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#10 オックスフォードの屋台でランチを食べる 30代からの英国語学留学記 2018年2月14日 その2

失意の中、教室の外に出るとオヌールが待ち構えていた。
一緒にランチを取ろうぜ、とのお誘いである。

カルロスも誘って、嫌われ者新入生3人組でランチに。
オヌールは先日、僕がシナンら別の人間と昼食を取ったことが不満らしく、ブツクサ文句を言ってきた。
クラスも異なるし、毎回ランチを共に等と約束なんでしていない。誰とランチを取ろうと俺の勝手である。メンドクサイ男だ。

そして、先日俺を裏切ったのだから、今日は俺の好きな店でランチを取る食べきだ、と訳の分からない理屈を捏ねて再度ケバブ屋での昼食を要求。何で英国オックスフォードで一日おきにケバブを食べにゃいかんのだ。

不満ではあったが、オヌールは押しが強く断るのが難しい。色々反論をしても「お前は俺をbetrayed(裏切った)したのだから今日は俺の言うことを聞くべきだ」とあくまでこちらが悪いの一点張り。

相手を上手いこと拒絶するほど英語脳が発達しておらず、非常に困る。

だが僕は一人ではない。
幸運な事に常識人カルロスが僕の味方である。

You are too selfish!!(我儘すぎるだろ) 一昨日ケバブ食べただろ? 裏切ったも何も約束なんてしていないだろ。皆大人なんだから馬鹿げたこというな! お前はキッズか?

独特のスペイン語訛りでオヌールを叱るカルロス。
俺の言いたいことを、ストレートに言ってくれた

だが敵も食い下がらない

「俺はトルコ人でムスリムだ。だからハラルの食事しか食べられない。イギリスでは選択肢がすくないんだ。あそこのケバブ屋はトルコ人がやっているからハラルで俺たちムスリムは食べられる。俺のことを考えてくれよ。友達だろ」

なるほど、一理ある。しかしオヌールはイギリスと言えばフットボールとシーバスリーガル(著名なスコッチウイスキー)だぜ、と公言しており、ムスリムにも関わらず酒飲みである。
ここに来てムスリムだからハラル厳守というのは虫が良いのではないだろうか。
だが英語で言い返せる能力がない。

困っている僕を尻目にカルロスはすかさず反論

None of my business!(俺には関係ない) オックスフォードにはお前以外のムスリムが沢山いるが、皆あの店のケバブだけ食べている訳ではないだろ。他で皆食べているのは明らかだ。探す努力をしろ。三日目で二度同じ店でランチを食べるなんて馬鹿げている。Ridiculous! 俺が今日連れていく所にも絶対ムスリムのお前でも食べられる店があるから、今日は俺の言うことを聞け!」

SelfishだのNone of my businessだのRidiculousだの結構キツイ言葉だと思うのだが、ここまでハッキリと言えるカルロスは本当に凄い。

結局、オヌールは折れ、3人で新しい店を探すことになった。カルロスが連れて行ってくれた所は、Gloucester Green Marketという所で、まるでお祭りのように沢山の屋台が立ち並ぶ、大変活気がある場所

初日、定期を購入した際に通りかかった場所にあったのだが、当時このような活気あるマーケットなんぞ見当たらなかった。あったら必ず印象に残る。

カルロス曰く、ここのマーケットは水曜から土曜日までしかやっておらず、定期を購入した日は月曜日のため、ただの広場であり気が付かなかったのではないか、とのこと。

しかし何故カルロスはそんなことを知っているのか?

質問すると「初日、定期を購入する際、お勧めの場所だと説明があっただろ。あと今日の2時間目の授業の際、先生が今日はマーケットがやっているから新入生は是非行った方が良い、と言っていたじゃないか


全く聞き取れていなかった……!!!!!

アリス先生がそんな説明を今日していた何ぞつゆ知らず。
自分のリスニング能力は致命的に欠如していることを改めて思い知らされた。
だがこのような縁日のような雰囲気は大好きな人種であるため、自己嫌悪もそこそこにし、3人でマーケットをウロウロ。不機嫌だったオヌールも活気あるインターナショナル屋台街の活き活きとした雰囲気にすっかり満足してしまうほど素晴らしい場所であった。

このマーケット、張り巡らされた万国旗が見掛け倒しではないほど、世界各国様々な食べ物の屋台が立ち並んでいる。

エキゾチックなスパイスの芳香から、香ばしい中華の香り、甘ったるいお菓子の匂いまで実に様々。
室内であれば各種匂いが混じりあって気持ち悪くなる可能性があるが、屋外のため風通しがよいため、多種多様な匂いが変に混じりあうことがないのは良い。
寒空の下だが活気ある屋外の屋台、というのはいるだけで元気にさせてくれるものだ。

さらに屋台方式の利点は各々好きな店で好きなお店を食べられる、ということである。ハラルでなければ絶対ダメだと主張するオヌールはハラル認証の店で買えばよい。我々は無理に彼に合わせる必要がないのだ。

そこまでカルロスが考えていたかどうかは分からないが、今日のチョイスは我々3人にとってパーフェクトであった。

以下、そのグロースターグリーンマーケットのグーグルストリートビュー。
(何度も行ったのに写真を全く撮っていなかったことに今気づきショック)
最新情報ではマーケットが閉まっているため活気がない、だだっ広い広場になってしまっているが、グーグルのタイムマシン機能で過去に遡ると活気ある曜日のストリートビューが見られる。


公式facebookより。https://www.facebook.com/oxfordoutdoormarket/photos

肝心の昼食。日本では中々見かけない国々の料理も多く、食のタブーも好き嫌いもなく好奇心が旺盛な僕は何を食べるか迷ったが、強烈なスパイスの匂いと米を食べたい衝動にかられ、インドのゴア州の伝統カレー、チキンヴィンダルーを食す。

因みに他にもインドカレーの屋台は沢山あった。元英国植民地だけあり、単にIndian Curryではなく、わざわざインドの各地方を全面に表しているのは流石というかなんというか。
カルロスはパエリア、そしてオヌールは予想通りケバブ。

皆で好きなものを選べて大満足。食後、寒空の下で解禁した煙草を吸い至福のひと時を過ごせた。

食事前はあんなに落ち込んでいたのに、お腹がいっぱいになるとあの暗い気持ちは何処へやら。自分という人間は本当に単純である。
午後は挽回せねば。

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