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#21 日曜日のイギリスでは皆休みたがる 30代からの英国語学留学記 2018年2月18日

渡英して初めての日曜。具合の悪さで目が覚める。

先日は寒空の下、ストレスが溜まる環境にいたから当然かもしれない。なんやかんやで朝11時から夕方18時までオックスフォードのシティーセンターを歩き回っていた。そりゃ疲れも溜まる。

朝食を取り、部屋で体を休める。この日も誰ともあわない。
ホストファミリーにすら家にいる様子がない。週末は週末で各々予定があるのだろうか。しかし皆朝が早い。

折角の人生初のイギリスでの日曜日ではあるが、これと言って予定がない。加えて朝から体が怠くてしょうがなく、一人で何かをする気力も沸かない。異国で病気になったら大変である。明日の授業に支障が出るのが最も良くない。風邪のひきはじめは大人しく療養するのが一番。

勿体ない気もしたが、初めての一週間、慣れない環境で只管走り続けてきた。あと半年はこの国に滞在するのである。心身共に休む日も重要。

ベットの上でただただダラダラ。太陽が昇った日曜のオックスフォードで敢えて何もしないことを選ぶ。


だが一人でゆっくり療養という訳にもいかなかった。
昼近くにオヌールから突如電話がかかってきた。

「暇でやることがない。TK MAXXというショッピングモールが郊外にあるから行こうぜ」というお誘い。

暇でやることがないのは僕も同じではある。だが先日のオヌールの厚顔無恥さに振り回されたのが現在の体調不良の原因の一つであると認識しているため、二日連続で奴と一緒に過ごすのは避けたい、と心から思った。せめてカルロスがいれば何とかストッパーになるが、彼とサシで会うのはシンドイ。

具合が悪いので今日はNO!と返事をする。具合が悪いのは本当である。正当な断りの言葉。

だが押しの強い男、オヌールは引かない

「体調悪いのは気のせいだろ。いいから来いよ」

予想はしていたが、訳のわからない返事である。

その後、何度も「行けないcannot。行きたくないdo not want。嫌だhate」徐々に言葉を強め、明確に否定の意思を表すも、オヌールは全く引かない。

ヘラヘラを笑いながら「お前は行くべきだよ」と全くこちらの拒絶を意に介さない。同じことを何度も何度もしつこく主張。最初はwahtsappのチャットだけのやり取りであったが、その後通話でのやり取りになり、通話を切ってもしつこく何度も懲りずに電話をかけてくるため、何度も断り続けることにすっかり疲弊してしまい、心が折れてショッピングモールに行くことを同意してしまった。

実に意思が弱い。
いやオヌールが異常に押しが強いだけなのだろう。あれほど明確に拒絶したのによくもまぁ、気にせず同じ要求を押し付けてくるものだ。

だが不思議な事に、オヌールとのクソみたいな押し問答を続けた結果、朝からの具合の悪さが不思議と改善されていることに気づいた。無為に部屋で籠るよりは外に出た方が良い。そういう意味ではオヌールに感謝である。

すったもんだの挙句、14時集合ということで話が纏まる。先日の悪夢があるので、何度も絶対14時に来いよ!と強く念押しをする。

待ち合わせ場所は徒歩で15分程度。毎日訪れるシティーセンターの反対側、文字通り郊外にある。郊外へ行くのは初めて。観光客等決して訪れない、まさにホームステイをしなければ決して訪れる機会のない場所だ。

住宅街からさらに郊外へ徒歩へ向かう。僕が住むオックスフォードのCowley Road というエリアは伝統的に貧民層、ワーキングクラスが住むエリアであり、公営住宅、もしくは公営住宅払い下げと思わしき古びた画一的な造りの住宅ばかりが並びディストピア感がある。

