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なぜ麻生太郎は上川外相の容姿に触れるのか

先日報じられた麻生太郎の発言、自民党の上川外相について「あまり美しい方とは思わないが」などと言及した件の朝日新聞記事ですが、結構ヒットだったようで当該記事のコメントプラス(朝日新聞公認コメンテーターのこと)だけで新しい記事になっていました。


私はあの記事のコメントプラスを全部目を通していたので、うわ、あの中でよりにもよって最も思慮が浅く言葉の軽いコメントを拾い上げたもんだとげんなりしました。
 
私はあの記事のコメントプラスの中では常見陽平が抜群に目配りの効いたコメント、言質を取られないコメントをしているなと面白く眺めていたのですが、常見が敏感に感じ取っていたあの記事のアヤシサ・足元のおぼつかなさを朝日新聞記者は無視する方針のようです。
  

1.麻生太郎の脳髄推測ゲーム

コメントプラスを見てもわかりますが、今回の麻生発言への批判を試みる人は皆、最初にちょっと頭を捻る必要があります。何故かというと、今回のどの発言も即座に女性差別であると断定できる内容でもないからです。

基本的に同党の仲間を持ち上げる文脈の中での「きれいな方とは思わない」「おばさん」「俺達から見ても(中略)やるねえと」とはなんなのか。
むしろ意図やニュアンスがよくわからないんですよね。

ちなみにこのよくわからなさには原因が三つあります。
①麻生が身内を褒める時は独特の言い回しをするため
②朝日新聞がスピーチを文字にしているため
③朝日新聞がスピーチ内容の一部を切り出しているため

実は半分以上朝日新聞のせいなんですが、ともかくこのわかりづらい麻生発言批判を試みる人たちは皆「何故この発言が女性差別に当たるのか」の説明から入ることになります(実際全員そうしています)。

つまり「この発言からは、これこれこのように麻生太郎自身の差別的価値観が推測できて、そのような差別的価値観から出てきた発言であるから、この発言は女性差別なのだ」という風に。まず麻生の脳内を推測して説明するわけです。

つまりこれは麻生太郎の脳髄推測ゲーなんですね。
私もそのゲームが結構得意ですから以下解説したいと思います。
 

2.麻生が容姿に言及するのは「女性だから」?

例えば武田緑さんによる麻生脳内の推測と説明はこんな感じです。

 武田さんはこの発言を「完全なる女性差別です」と批判し、発言の前提として「女は美しくてこそ価値がある(そうでないと価値がない)」という価値観が麻生氏にあると指摘した。

朝日新聞デジタル

武田緑の主張
・麻生太郎が上川外相の容姿に言及したのは上川が女であるため
「女は美しくてこそ価値がある」という価値観が麻生太郎にある。
・そのような差別的価値観から出た言葉だからあの発言は女性差別。

明快な主張です。
しかしこれは即座に否定することが出来ます。
何故かというと麻生太郎はこの種の発言を同党の男性にもするからです。

自分が閣僚を務めた前内閣総理の菅義偉にも「顔が悪い」と言っています。
はいこの時点で武田の推測と説明は全てバーストですね。
武田はこのゲームにおいて最低のプレイヤー、0点です。

麻生太郎は仲間の男性議員の顔にもしょっちゅう触れるのです。
そしてこれは朝日新聞の記者も絶対に知ってるはずのことです。
(男相手に同じことやった時も燃やそうとして記事にしてるから)

 

3.麻生が上川を評価したのは傲慢さの現れ?

 加えて「能力にしても容姿にしても『俺たちが評価する側』という認識でいる」とも捉え、「明確に差別です」と重ねて批判。

朝日新聞デジタル

これも、実にバカなこと言ってるのが分かりますか?
だって自民党の地方講演会ですよ。上川外相に限らず自党議員を紹介し持ち上げていくためのスピーチです。評価しないわけにはいかないでしょう?

上川外相に触れるなら「彼女の能力は凄いよ」と評価する話以外にはなりようがないんです。それに対して「上川を評価するのは見下しである、だから女性差別である」って一体何を言ってるんでしょうか。 

これは当該記事コメントプラスの中でも最も愚かなコメントだったし、おそらくこの武田緑さんは思考自体があまり得意でないのだと感じられますが、こういうレベルの人が「明確に差別です」のような強い言葉を振り回すことは、差別という言葉自体を軽くするのではないでしょうか。



4.麻生太郎は何故仲間の顔面をdisるのか

こんなのいちいち説明することでもないと思うのですが、武田緑さんには真剣にわからないのでしょうし、朝日新聞記者はすっとぼけようとしているし、常見陽平さんパトリック・ハーランさんあたりも気付いていながらも武田緑さんにもろに突っ込んだりはしないので代わりに説明します。

 麻生太郎・前副総理兼財務相は4日夜、東京都内であった山東昭子参院議長の政治資金パーティーのあいさつで、菅義偉前首相について、「実績が上がったにもかかわらず、(菅)内閣の評判が悪い」とし、その理由について「(菅氏の)顔が悪い」と述べた。

