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ボカコレ2024冬 5選


先日、ボカコレ2024冬を振り返る配信をしました。
しました、とは言いましたが一人で開催したわけではなく、毎週火曜にスペースで開催している定期企画「怖くないラジオ」の面々である苔氏さん、ギザさん(本配信では諸事情によりお休み)、私、そして主催のりすなさんの4人での開催です。

スペシャルゲストに見事ルーキー1位を獲得した駄菓子O型さんをお誘いして、一緒に今回のボカコレで特に良かった曲を紹介して語り合いました。
アーカイブは4月6日まで公開されています。


この配信内では各自の選出したオススメ作品を5曲くらいずつ集めてそれぞれ流していくという形式でした。その中で自分の紹介した曲を、備忘がてらここに残しておこうという記事になります。
ではさっそく!





御耳御目々 / Mizore feat. Ci flower

自分の選出の中で一番ブッ飛んだ曲ですが、よりによって配信内で流れたのは2曲目wその分序盤から絶大なインパクトだったかなぁ~と思います。

端的に言うならこの曲は「凄すぎて意味がわからん」となります。(奇しくもまったく同じコメントが動画中にあります笑)
Mizoreさんはとにかく緊張感の演出が抜群にうまいです。冒頭の掻き回しにも聴こえるフレーズが来た時点で「これは生半可な気持ちでは聴けない」襟を正され、サビの盛り上がりを迎えても気を抜けば死角から一突きされてしまいそうな張り詰めた空気がこれでもかと漂っています。サブベースのような低さのベースに対して中音域の音が少ないのがこの緊張の秘密でしょうか?

そしてドラムについて。
大きな役割を果たしているのはBメロとサビで大きく目立っている、甲高く張り付くような打音です。この音の主張が強いために、サビではハイハットが裏打ちしているにもかかわらずノリとしては一貫して表拍が強調されているように聴こえます。
そしてこれが"スネアの代用"として使われていないのが恐ろしいところで、サビのスネアはこの音の16分音符1つ分手前で鳴らされているんです。これによって表ノリが強調されているはずなのにハイハットは裏打ち、スネアはやや変則的な鳴らし方をしているという複雑なレイヤーを形成しています。スネアの代用ではなく別物の打音として鳴らすものの代表だとカウベルやクラップ音がありますが、これらの応用的な使い方をしているのかな?と個人的には思っています。




Gewalt

匿名ゲルマさんの曲。今回もかっこよかったです。
この曲の最たる魅力はリズム!配信内でも口頭でなんとか説明を試みましたが、うまくいかず・・・。
というわけで、いったんドラムを打ち込んだので聴いてください。

これはサビ前半、『誰のせいで壊れている?』の前までの部分のドラムです。参考までに、MIDIノートもお見せしますね。

間違ってたらすみません

この図の一番上にひとつだけはみ出ているのがクラッシュシンバル、その下の行にあるのがハイハット、間を空けてその下がスネア、さらにその下がバスドラ、という配置になっています。
一番注目してほしいのはスネアとバスドラなのですが、いったん周辺知識も含めて図示してみます。

これはサビ前半、1番でいうと0:40~0:53の部分になります。
ハイハット(上から2行目)からいきます。これは4分音符間隔で打たれている音です。一方で一番下のバスドラは付点8分音符間隔で打たれている音になっています。
同じ曲の別のセクションも見てみましょう。

こちらは2サビ後の感想、1:46~1:59の部分です。ここでは先ほどのサビ前半で叩かれていたハイハットが無いのに代わって、ライドシンバルが8分音符の間隔で鳴っています。バスドラは変わらず付点8分音符の間隔ですね。

4分音符、8分音符、付点音符といった音楽用語の定義をなるべく使わずに視覚的な説明を試みます。上の画像の4分音符はMIDIノートでいうと「最初の音を含め4つ間隔」で鳴っています。下の画像の8分音符は「最初の音を含め2つ間隔」で鳴っています。つまり、8分音符は4分音符の2倍の頻度で鳴るってことですね。
そこへいくと付点8分音符はどうなるのか。それは「最初の音を含め3つ間隔」。つまり、4分音符と8分音符の間の頻度で鳴るということになります。
ここまでわかればオーケーです!詳細な説明が欲しいという人はそれらの用語で調べてみるのがいいかと思います。


それでは改めて画像のMIDIノートを見てください。このビート、スネアとバスドラが一致している瞬間があるんです。4つ打ちでもないのに。

8ビートにおいてスネアとバスドラのタイミングが被るパターンはあまり見かけることがないんです。だからカッコいい!!単純な理屈でしょ?
しかもそれを実現するためにバスドラのタイミングを均等にズラすという、非常にシステマチックなアプローチをしているんです。変拍子やポリリズムにも似た、それぞれの音が合う瞬間の気持ちよさがドラム単体で実践されています。