歩いても歩いても同じような見た目のテラスハウスばかりが続く。住宅街は訪れても面白い場所ではない、というのは世界共通の真理なのだろうか


14時ちょっと前に目的地であるTK MAXXのあるショッピングモールにつく。

日本の地方によくあるジャスコやイオンのそれと瓜二つの何とも個性のない所。広大な駐車場が中心に鎮座し、様々なチェーン店のテナントが駐車場を囲んでいる。世界的に有名な大学都市オックスフォードと雖も、郊外はこんなもんである。


14時を過ぎたが予想通りというか何というかオヌールから何ら連絡がない。
適当にショッピングモールを10分程ブラブラする。だが連絡がない。
しびれを切らしてオヌールに電話。

家のルールで洗濯は日曜日のみだったのだが完全に忘れていた。終わるのが15時くらいだから15時集合にリスケね

クソ of クソという返事。いくらでも時間あっただろ。

オヌールは22歳と僕やカルロスより遥かに若い。本来であれば圧倒的マジョリティーである若者グループに交じって然るべき存在なのだが、彼のこのようなだらしない部分を同年代は許さない。それが分かっているから、浮いている僕とカルロスのようなオッサン社会人グループに加わり、ただただ甘えている。切り捨ててしまいたいのが正直な所だが、彼以外積極的に僕とコミュニケーションを取ろうとする人間がいないため、無碍にはできないのが正直な所。


文句を言ってもアイツは梃子でも動かないので、1時間付近を散策。

巨大なショッピングモール以外は何もないかと思いきや、こじんまりとした商店が結構ある。

特に印象的だったのはブックメーカーのお店。
ブックメーカーとは簡単に言えばギャンブルの元締め。日本のパチンコ以外の賭博は基本的に国や地方自治体がガッチリ管理しているが、イギリスの場合は許可を持った人間であれば、何でもかんでも賭博対象にできる。日本のそれとは異なり、各々勝手にオッズを決める権利があり、場合によっては元締めが配当金を払えず破綻することすらある。
元来、イギリス人はかなりのギャンブル好きであり、あらゆるものをギャンブルの対象にしている。生命保険も損害保険も元々は投機的な商品、謂わばギャンブルとしてイギリスで扱われていた。イギリス人とギャンブルは切っても切れない関係にある。

ギャンブルはやらない性質ではあるが、元々競馬好きでもあり、イギリスの暗部に興味を持っていたため、フラッとブックメーカーLadbrokesを訪れる。

中は反社会的勢力というか、フーリーガンっぽいというかのか、外見から明らかにやばい雰囲気を醸し出している白人しかいない。

店員含めて全員顔にタトゥー入れている。

日本の場外馬券場も淀んだ危険な雰囲気ではあるが、喫煙所外でも当たり前のように喫煙し、そこら中で痰を吐きまくる輩ばかりで日本で最も淀んでいると言われている後楽園オフト、毎週末救急車とパトカーが来ると言われている浅草ウインズのそれよりも、このオックスフォードの郊外のLadbrokesは異常にピリピリとした近づいてはいけない雰囲気がムンムンとしていた。まさに鉄火場。スマートなイギリス紳士はここには一切いない。
中に入った途端、墨を顔にいれたヤバい連中からジロジロと敵意を込めてにらまれたため、ものの数分で退室せざるをえなかった。


えらい所に来てしまった、と反省したが、恒例の美味しくない朝ごはんしか食べていない状態で昼2時を迎えていたため無性に腹が減る。

ブックメーカーの近くに極めてローカルな雰囲気を醸し出しているパブがあり、食事を兼ねて念願のブリティッシュパブに入店。

この郊外にあるローカル色強いパブは、オックスフォードのシティーセンターにあるそれと比べ、驚く程観光地化が全くされていない。洗練の対局に位置している。

薄暗い店内には大型液晶テレビが至る所にあり、フットボールを放映している。殆どの客がそこに夢中で罵声を飛ばしており店内は騒がしい。
加えて店内にはビデオポーカーのようなギャンブルマシンが店内点在しており、あまり絡みたいとは思えない、墨入りの厳つい白人がそれに興じており、これまた罵声を発しておりビビる。

