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#20 知識ゼロでオックスフォードのハリーポッター聖地巡礼をする 30代からの英国語学留学記 2018年2月17日 その5

1000年前の教会を二か所巡り、敬虔なカルロスもすっかり満足したようであったが、次の目的地は決まっていない。
先日考えたプランを懲りずに二人に示すも相変わらず却下される。お前なんかに良いプランを作れるわけないだろ、と言われる。最低である

するとカルロスが珍妙なプランを提案。

道行くイギリス人らしき人に何処かオックスフォードで面白い所か質問してそこに行こう。英語を鍛えるトレーニングにもなる。留学生と言えば親切にしれくれるだろう。

そんな観光の仕方、聞いたこともなぇよ。

だがカルロスのプランにオヌールもgood ideaと乗ってしまい、今まで同様数の暴力で結局従うことになってしまった。

しかし日本で、日本語であっても、知らない人に話しかけるのが極めて苦手な僕が、異国イギリスで英語を使って見知らぬ人にこんな不躾な質問を出来るのであろうか。

僕は恥ずかしいから嫌だ、と拒絶の意思を表する。
二人とも”no problem、俺らが話しかけるから、お前はついてさえ来ればよい”と。妙に心強い返答。

何の躊躇もなく、道行く人に話しかけるカルロスとオヌール。

週末になると英国内だけではなく、世界各国から観光客が訪れる一大観光地だけあり、相手は全員観光客で当然地理に明るい人は殆んどいない。というよりイギリス人に全く出くわさない。

「今日観光で初めてここに来たのだから、申し訳ないけど分からない」という返答ばかりである。


それもその筈、あの二人が話しかけるのは全員白人の綺麗な若い女性だけである。

留学生で英語勉強中というのを口実に、ただ可愛い女性と話をしたいという下心が露骨に透けて見える。

殆どナンパと言ってもよい。


だが留学生で英語勉強中と言えば相手も無碍に断り辛いから、会話はそれなりにせざるを得ない。
策士というのか何というのか。

道中、スペイン語圏の女性に何度も出くわしたが、相手がスペイン語圏だと分かると、カルロスは普通にスペイン語で会話をしていた。

英語のトレーニング、という大義名分は一体どこへ?
それにあんたは妻子持ちではないのか?

ただ話しかけるだけならセーフなのかもしれないが、ラテンアメリカ人の男は年老いても積極的ということを肌で感じてしまった。

数打てば当たるでグイグイ押せばそりゃ誰かには当たるし、そのような習慣がない国から来た人、特にアジア人は自分が特別な存在だと勘違いしてしまうのも無理はないわ。

オヌールもgood ideaだぜ!とスケベ根性丸出しでカルロスのプランに乗る割には、奴は妙にシャイというか、カルロスほどズケズケ行けないところがあり、カルロスの横にくっついてただニヤニヤして一言も喋らない体たらく。

なお僕は、そんな二人から5メートルほど露骨に距離を取り、遠目で様子を見ざるを得ないという情けなさ。

30分程で述べ20人以上の若く綺麗な白人女性に話をかけまくる二人、いやカルロス。

最終的にオックスフォードの大学に通っているアルゼンチン人の若い女性が、懇切丁寧にスペイン語でカルロスに訪れるべき場所をレクチャーし、彼女が教えてくれた場所を一通り訪れることになった。

結局同郷の人間から母国語で聞く情報が一番信用できる、ということなのだろうか。
英語勉強には全くなっていないが、カルロスとオヌールが満足しているのでいいだろう。

そして彼女が教えてくれた場所というのが、僕が昨晩考えた旅行プランと大体一致していて驚愕。なら僕のプランで初めから良かったじゃん。

僕のプランで最初に行く予定でもあったCarfax Towerへ行く。

ここはバスターミナルのすぐ側、オックスフォードのシティーセンターにある一番大きな交差点に面したある意味ランドマークとも呼べる古い塔である。好立地にあるため、塔の上から見下ろすオックスフォードの街並みは格別であり、一度は行くべき場所である、と色々な媒体で記載されている。