そしてこの付点8分音符を使った展開は曲全体に通底するコンセプトになっていて。たとえば再生を始めて冒頭の音からもう付点8分で鳴っています。
またその後のAメロでは3-3-2でリズムを分けていて、一聴すると変拍子のように聴こえそうなドラムです。
サビ前半は今説明した通り。加えて言うなら、ベースもバスドラとと同じく付点8分の位置で音を鳴らしています。
サビ後半ではここまで複雑なビートを提示してきた流れを昇華するようなノりやすく開放感の強い4つ打ち、そしてサビの後では付点8分からは微妙にズラすことでリズムを展開しています。ここ実はイントロと同じビートです。
2番のトラップパートは冒頭で鳴っていた付点8分の音とまったく同じものが使われていますね。
このように、曲中で付点8分が登場する機会が非常に多く、使われていない場面でも付点8分からの展開を意識した箇所ばかりです。「この曲の音楽的なテーマは付点8分音符だ」と言ったとして、そこまで違和感はないのではないでしょうか。
どんなコンテンツにおいても一貫したスタイルというのはかっこいいですし、それを引き立てる——あるいはあえて崩す手法も見事です。ドラム好きがこれを選出せずしてどうする!

最後にここで書いた話とはまた違う好きポイントを紹介しますが、ラスサビの前半と後半の間にある間奏がライドシンバルを8分間隔で刻んでいるのがすごく好きで。サビはハイハットを4分間隔で叩いていますが、先述したように変拍子やポリリズムを思わせる変則的なビートですから、4で刻むより8で刻んだ方がキック、スネア、刻みがそれぞれ独立したリズムに従っていることが強調されます。聴いていてとても楽しいセクションです。




リグロウセル / 小鳥遊カイリ feat.可不

今回のボカコレ2024冬、1選を決めるならこの曲です。
理由は単純。泣いたからです。
最も涙を誘うのが下の流れ。

これが

(筆者がどうしようもなくドラム好きのため、ドラムに注視する場面を抽出しました)

こうなって

こう。

良すぎない????????

まず1枚目。キョトンとしている表情にも見えますが、おそらく初めて接したライブという世界、多すぎる情報量を少しでも取り零すまいと目を見開いている表情ではないかと私は思うのです。なぜなら私が視覚的なものに感動する時、同じことをするから。"感動する"というよりは、"感動の予感がする"と言った方が近いかもしれません。私にとっては感動で目を見開く時ってだいたい涙を流す予兆です。そう、この作品で泣いた私もまったく同じ表情をしていたのです。これ以上の共鳴があるか?
次に2枚目。ここは曲中ではギター、ベース、ドラムによるソロが順番に披露されていて、楽曲と映像がリンクしているところです。家で音源を聴くのとライブで聴くので一番大きな違いのひとつが、生演奏をその場で視聴できること。つまりライブならではのエネルギーを曲・映像ともにここで表現していて、それがこの次のカットに繋がります。
そして3枚目。こんなの鏡でしょ。いま私の顔映してる?
初めてライブという文化に触れ、アーティストの演奏とパフォーマンスに圧倒され、涙する。言葉にすると明快な、よくある光景かもしれません。結局こういうストレートな作品がよく刺さるんだよ。"よくある"というのは、イコール"多くの人が共感できる"ということだから。映像とまったく同じ表情にもなろうというものです。

もうひとつ、全然別のことを言わせてください。
今回のボカコレ、個人的にこれまでで一番苦しくて。自薦やら互助会やら楽曲自体の良し悪しとなんら関係のないしょーーーもない話題がシーンを席巻していましたが、それに連なっているのか、個人的に一番つらいのはコメントでした。動画冒頭のまだ暗転した状態の動画に「かわいい」というかんたんコメントが大量についていたり、明らかに曲調にそぐわない内容(と感じる)のコメントが散見されたり……コメントってそういうものと言われたらその通りかもしれませんが、やはりボカコレという"祭り"ですから、みんなで楽しみたいじゃないですか。しかし、コメントされた"好き"を信じられるような状況では全くありませんでした。
今回というよりここ最近のボカコレはずっとこんな感じなんですが、そうしてげんなりしていた時に出会ったのがこの曲。あまりにもストレートな表現に、心を洗われる思いでした。先述した通り強い共感を呼び起こす作品なので、自分の音楽を好きだと感じる原初の感情を思い出したような気持ちになれました。
「まっすぐな作品は強い」。冗談でも常套句でもなく、心からそう思わせてくれる快作だったと思います。




極夜街 / 夜丹れにや feat. 初音ミク, ナースロボ_タイプT

ボーカルラインが最も卓越していたと感じるのがこの曲です。サビを聴いていただければ言いたいことはわかってくれると思います。このサビの威力がすごい。
それぞれの節の意図的にクオンタイズさせていないかのような歌い出し、そしてライブでフェイクしているような情景が想像できる柔らかいメロディ。こういう、原曲の時点で既に基盤となるメロディに装飾が加えられたようなボーカルはなにか名前はないんでょうか?これもフェイクって呼んじゃダメ?
そしてこのサビ、2サビの後に追いかけてくるラスサビではさらにアレンジが加えられています。これがまた見事にハマっている!サビ以外では冒頭で一度のみ登場するAメロに、サビに繋げる役割のBメロ、1サビ後の間奏と共に綴られるポエトリー部分という進行で、いずれも滔々と語っているような印象。そのため厚くコーラスの入った骨太なサビのボーカルは抜群に存在感があります。