朝日新聞デジタル

 そのうえで、菅前首相が進めたワクチン接種を評価しつつ、評価が上がらなかった理由を菅氏の「顔」と指摘し、「失礼ですが、(前)総理の顔も、私の顔も、茂木(敏充外相)の顔もそうかもしれない。

朝日新聞デジタル

わかりますか?
麻生太郎はこのような言い方を仲間に対してよくやるんです。自分にも。

つまり麻生太郎はルッキズム信奉者どころかその逆で、容姿なんてくだらないと強く思っているんです。少なくとも能力とは全く無関係だと。

しかし政治家としての浮沈、つまり選挙にビジュアルイメージが大きく作用することもまた骨身に染みて知っているでしょう。麻生当人は83歳、菅義偉も75歳、上川外相も70歳。歳をとってるんだから全員そりゃあ汚くなってるわけで、選挙戦ではそこは弱点なわけです。
 
つまり麻生太郎は「我々は見た目が汚い、顔が悪い、風采が上がらない、しかし実力は確かなんだ」というそういう自負の持ち方をしているのですね。
だから仲間の応援でも容姿の汚さに言及してから「しかし能力はある」と言う流れの誉め方をする。

見た目は良くない、おじさん・おばさん(本当は爺さん婆さん)、しかし能力については仲間の俺たちから見ても「やるねえ」。
    
   

5.「そんなに美しい方とは言わない」とはなんなのか

これはルッキズムでしょうか?女性差別でしょうか?「女性は・人間は・きれいであってこそ」なんて価値観でしょうか?全く逆でしょう?「容姿なんか些細なことのはず、そこ以外を見てくれよ」と思ってる人間の発言パターンです。

また、この言い方はそれほどコミュニケーションとして不適切でしょうか?内心不愉快に思っている仲間って本当にいるのでしょうか?

麻生に「顔が悪い」と言われた菅も茂木も、むしろ実力や人格への信頼や親愛を感じ取ることでしょう。だって「顔が悪いにもかかわらず選挙に何度も勝ち重職についているってことは能力は…?」ということですから。こんなの武田緑さんレベルのおつむの人以外にはなんなく伝わるヨイショです。

そして麻生は上川外相に対しても菅にしたのと同じように遇しました。これは女性差別でしょうか?

武田緑さんはラクラクと「完全なる女性差別です」と認定していましたが、そう断定する根拠は極めて乏しいと思います。

まあよく読めば男女の差はつけています。菅や茂木には直球で「顔が悪い」なのに、女性である上川外相には「そんなに美しい方とは言わない」ですからね。本当の男女平等なら「ひでえ顔」ぐらい言うべきでしたが、遠慮が出てしまったんでしょう。
  
  

6.実は麻生発言を読み取れている人達1

しかし武田緑さんが代表となるような朝日新聞コメンテーターは全員アホなのかというと、そんなことは全然ないのです。内心の透けている人がちょこちょこいます。当初記事のコメントプラスでもそういう人がいました。

常見陽平(千葉商科大学准教授・働き方評論家)2024年1月29日6時8分 投稿【視点】
■「麻生節」で済ませてはいけない  きた。「悪気はなかった」「褒め言葉のつもりだった」と釈明されるパターンの失言である。擁護する側も「全体では褒めている」「きりとって批判するのはよくない」と言い出すやつである。不適切もいいところだ。  記事では福岡県芦屋町と表記されているが、ここは遠賀郡に位置している。つまり、「地元」の「福岡8区」であり、お膝元だ。「身内」「内輪」の論理なのだろう。このような記事が載るたびに「麻生節」とされ、それを拾って叩く朝日新聞が悪とされるのもいつものパターンだ。  とはいえ、この手のコメントを許してはならない。麻生氏が不愉快にしているのは、いや、不愉快やそういう問題ではなく人権を踏みにじっている対象は熱心な朝日新聞読者だけではない。自民党支持者や、地元にも迷惑をかけていることを認識してほしい。「麻生節」ですませてはいけない。ちゃんといちいち批判しなくてはならない。こういうのもまた、朝日新聞仕草と言われそうなのだけれども。

朝日新聞デジタル

わかりますか?これ。一見強い言葉で非難していますが、武田緑さんとは全然違います。女性差別だとすら言ってないのですね。「許してはいけない」とは言いながら何が問題なのかも具体的な指摘ゼロ。

この常見陽平さんは何一つ読み取れずに批判している武田緑さんと違い、麻生太郎が褒め言葉の枕として能力との対比として仲間の汚い顔に触れることをちゃんと読み取っている。そして麻生が以前からこの種の言い回しを男性にしているのも知っているっぽいんですよね。だからちゃんと「女性差別だ」「ルッキズムだ」みたいな断定を避けているんです。

朝日新聞の切り取り意図や付けたい火は理解してちゃんと空気を読んで一見強い態度をとりつつ、内容よく見ると具体的な指摘や決定的な言及をことごとく避けている。これ絶対わざとだと思います。

同じ方向性で雇われた仲間の群れの中に居てなおこの用心深さ。
結構知能の高い人なのがこのコメントだけでわかります。
「朝日仕草と言われそう」とかは完全に自分のやってる事をわかってます。