左側がCarfax Tower


バス停の側なので、動線的にも最初はここを訪れるべきだと何度も進言したが全く二人から受け入れられず、オヌールのShit事件もあり結局無駄に歩き回ってここに変なタイミングで訪れることになってしまった。

いざ登楼と意気込むも、ここで問題が発生。入場料として3ポンド(当時450円程度)かかることにオヌールが文句を言いだす。

さっきの教会でも金払って何でここでも金払うんだよ。同じような所じゃねか。俺はムスリムだ。絶対ここには行かないからな

こうなると梃子でも動かないオヌール。
仕方がないので彼を置き去りにしてカルロスと二人だけで行く。
あとでひょっこり彼がついてくるのではないかと思ったが、あの男はマジで3ポンドを惜しんでここに来なかった。とんでもない守銭奴である。

塔の上からの光景は文字通り絶景。

スマホで

先ほど訪れた教会の塔よりも、ここは立地が遥かに優れているため、より強い感動を受ける。文化財の建物がいくつも並び、イギリス名物の二階建てダブルデッカーバスが悠然と通る巨大な交差点はこれぞイギリス!

コンデジで

おそらく全人類が感動するのではないか、と呼べるほどの美しすぎる光景。

違う角度から

オヌールはわずか3ポンドを惜しんでこの光景を拒否したのだ。本当に馬鹿な奴である。そんな話をカルロスとする。

20分ほど堪能し、オヌールが待つ地上へ戻る。
オヌールは「本当にお置いていく奴があるか!お前らは年上なのに一番若い俺を何故置いていったんだ。horrible!」と不平不満を宣ってきた。

厚顔無恥も甚だしい。

「たった3ポンドで文句を言うんじゃない。素晴らしい光景だったぞ」と煽るカルロス。流石である。


その後、いくつかの施設を回るが、全て初日のwalking tourで訪れたオックスフォードの大学の施設であった。

”初日に来たじゃんココ”、とオヌールが案の定文句を言うが、学校スタッフの会話が殆ど聞き取れておらず具大的な名前まで憶えられていなかったので仕方がない。

そもそも論としてお前もその場にいたのだから場所を覚えていないオヌール自身にも責任がある筈なんだが、自分のことは捨てて置き、脊髄反射で文句を吐くオヌールは本当にどうしようもない奴だと改めて思い知らされる。

因みに今までオックスフォード大学ではなく、オックスフォードの大学と敢えて表記していたが、所謂Univercity of Oxfordというのは39からなるcollege(コリッジと日本語では言うらしい)の集合体であり、それぞれ独立した地位を持っており、その集合体と言えるものがUnivercity of Oxfordというらしい。

完全独立しているか、というとそういう訳でもなく、一部collegeに共通している所もあるようだが、完全に独自の立場を維持している所もあるらしい。なおケンブリッジ大学も同じようなシステムとのこと。非常に独特で複雑な組織構造のため、恐らく現地の人間も、そして所属している学生ですらも完全には把握できていない、とそういう説明を受けた。

今回訪れたのはオックスフォード大学に属する様々なcollegeが所有する図書館等の建造物である。ここはどこどこのcollegeが所属する何々で~、という詳細な説明をカルロスは件のアルゼンチンエリート女子から説明を受けたようだったが、実際に所属している彼女ならともかく、事前知識が全くない我々には正直よくわからなかった。だが知識がなくとも、そして二度目の訪問であっても、美しすぎる建物、構造物である、ということには変わりはない。



最後に訪れた場所は、これもオックスフォード大学を構成するcollege、Christ Church Collegeなのだが、ここは今まで訪れた細かい所はよく分からないが何だか凄い所、というだけではない。
あの全世界でヒットしたハリーポッターの映画版でロケ地としても使われたcollegeなのである。

僕とカルロスは年齢的にハリーポッターには全く没交渉ではあったが、ドンピシャ世代であるオヌールは、ここには絶対行きたい、行かなければいけない、と強く主張。
文句ばかり言っている騒がしい男がハリポタ効果で逆の意味で騒がしくなるとは、ハリーポッターの魅力というのはそれ程までに大きいのだろうか。

