきた。


最初はとっつきにくい印象を与えながら、いざ接してみたらめちゃくちゃ男らしく優しくて、魅力的な人という、ギャップ作戦。

そして、今は僕にNと話すチャンスを作ってくれたのかもしれない。


それだ!

きっとそれだ!


やっぱりすごい男だよ!i村さん!



「…わかりました!着いてからが勝負です
ね!」

僕は深く頷き、i村さんなら後で全てひっくり返してしまうのではないかという期待で胸が震えた。

僕はi村さんに憧れの視線を残し、踵を返してNたちの元に歩いていった。



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「もうすぐ着くってさ!」


不安そうな顔をしたNたちに合流して、僕は精一杯の笑顔で伝えた。


「うん、わかったー」


2人とも心なしか先ほどよりも元気がない。


でもこの後、i村さんが巻き返してくれるはずだから杞憂だ。


なにせ、着いてからが勝負なのだ。


《トントン》


Tっさんが僕に肘を当てて、僕に耳打ちしてきた。


(i村さんはなんて?)


僕はi村さんの真似をして、余裕の表情でTっさんに耳打ちを返した。


(『着いてからが勝負でしょ』って)


それを聞いたTっさんは目を丸くさせて



「なるほど。戦いとは、常に二手、三手先を読んで行うものですからね!」





うんうんと頷いて言った。


「見せてもらおうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを!」



僕たちはこれから繰り広げられる、i村さんのジゴロのテクニックにワクワクしていた。


「あ、着いたみたいだよ!」


ヒソヒソと密談をしている僕たちにNが声をかえた。


横浜駅から15分ほど歩いたろうか。

すっかり身体が冷えてしまった僕たちは、お店の前に佇むi村さんに追いつくと、店のファサードを見上げた。


シックな黒を基調にした外観に、ブルーのネオン看板が夜気の中に怪しい光を放っていた。



「カッコいい店ですね!さすがi村さん!」


「わはは!じゃあ入ろうか!」



ギィッ



豪快に笑うi村さんを先頭に、豪奢な重い扉を開けて僕たちも店内に入った。






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ズン


ズン


ズン


ズン


ズン


ズン


ズン


ズン







「…ぜん…え…ない…!」



「…に…の…!?」



「…タ…レープ!」




信じられなかった。


店内はブラックライトメインで薄暗く、四つ打ちの音楽が大音量で響き渡っていた。



僕たちは6席テーブルに通され、僕たちと対面に女子ーズが座るが、お互いの顔もよく見えず、声もよく聞こえない。




i村さんが一軒目に予約してくれた店は…





クラブだった




i村さんの行きつけの店で、料理も美味しいクラブなのだそうだが…




顔も声もわからない





女子ーズたちは更に不安そうな顔をしている…と思う。



Tっさんに至っては初めてのクラブだ。



チート級の人見知りは、チート級の場所見知りでもあり、もはや魂も毛も抜けかかっている。


僕はi村さんの耳元で大声でお願いした。



「i村さん!音量下げてもらえないんですか!?」




「頼んでみるわ!」



i村さんが立ち上がり、スタッフと話すと少しだが音量が下がった。


それでも会話するには大きすぎるのだが、幾分かは声が聞こえるようになった。


「とりあえず乾杯しましょうか!」


ドリンクが揃ったところで、僕は音頭をとった。


「かんぱーい!!」




i村さんには申し訳ないが、少ししたら場所を変えたいと僕は考えていた。



それまでに女子ーズの気持ちをほぐすために会話をしておきたい。


というか、僕はNと話したかった。

しかし、いざ話すとなると、小学校の同級生という接点以外がなかったことに気づく。


どうしよう。

何を話したらいいんだ。


つまらない男だと思われるのが怖い。


えーい!とにかく話せ!大西!




「Nはかわいくなったよな!小学校の頃は髭濃き小学生だったのにな!」



「あはははは!失礼ー!ほんと大西デリカシーなーい!」



「すいませーん!デリカシー、ロックで一つくださーい!」



「あはははは!」



さむっ!大西さむっ!
(このやりとりは覚えてます笑)


いきなり暴投し滑った僕をNは笑ってくれてはいたが、僕が話したいことはこんなことじゃないのに、素直におしゃべりできなかった。


笑って誤魔化しながら、Tっさんに目をやると、彼は大好きなビールをもうおかわりしていた。

今日はピッチが早そうだ。


i村さんもウィスキーをコックリと飲んでいる。


え?


誰も話さないの?


この状況に「責任感」がのしかかった。


僕は沈黙が苦手だ。

相手につまらない思いをさせてしまうのではないかと不安で、つい1人で喋ってしまうのだ。


2時間もあれば、生まれから現在までの身の上話を終えてしまえるくらい、余計な気を遣って喋り倒してしまうのだ。



だから、その夜も勝手な気遣い全開で1人舞台が始まっていた。


「あはははは!」


「Nー!おまえさ…」


「大西くーん!『おまえ』ってやめなよー!Eちゃん(Nは姓、Eは名)って呼びなよー!」


Nを『おまえ』と言ったことを、Hちゃんがすかさず突っ込んだ。


NをEちゃんと呼べって?


「…Eちゃんさぁ…」



「…っていきなり呼べるかー!!」



「あはははは!」



キモっ!大西キモい!
(このやりとりも覚えてます笑)


小学生の頃からNを苗字で呼んでいたのに、いきなり下の名前で呼べるわけがない。

そして、めちゃくちゃNを意識し始めている今の僕には、恥ずかしすぎてできなかった。


気持ちを悟られない様に、笑って誤魔化しているとHちゃんが突然、席を立った。


「あ!今日、来る子から電話きたから、席外すね!」


そう言うと店の外に出ていってしまった。


喋らないけど飲み続けているTっさんとi村さん、Nと僕が残された。

Tっさんの飲むピッチが加速してる気がする。


ああ、Nを退屈にさせてはいけない。


ムクムクと自分勝手な責任感が膨らんでいく。

僕が楽しませないと…! 




…あれ?


無用な使命感に燃える僕はふと、気づいた。


i村さん、一言も喋ってなくない?



着いてからが勝負って言ってたけど…


もう勝負は始まってるはずじゃ…



…ひょっとして…



じわりと心に滲んだ僕の小さな疑念は、この後、クッキリと形を成し確信に変わっていったのだった。







to be continued➡︎













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