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#26 トルコ人達と英国オックスフォードで水たばこを吸う 30代からの英国語学留学記 2018年2月22日 その2

やっと水たばこカフェに連れていかれた。

中々オシャレなカフェ兼パブであるが、住宅街のど真ん中にある。
一体どうやってシナンは見つけたのだろうか?


ここでイギリスの喫煙事情(2018年時点)について
まず普通の紙巻きたばこが異常に高い。
10ポンド(2018年当時で1500円)以上は優に超える。
加えてどのパッケージも黄土色の地味な装丁であり、英語で煙草吸うと早死にするからやめろ、と言った警告文言がデカデカと書かれている。

室内は原則完全禁煙である。喫煙所のような類は室内には一切ない。
そして皆完全にこのルールを律儀に遵守している。

だが一方で屋外は原則喫煙し放題である。

私有地で喫煙不可という看板がなければ、歩行者天国だろうと横断歩道だろうと公園だろうと教会の敷地だろうと喫煙に制限はない。

信号待ちをしているベビーカー横でピシッとスーツを着込んだ白人ビジネスマンが何の気兼ねもなく煙草をふかし、そのまま咥え煙草で道路を横断する姿なんぞ日常茶飯事である。

現代日本人で喫煙者である僕からしてもこれは流石にどうかと正直思う。

煙草を吸いたくなる酒宴の場、パブが英国には至る所にあるが、室内は喫煙NGなのでパブの外で煙草を吸っている。

中では絶対に吸えないため、お酒と煙草を同時に味わうため、わざわざ立ち飲みスタイルでパブを取り囲むようにしている輩も少なからずいる。

少なからずというより、金土の夜になると、室内はガラガラで外に人が異常に密集しているパブも多いくらいである。

そこまでして煙草を吸いたいのかと喫煙者である僕ですら思う。

座って快適な室内でお酒を楽しむよりも、立って片手にビール、煙草のスタイルで談笑する方がよい、というイギリス人が異常に多かった。

例え雨が降っていても皆で濡れながら平然とパブの外縁で煙草とビールを楽しむ英国人すら結構いるのが恐ろしい。
日本の立ち飲み屋でも雨に濡れながら外で飲んでいる奴は変わった行為をしている自分に酔っているイタイ大学生くらいだが、英国では老若男女問わずその種の人間が普通にゴロゴロいる。

喫煙客を見越して敢えて室内を狭くし、屋外スペースを多くとっているパブすらある程である。

そして今回の水煙草カフェ兼パブであるが、御多分にもれず、ここも室内が異常に狭く、屋外スペースがその分広い。

そして屋外スペースには屋根が張られており、雨天時も濡れない作りになっており、椅子やテーブルも完備してある。
水タバコ店だからというのもあるだろうが、他のパブと比べて煙草を快適に吸える環境になっている。郊外だから出来るワザであろう。

平日だからか客は僕ら三人だけ。実質貸し切りである。

早速シナンが店員を呼んで水煙草を注文する。

「ここはwaterpipe tobacco吸える店なんだろ?ナルギレ頂戴!」

ナルギレとは何ぞや?

シナンとオヌール曰く、トルコでは水煙草のことをナルギレと呼ぶらしい。

だがツーブロックのヘアスタイルをバシと決めた若いアラブ系の店員はナルギレが何なのか分からなかったようで、ナルギレとは何かと申し訳なさそうに問う。

するとシナンとオヌールの二人がブチ切れる

「おまえはwaterpipeの店やっているのにナルギレ知らないの?馬鹿か!世界で一番美味いトルコのwaterpipeだよ!」

「申し訳ございません。うちではシーシャしかないんです」

「ファッキンだな!ファッキン!なんで俺らトルコ人がファッキンアラブ人のシーシャなんか吸わなければいけないんだよ!waterpipeの店だったら当然ナルギレも用意しろよ!」

理不尽にブチ切れるシナンとオヌール

水煙草初心者の僕には正直違いが分からない。
水煙草=シーシャであると僕はてっきり思っていたが、水煙草ガチ勢にとってはそうではないらしい

恐る恐る何が違うのか、と問う。

トルコの水煙草ことナルギレ”narguilé"には、フィルターとなる水の部分にアルコールが一部含まれており、それ故アラブ世界で主流であるシーシャとは比べ物にならないほど美味い煙が吸えるとのこと

そりゃぁ、トルコ系以外のムスリムが出すわけないわな!アルコールはダメでしょ、ムスリム社会では。

余談になるが、後でネットで調べてみたのだが、別にナルギレのフィルターに必ずしもアルコールが入っている、という訳ではないらしい。単なる二人の言いがかりだったのでは?と今になって正直思う。

店員のお兄ちゃんは、見かけによらずかなり紳士的な人物だから妙なトラブルにはならなかったが、シナンもオヌールも平気で”shisha is fucking bad. Turkish Nargile is the best water pipe!"なんぞ宣うのだがからこちらは肝が冷える。