静か過ぎる店も困るのだが、反社と思わしきゴツゴツとした中年白人が各々罵声を飛ばしている空間というのもまた問題である。

黒人は愚か、東洋人は僕だけであり、周囲のワーキングクラスっぽい白人のあんちゃん及びオッサンは先ほど訪れたブックメーカーギャンブル店の住人と同じように奇異な目でこちらをジロジロと見てくる。明らかに敵意を感じる。

だがそんなことにビビって退店するのも勿体ない。

意を決してカウンターのお兄ちゃんに話しかける。
全身お絵かきのかなり強面の白人兄ちゃんだったが、外見と裏腹にやたらフレンドリーな人だった。
生ビール(draft beer)と何か食べ物が欲しい、と質問すると、にこやかに回答。生ビールは色々あるが、この地ビールがおススメ、食べ物はバーガー(ハンバーガー)とクリスプ(ポテトチップス)しかないけどどうする?と言われたので、バーガーと彼が進めた生ビールを注文。オックスフォードの白人店員は郊外であってもホスピタリティは優れている。

特に問題なくバーガーと生ビールが出てきた。バーガーは肉がやたらパサパサしており脂っぽさが一切なかったが、それはそれで美味しい。付け合わせのチップス(フライドポテト)もホストファミリーに供されていたものよりも、瑞々しくて美味しい。
特にイギリスで初、ということもあったが、生ビールは本当に美味かった。日本の生ビールとは違い、泡は完全にカットされて摺り切りいっぱいジョッキに入っている常温の味が濃い生ビール。
ここの所ずっとつらいことばかり続いていた、という事情もあり久々の生ビールが胃に実に染み渡る。

パブで大して興味もないフットボールを見ながらダラダラ15時になるまで過ごす。
だが案の定オヌールから連絡はない。
店が閉まる時間を調べると何と日曜は16時半に閉まることが判明。イギリスは伝統的に日曜日は店を開かない、もしくは早めに閉めるのが普通になっているらしい。

店16時半に閉まるぞ、どうすんだよ、とオヌールに文句を言うと「洗濯物干すのに時間がかかっているからちょっと待て」とクソみたいな言い訳がはいり、結局15時半になって奴と合流できた。

ヘラヘラと笑いながら何の悪びれもなく、sorryとは一言も言わずやってきた肥満体系のトルコ人に殺意が沸いたが、今更何をいっても無駄であることもわかっていたので、人を待たせるんじゃない!と適当に怒るしか僕にはできなかった。


そしてオヌールが行きたがっていたTK MAXXに入る。中に入るまで分からなかったのだが、ここはアパレルのアウトレットブランドを専門に扱うディスカウントショップであった。

雰囲気はまるでダイエーの服飾雑貨コーナー。
様々なブランドの服が大量に無造作に陳列されている。
売られているモノは如何にもイギリスのミュージシャンが来てそうな奴ばかりでちょっと興奮。

値段はどれも10ポンドから30ポンドくらいで、縫製場所はポルトガルやルーマニア製のものばかりでMade in Englandは一切なし。
アパレルにはそこまで詳しくはないのだが何故かヴィヴィアンウエストウッドのアウトレット、B級品がやたら多く目に付いた。知っていたブランドがヴィヴィアンウエストウッドしかなかったからかもしれないが。だがヴィヴィアンウエストウッドは着る人を選ぶブランドなので僕にはとても買えない。

服飾品以外にも様々な雑貨が売られていたのが印象的だった。特に日本では絶対に見られない、仏像をモチーフにした庭に置くようなオブジェクトが多く売られていたのが印象的。日本人が庭に天使の像を置きたがるのと同じような感覚なのだろうか。ただ日本人として仏像を庭に置くのってセンスねぇーな、と正直思ってしまう。国が変わればセンスも変わる、そういうことなのだろう。