この曲について、もうひとつ言いたいことがあります。歌詞の良さです。
単品でピックアップするにはもったいないほど全体的に好きなんですが、サビ1節目の『出来合いの救いなんてなくて』という歌詞から既にめちゃくちゃ良いですよね。オシャレ、それでいて共感。"救い"という言葉は、生半可な気持ちで使うものではないと言いつつも、力強すぎてついつい使ってしまいがちで、その結果下手に使って効果半減……という恐れがあります。この曲では修飾語として"出来合いの"というIQ高い言葉(主観)を使用することでパワーワード頼りな印象を感じさせません。また"出来合いの救い"……これは救いを欲する人が持つであろう「その場しのぎでも間に合わせでもいいから今救いが欲しい」という思いを反映しているような言葉選びです。
こうした巧みな歌詞がこの曲には随所で見られます。

『帳を下ろしたのは僕だった』
→極夜(=明けない夜)を作り出したのは自分

『月だけが太陽の光を暗示する』
→ずっと極夜のこの街で、太陽光を反射して見える月だけが間接的に太陽の存在を示している

『湿気った導火線 熱を帯びるように』
『朝焼けの夢を見ている僕がいた まだ早いけど』
→導火線がいくら熱くなろうと湿気っているうちは火がつかないように、朝焼けを望む自分の願いはまだ叶わない

歌詞(動画概要欄に記載あり)

何より好きなのが、『愚図な僕の残像がクイ になって 今も後を引いている』という歌詞です。これまた単体で見ると非常にインパクトのある部分だと思うのですが、"愚図"という、先述した歌詞表現や"救い"よりもさらに直接的な意味を持つ言葉であることから、曲中で最も際立って衝撃を与える節だと思います。私はこういう耳にフックをかけるような歌詞作りに弱い。"残像"は過去の自分の行動のことで、"クイ"とは"悔い"であり"杭"なのではないでしょうか。つまりは「過去の自分の愚かな言動による後悔が今も続いている」と。こうして紐解くとかなり共感の得られる文だと思います。何が言いたいのかというと……歌詞を書くのがうまい!




† Devil's tail †

今回のボカコレで最も「このクオリティはもっといろんな人に聴かれてほしい!」と感じたのがこの曲です。ちなみに曲名の両端にあるダガーまで入れてタイトルなのか……?もしかして鉤括弧のような使い方をしてたりする?と気になっていたのですが、Spotifyの曲名はダガー込みだったのでこれも含めての曲名だと思われます。

この曲の最注目ポイントですが、花隈千冬とYumaのボーカルが上手すぎる!特にYumaの歌声を聴くのがこれがほとんど初めてだったのですが、「どうしてこの声がもっと使われてないんだ!?」と思うくらい、男声音源として優秀だと思いました。
ボーカルエディットはもちろん、メロディラインも歌ものとして白眉の仕上がりです。それぞれ主軸に据えたセクションが用意され、両名の歌声を十分に堪能できる構成となっており、互いのリードメロディを支え合うコーラスワークも見事です。後ろの音はTrapを基調としたオケにストリングスやピアノが乗っていて、中音域はボーカルに花道を作るように余白が設けられています。またTrapから窺えるゴシックな印象は"悪魔"をテーマとした歌詞やMVと調和しています。主役であるボーカル達を可能な限り前に押し出し、かつ歌詞との親和性についても視野に捉えている、非常によく考えられた作品というわけですね。

再生数は現時点で6500再生弱。ボカコレ基準では既にある程度伸びていると言えるくらいだと思いますが、まだまだ多くの人に再生してほしい作品です。




おわりに

以上です!!!!!これが私の思うボカコレ2024冬最強の5曲だああああ!!!!
書き上げるまでにかなりの時間を要してしまいましたが・・・最終的にはきちんと感想という形でまとめて出せて安心しています。ボカコレは回を追うごとに曲数が増えており、その分だけ1曲にかけられる時間が薄くなってしまいがちだと思うのですが、それでも何度も聴いた曲についてはできるだけこのように語れるようにしたいですね!
冒頭で紹介したボカコレ振り返り配信であんまりうまく話せなかった~~~というモヤモヤから書き始めたnoteでしたが、個人的にはかなり吐き出すことができてスッキリしました!満足です!
ボカコレ2024冬というイベントは終わりましたが、曲はずっとそこにありますからね!我々は過去にすることなく、気軽に楽しんでいきましょう~~

𝑻𝒐  𝒕𝒉𝒆  𝒏𝒆𝒙𝒕  𝑽𝒐𝒄𝒂𝒄𝒐𝒍𝒍𝒆.…..

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