 

7.実は麻生発言を読み取れている人達2

もう一人、武田緑さんコメントまとめ記事についたコメントプラスです。
こっちは更に読み甲斐ありますよ。

パトリック・ハーラン(お笑い芸人・タレント)2024年2月3日15時18分 投稿
【視点】全くその通りだ。
僕は日本に来てから、女医さん、女社長、女子アナなどの肩書にも強い違和感を覚え、(本の中にも触れているが)これが「女性じゃないのが普通」という概念に基づいた潜在的な差別を表しているものだと考えるようになった。 また、数年前から聞くようになった「美しすぎる〇〇」というのも「美しい女性は○○をやるはずがない」という固定のジェンダー感が込められていると感じ、周りが使う時にも異議を唱えている。 麻生さんの発言はアウト。 ただ、不思議なことに、男性の大臣とかに対するものだったら「ルックスはイマイチだが、やるね~このおっさんは」といった発言であれば、きっと許されるだろうね。仲間を軽くからかいながら褒める、男性同士のコミュニケーションとしてよくあるパターンだ。きっと笑いもとれて場が和むし、褒められる側もいじられて得した気分になる可能性も高い。 だが、同じ発言で傷つく男性もいるでしょうし、美貌に恵まれないと馬鹿にされるという、ルッキズムの助長にもつながりうる。 さて、どうしよう?この「二重基準」も許さないことにして、男女ともに外見やジェンダーに触れてはいけないことにする? それとも、男性優位の社会だから女性に対して許されないとしても、男性ならからかってもいいことにするのか? アメリカ人は、そもそもからかいあう国民だし、お笑い芸人は人をいじっては人にいじられて生計を立てている職業でもある。表現の禁止区域が増えることで、遊べる領域の幅が狭まるのがいや。 だが、人を傷つけて、不平等な社会の維持に加担したくない。 本当に悩ましいところだ。今度マックンに相談してみよう。 ルックスは超ハンサムだけど、やるね~あのおっさんは。

朝日新聞デジタル

面白いでしょ?
野暮だから1から10まで解説したくないのですが、
冒頭で「全くその通りだ」と書いておいて、続く内容は少しも武田緑さんと一致していないんです。むしろ武田緑さんの思慮ゼロで浅はかな断定の数々を殆ど否定している。鉄砲玉が突出し過ぎた戦線を仕切り直すことに文字数の大部分を使っているんですよね。

「なんで容姿をdisったかって、『女はきれいであるべき』と思ってるからじゃないだろ、麻生が重視する能力を誉めるための言い回しだろ……」という殆ど呆れた感じの言外の訂正は常見陽平さんと一致していますし、さらにはこの人は麻生太郎が男に同じ言い方するのも知っていたか、なんとなく察して調べて確認している気がします。

そしたら当然、「男相手にやってるコミュニケーションを女性に等しくやるのが女性差別とはこれいかに」という疑問も湧くので、それも遠慮せず書いちゃってる。

このようなコミュニケーションを軽々に禁じて表現の禁止区域を増やすことには慎重さが必要なのではないのかな…?という警戒心まで表明している。

武田緑さんの脳細胞3個ぐらいしか使ってないコメントとは思慮の範囲も深さも全然違う、まるで別内容の話をしているんです。ちゃんと読めば。

でも書き出しだけ「全くその通りだ。」なんです。笑えるでしょ?
朝日新聞公式コメンテーターとして求められてるポーズは取るけど、コメント自体は自分の考えをちゃんと書く。

内容読めないアホは「全くその通りだ」で武田緑さんに全面加勢したコメントだと思う。内容読む読者はほんとは何が言いたいのか読み取る。

ふざけてるけど誠実な人です。
また言うまでもなく、結構知能が高い人ですよねこれ。


8.まとめ

このエントリで私が言いたいのは
朝日新聞ってちゃんと読むと面白いでしょ?ということです。
記事の質もいいけど最近はコメントプラスが熱い。はてなブックマークみたいになってるんですよね。

コメントプラスという朝日公認コメンテーター制度の中でも実は知能や忠誠度はとんでもなくばらついていて、脊髄反射お追従野郎もいるし、独立独歩スタンスの者もいるし、読む人間の知能によって複数通りの読みかたできるコメントを書いてる者もいる。
 
その中からわざわざチンパンジーみたいなレベルのコメントが朝日記者の手でメインに取り上げられたりもするし、それに対してはるかに知能高い人が脇役みたいな位置でコメントを付けたりもしてるし、そのコメントもよく読んだら一見全面賛同してる風で実は全く異なる見解を書いてて「この記事全然ちげーだろ」が文意だったりする。

上に書いた「こいつ何考えてるのかなゲーム」が好きな人なら楽しめるコメント欄ですし、読む価値のあるコメンテーターもちゃんといます。

どうですか?読みたくなってきたでしょ?
私が加入してるベーシックプランは月額980円です。


全力でおすすめしてる漫画

いま最高に推している、先週完結したばかりの漫画です。
是非多くの人に読んで欲しい。
コメント欄とかに感想書いてくれたら返信率100%です。

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