「ナルギレ知らないなんてお前どこ出身だよ」


田舎のヤンキーがトラブル時にどこ中だよと問うかの如く、高圧的に店員に聞くシナンとオヌール。

どうやら祖父と祖母がエジプト出身で、両親ともにエジプト系英国人2世から産まれた3世とのこと。

一応ムスリムではあるけれど、アラビア語は全然できないし、生まれも育ちもイギリスなのでイギリス人です、お酒も飲むからこういうお店で働いています、と甲斐甲斐しくアピールする。

一見の客になんでわざわざ自分のバックボーンまで話さなければいけないのか。あまりに可哀そうすぎる。

暫く文句を言い続ける二人だったが、店員さんが終始低姿勢で真摯に対応し続けたため、やっと二人も納得したのか、無事シーシャ(ナルギレではない)、ナッツ類、そしてビールを頼むことができた。

だが英国パブなのに、お互いの祖国でも普通に飲めるし、近所のスーパーでも容易に買えるハイネケンとカールスバーグとコロナビールの瓶ビールをそれぞれ頼む、という訳のわからない展開に。
僕は
ドラフトビール飲みたかったんだけど、と一応文句を言ったのだが
「知らないビール頼んで不味かったら嫌だ」の一言で片づけられる。

二人とも妙に保守的な所がある。

とりあえず乾杯し、適当に談笑する。


水煙草を嗜むシナン



だが最初の注文後もマナーの悪さは変わらず、相変わらず迷惑行為を続ける二人。

水煙草用のマウスピースを落とすと平気でスタッフオンリーのスペースにどかどか入り込み、無許可でマウスピースを掻っ攫っていったり、水煙草の火加減が悪いだの何だの文句を吐くと、またしてもスタッフルームに勝手に入ってナイフとフォークを無断で持ち去ってそれで勝手に炭を弄り、ライターのオイルだったり、先ほどの店でかった電子タバコのリキッドを垂らしたりとやりたい放題振る舞う。


流石に例のエジプト系三世の店員さんに毎度注意されるのだが、マウスピース落としたのに気づかなかったお前が悪い火が弱いのはお前の不手際だからお前が悪い(個人的には全然火加減が弱いとは思わなかったのだが)

、と一緒にいて恥ずかしくなるような横暴な態度を取り、店員さんを終始困らせていた。

二人ともトルコの酒場やナイトクラブでは良く知らない人や店員と言い争いになり、場合によっては殴り合いの喧嘩になる、等とヤンキーの武勇伝自慢の如きしょうもない話を自慢げに頻繁にしていたが、強ちフカシではなく事実ではないかと二人の態度を見るとそう思う。

トルコでは酒の場では成るべく傍若無人に振る舞い、衝突したら物理的な暴力で解決すればそれでよい、という文化があるのだろうか。70年代のヤクザ映画のような世界観がトルコでは現役なのだろうか。

たった二人の態度だけでトルコ全体を判断するのは早計ではあるが、未だかつてないほどのカルチャーショックを受けた。

そしてできれば二人とは外で酒を飲みたくねぇ、と心の底から思った。

加えてトルコ人2名に日本人1名というのは人種的にもバランスは悪く、酒も入っていることがあり、8割近く二人がトルコ語で談笑していたため、トルコ語が全く解せない僕は終始置いて行かれる羽目になった。

どうしようもないので一人スマホを弄っていると「こういう場でスマホを弄るのは無礼だ!やめろ!」と二人から怒鳴られる始末。

一体どうすりゃいいのよ。オイ!

あまり楽しめない所か、二人の傍若無人な振る舞いに冷や冷やしながら時間だけが無為に過ぎている。

夕食の関係で20時前後までにホストファミリーの家に帰らなければいけないことになっている。

シナンにその旨伝え、時間を見て切り上げようと何度も促したのだが、I see, I seeと返事をするものの二人は会話に夢中で全く意に介さず。

結局家についたのは21時ごろ。1時間の遅刻である

ホストマザーにやんわり叱られながら冷めたフィッシュアンドチップスを食べる。
不思議なことに冷めていても意外と悪くない味だったが、温め直さなかった所にホストファミリーの怒りを感じかなり気まずい。

一方シナンはどこ吹く風で全く意に介していないようであった。


彼らトルコ人は外面は凄く良いのだが、関係性が近くなると、傍若無人な態度がとにかく目立つ。

他人に気を遣う、という概念が欠けているようで、ありのままの自分をぶつけあい、他人との衝突も気にしない。
その衝突がエスカレートし、時に物理的な暴力を伴うことになっても、それを大事とは捉えず、翌日にはネガティブな面だけがリセットされ、何事もなく付き合いが続くのである。

欧州には、特にドイツにはトルコ系移民が多いが、現地人からはあまりよく思われていない、というのを色々な所から耳にしている。

それは彼らトルコ人が異教徒であったり、雇用を奪う存在であるという単純な理由だけでなく、このような西洋社会から見ると、そして日本人社会から見てもかなり特異な価値観、行動原理にあるのではないかと思った夜であった。


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