コーラも確かに好きだけど
東京に出てきて10年以上が経つ。
20代前半の頃は特に年に一回、年末年始の数日帰省すればいいほうで「面倒だし飛行機バカ高いし今年は帰省ナシ!」なんて言っていた年も1、2年くらいあったと思う。
上京してからこれまで実家に帰省した時間をぎゅっと圧縮したとて「365日」に満たないんじゃないかしら?と思うと、ものすごく惜しいことをしてきたような気もする。
そんな日々の中で思うこと。
「父と母の中にいる私が、まだまだ少女だわね……!」ということ。時が止まっているのだ。
たとえば、実家に帰省すると、買い物から帰ってきた父が「アイスば買うてきたけんね。コーラも買うてきたけん飲んでよか」と言う。
たしかに子どもの頃の私はアイスが好きだったかもしれないけれど、舌が出来上がってからの(?)私はむしろ苦手なんだけどな、甘いもの全般が。コーラはたしかに好きだけど、なくたって生きていけるよ。
今でも、家族で少し遠出するときには「道の駅に寄ってから、メメにソフトクリームば食わせぇ」とも言う。「ソフトクリーム食べたいからあそこ寄って!」と中学生の頃まではそんなことも言っていたかなあ。
外食時には「なんか飲み物ば頼んでよかぞ。コーラがあるぞ、コーラが」と言われる。コーラが大好きで、外食時の贅沢として喜んでいた時代がきっとあったんだろうなと記憶をめぐらせるけれど、30代の私に同じテンションで言ってくる父に、思わず笑ってしまう。
こういうのを、愛おしいというのかな。
子どもの頃、そもそも外食機会が少なかった我が家。「焼肉に行くぞ」なんて父が言う日には家族みんなが「!?」とスペースキャット状態だった。匂いがつくというのに少しおめかしして行くほどのレアイベント。
大人になって、自分のお金で美味い肉を食べれるようになったけど、実家に帰れば父はよく得意顔で「焼肉に行くか」と言った。なかなか帰省しない私が帰ってくる、イコール、一大イベントなのか、帰るたびに必ず一度は焼肉に連れて行こうとしてくれるのだ。
一度、寝たふりをしながら父と母の会話を盗み聞きしたことがあるけれど。「メメが(東京に)帰るまでに、一度は焼肉に連れて行かなんどたい?」(=行かなきゃだろう?)と父が言っていた。
いや、大丈夫だよ。
今はね、お魚も野菜も好き。実家で食べるご飯も好きだよ。焼肉に行きたくて仕方がない私では、もうないんだけどな。お父さんが「ヤレヤレ(ドヤ顔)」と奢ってくれるより高いお肉をね、自分のお給料で食べたりもするんだよ。30代独身OLだもの。
そんなことを思いながらも、今でも変わらず喜ぶと思って焼肉に連れて行く父の気持ちがくすぐったく感じた。胸がじんわりした。
外食に行って両親の頼んだ食事に私の好物(海老やお肉)が入っていると、2人とも私の皿にポンポンとお裾分けを放り込んでくる。
いや、うれしい、うれしいけど。
食べたいなら追加で自分で頼むし、親が食べる量を減らしてまで他人の肉が食いたい私ではありませんから!と心の中で叫ぶ。でもまぁそこは……「ありがとう」と一言。
「私の好きなもの」「喜んでいたこと」の情報が、ずいぶん若い時代で止まってしまっている両親をみると「あぁ、会わなかった時間が長すぎた」とも思うし「愛おしい」とも思う。
実家に帰るたび、切なさと感謝と、くすぐったさを感じて過ごす。
世間的にはじゅうぶん過ぎるほど「大人」と言われる年齢だけど、実家で過ごす日々の中では、コーラが好きで、アイスが好きで、焼肉がご褒美で、好きな食べものは両親の分も「ちょうだい!」と駄々をこねる私でいいのかもしれないな。
おわり。
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