このChrist Church Collegeはオックスフォードのシティーセンターから若干離れた場所にあり、敷地がやたらとデカい。明確にここを訪れる、という目的がなければ寄れないような所にある。

そしてハリーポッターのロケ地効果のせいか、観光客がどこよりも多い。大学のキャンパスなのに週末になると世界各国から観光客が押し寄せる、というのもずいぶん変わった所である

だが何より驚くべきことは、キャンパス内に部外者が入るためには結構な金額の入場料(16ポンドくらい)を取られる、という凄まじい所である。

おそらく入場料を取る大学というのは世界でもここしかないのではないだろうか。

チケット販売所、もぎりのスタッフだけではなく、入場待ちの観光客を整理するための警備員すらいる。広大なキャンパスの敷地であるが、それでも埋め尽くすほどの入場待ちの観光客の列に驚き呆れる。

こんな特異な環境で、学生はちゃんと勉強できているのであろうか。

このような中々なマイナス要素が多いが、オヌールにとっては聖地巡礼できることへの興奮が何より勝っているようで、有料であり1時間近く待たされることも何ら苦ではないようであった。

勿論僕も訪れたいとは思っていたが、ここまで極端に人が集まるのは週末だけであるので、学校が終わった平日でも良いのでは、とオヌールに意見した。

一度こんな素晴らしい所があると聞いたのだから今更後日なんて出来ない!、と彼らしからぬ熱を帯びた発言で僕の提案を却下する。

カルロスはどっちでも良い様子であったが、このChrist Church Collegeまで歩くのが結構めんどくさかったようであり、後日歩いてまたここに来るくらいなら今並んでしまって観光を済ませたい、と50近いオジサンらしい疲れた返答。

結局1時間近く並んでChrist Church Collegeに入場。日本人も多く並んでおり、完全にハリーポッターの登場人物のコスプレをしている人すらいた。

この種の特異なことをするのは日本人だと相場が決まっているからすぐわかる。「あいつら日本人だろ‼頭おかしいな」とオヌールから小馬鹿にされ何とも肩身が狭い思いをするが、別に迷惑はかけていないので咎める必要は勿論ない。

かなり割高の入場料を払わされたが、それでも満足する程の重厚な歴史を感じる校内であった。


本どころか映画ですら全く見たことがない僕ですら感動したのだから、映画の大ファンであるオヌールは感慨もひとしおのようであり、至る所で写真を撮り、また彼の写真を撮るよう要求された。

まさにリアル中世ファンタジーの大学そのものであり、世界でもここでしか見られない光景である。観光地ではなく実際に大学として、そして所属するcollegeの学生達の寮としても機能しているとは到底信じられないくらいである。

だが毎週末、大挙して世界中から観光客が自分の寝床近辺をウロウロするのは落ち着かないったらありゃしない、と正直思う。一応実際の学生が暮らしているので節度を持って行動しろ、的な立て看板があちらこしらにあるので、結構ここでの暮らしは大変なのだろう。


世界から凡百な連中が大金払って自分の寝床をわざわざ見に来る、というのは、ある意味自身が超スーパーウルトラエリートであるという優越感を満たすための一要因として彼らは上手く消化できているのかもしれない。
アフリカやアマゾンの部族や中国の山岳少数民族見学ツアー的な見世物小屋的な扱いを受けても、世界に冠たるオックスフォードのcollegeの住人である、というプライドを持てるのであれば、自らのプライベートスペースが観光地として消費され、且つ自らに経済的な恩恵が一切還元されない奇特な場所であったとしても、彼らには他に成し遂げたい所があるのだから、それも気にはしないのだろう。


