見出し画像

機械の中の幽霊

パソコンでワードを使い始めて20年以上になるだろうか。
仕事でも、家でも文章を綴ってきた。
朝からキーボードで文字を入力していると、
夕方、突然変調を来すことがある。
 
文字を打っていて、文字を送ろうとスペースキーを打つと
頭から消えてゆく。
そんな時はパソコンも疲れてきているんだなあと思って、
その日の仕事は早めに切り上げた。
どうしても急ぐ場合は、USBメモリーに保存して
自宅のパソコンで残りを仕上げたりしたこともある。

事務所のパソコンはもう十年選手だから無理もないかと
OSの7から10への切り替え時期のタイミングで買い換えを考えた。
それでも翌朝、パソコンを使い始めると
サクサクと文字入力が出来るので、
まあいっかと、そのまま頭から離れてしまう。
たまに早い時間にその不具合が始まることがあった。
思案の末、再起動を掛けると元に戻ることを発見して悦に入った。
やっとここまでパソコンに習熟できたと自惚れた。
 
ある時、パソコンのプロと雑談する機会があって、
世間話しの合間に例の不具合について、
難しくて挫折した「機械の中の幽霊」という本を
さも読んだフリをして話題に織り込み
「パソコンもくたびれて誤動作することありますよね」と言った。
すると
「そんなことはありませんよ」と歯牙にも掛けず断言するので、
文字入力の不具合の話をすると
「Insertキーを間違って触っているんでしょうね」と言った。

内心ビックリしたが、何かとても恥ずかしくなった。
顔に出さないように軽く聞き流すように
「そうですよね、ところで・・・」と話題を変えた。

急いで帰ってInsertキーを探してみると、
なんとDeleteキーやBack Spaceキーのすぐ側にあった。
何十年も気付かなかった。
パソコン作業にくたびれると間違った文字入力が増えて、
そんな時にこのキーに不意に触っていたのだ。
思い出してみれば、ブラインドタッチが少し出来るように
なってから始まったことだったかもしれない。

長年悩んできた精神的な不調とか、突然起こる不穏な痛みとか
お医者さんの何気ない一言でケロッと直るように、
専門家の一言で一挙解決するものなんだなあ。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?