ブッタの顔を庭に飾りたがる日本人は基本いないと思う



だがここへ来るよう誘ってきたオヌールはTK MAXXが服飾雑貨店だとは知らなかったようで、服には興味ねぇ!とものの数分ですぐに店を出てしまった。


本当に貴様という奴は貴様という奴である。


その後、ショッピングモールに属するスーパーマーケット等を二人で散策したが、どうもオヌールにはあまり刺さらなかったらしく、ここはつまらないからオックスフォードのシティーセンターに取り合えず行こうぜ、と奴は誘ってきた。

先日散々カルロスと三人で回ったではないか、オカシイだろ、と主張したのだが、奴は全く折れない人間なので、結局定期を使ってバスにてシティーセンターまで移動する羽目に。

社内で何かシティーセンターで当てがあるのか、と聞いたのだが0「あるわけないだろ。お前が考えろ」とクソみたいな返答。

オヌールがクソ野郎であるとは分かってはいたが、クソムーブをかまされる度に毎度参る。

トルコ人という人種そのものに対して嫌悪感が出てしまう。だがシナンはシナンで妙な押しの強さと拘りがあるが、そこまで酷くはないため、単純に人種関係なく、オヌールという人間がクソなのであろう。

何か考えろ、と言われたが特に何も思い浮かばず、シティーセンターまで来てしまった。
突然言われても何も思いつかんよ、とオヌールに返すと、じゃあカフェに行こうと、返答を受ける。

COSTAというイギリスのベローチェのようなチェーン店に二人で入る。
オヌールはかなり肥満体なのだが、気にせずカフェオレを注文し、無料だから、という理由で砂糖をガバガバ中に入れる。そしてこれだけでは物足りないから、という理由でダイエットコークとドーナツを注文し、バカバカ飲み食いしている。

僕は2ポンド程度のフィルターコーヒーを飲み、彼と適当に会話をする。
今まで彼との会話は大抵カルロスが間に入っており、何とか話は出来たのだが、彼とサシでの会話となると予想以上に話が続かない。

僕もオヌールも英語力が低い、特に僕の発音の悪さとリスニング能力のひどさ、そしてオヌールの語彙力と文法力の欠如が問題となり、話が途切れ途切れになってしまう。小難しい話になると、どちらかが理解できなくなる。

気まずい状況ではあるが、英語のトレーニングとばかりに何とか会話を続けようと色々と努力する。
オヌールも何となく状況を察したようで、彼も彼なりに色々と工夫して会話を続けようと努力していたようだったが、お互い能力がないため、限界もある。

若干気まずく気持ち悪い状況にはなってしまったが、日が暮れるまでは何とか会話らしい会話を二人で続けることができたが、正直どんな会話をしたのか全く覚えていない。

ディナーはお互いホームステイ先で食べる必要があったので、18時頃に家に帰る。

家を出た頃にはホストファミリー含めて誰一人家にはいない様子であったが、戻ると独り立ちしたホストファミリーの子供が孫を連れて戻ってきたようで活気ある雰囲気であった。挨拶するんだよ、と嗾けられた孫たちが僕に話しかけてきたが、東洋人をあまり見慣れていないようであり、彼らの家族と比べて明らかに異質な容姿をしている僕を見る目は明らかにおびえており、警戒しているようだった。年端もない子供に嫌な目で見られる経験は人生で初めてであり、ちょっと精神的に応えた。

そんな状況ではあるがホストマザーはちゃんと晩御飯(冷食のラザニア)を出してくれた。だが今日も僕以外同居人のシナンとアブドゥルはおらず、食事の場所もホストファミリーとは別。となりのリビングでは孫を交えてキャッキャウフフしている声が聞こえる中、一人で冷食のラザニアを食べるのは侘しい。

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