ある意味世界で最も寛大で気前の良い人種がChrist Church Collegeの学生なのかもしれない。

オヌールのスマホで散々撮ったが、
自分のスマホやカメラでは一切オヌールの写真を撮っていなかった。カルロスの写真

ちなみにオヌールの写真要求なのだが、面白いことに彼は毎度タオルマフラーを大きく広げて写真を撮られたがる。

このタオルマフラーは何?と問うと「お前知らないの?世界で一番のフットボールチーム、Fenerbahçeのタオルだよ」との回答。

フットボール、サッカーに対して興味がない僕は、トルコのクラブチームの名称なんて全然知らなかったが有名らしい。一応ガラタサライだけは何となく聞いたことがあったが、ガラタサライはFenerbahçeのライバルらしく、その名前を聞くだけで怒りに震えるため、今後二度とその単語を俺の前でいうな、とオヌールに釘を指される。

なお、Fenerbahçeはwikipedia日本語版ではフェネルバフチェと日本語で読みが書かれていたが、オヌールの口から発せられる単語ではファイナルバッチョとしか聞こえなかったので、僕の中ではファイナルバッチョで認識している。


彼は贔屓にしているトルコのフットボール球団、Fenerbahçeのタオルと、自分が好きなハリーポッターのロケ地を一緒に映した写真を撮り、家族や友人、SNSで自慢をしたかったようである。これもSNS世代だからか。

しかし幾ら好きなモノ同士とは言っても、ファイナルバッチョとハリーポッターでは全くつながりがないではないか。

僕は地元の野球球団である楽天ゴールデンイーグルスの結構なファンではあるが、イーグルスのタオルを持ってアビーロードの横断歩道やフレディ・マーキュリー像の前で写真を撮りたいとは微塵も思わない。
好みは人それぞれではあるが、変わった嗜好であると正直思った。

college内の大聖堂。他の教会よりかなり立派

オヌールの写真撮影にかなり時間を割かれながらも、college内をウロウロし、最後にメインとなる食堂へ行く。

ここは映画ハリーポッターでも何度も使われている、印象的な所らしい。
前述の通り全くハリーポッターを通らなかった僕ではあるが、それでも幻想的で重厚感あふれる場所であった。

しかしハリーポッター効果のため、観光客が気持ち悪いくらい多い。
一応、人が多すぎないようこのcollegeに入るには入場制限をかけているようであったが、殆どの観光客がここを最終目的として訪れているため、最適化はできず、かなり深刻なすし詰め状態である。

異常に混んでいる食堂


中はそこまで広くはなく、特に通路は非常に狭いため、余計に混雑しているように思える。
常に人の流れが絶えないため、落ち着いて写真が撮れない。
厚顔無恥なオヌールも
ファイナルバッチョのタオルを広げる機会すらなく、too many people! Horrible!と文句を言いまくっていたが、そりゃ文句も言いたくなるわな、という惨状。

文句を垂れ幕るオヌール

取り合えず見れるところは一通り見て、Christ Church Collegeから撤退。
既に夕方17時を回っていたが、まだ外は明るい。

さてこれからどうする?、と二人に問うも、人混みで疲れ果てたのと、フットボールのテレビ観戦を二人が望んでいたため、まさかのここでお開き。

僕はてっきり3人でディナーを、パブでビールを飲みながら過ごすものだと思っていたし、その予定であった。

ホストマザーには晩御飯はいらない旨、事前に説明していたため、完全にはしごを外される形になった。

フットボールならパブでやっているから3人で見よう!と説得するも「それぞれ見たい試合は別だからダメだ。フットボールは友人とテレビ電話で実況しながら見たいからパブでは見たくない」との回答が二人から来てしまい、さっさと二人は帰宅のバスに乗ってしまった。
何とも尻切れトンボな終わり方。

取り合えず晩御飯が食べられないのはマズイので慌ててホストマザーに謝り晩御飯を急遽準備してもらうよう、連絡を入れ、僕も家に帰る。

無事晩御飯は準備してくれた。
冷食っぽいミートパイのようなものを食べることができ、ホッとしたが何とも寂しい終わり方である。

オマケにこの晩もシナンとアブドゥルはおらず一人で夕食。
一人で晩御飯なんで今まで死ぬほどやってきたが、ここ数日ずっと一人ディナーになっている。
異国で独り音もなくご飯を食べるのはやはり寂しい。

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