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交互浴で死にかける

今のアパートを借りてから、12年ぐらいになる。生活が不安定だった時期もあり、引っ越しができなかったという事情もあるが、「引っ越し貧乏」が嫌で避けてきたというのが実際のところだ。引っ越しすると、100万円ぐらいは、ポンと出て行ってしまう。とはいえ、100万円を稼ぐのって、そこそこ大変だよね、という自分の感覚はなかなか騙せない。

自分の部屋に飽き飽きしており、入浴もそれほど楽しめなくなっていた。ユニットバスが嫌なら銭湯に行けばいいじゃない、ということで、郊外の小さな温泉に行ったり、定期券内の駅に途中下車して、駅から近い銭湯巡りなどをしようと思っていた。

先週の水曜日、偶然、入ったその銭湯は、古くてお世辞にもきれいだとは言えなかったが、浴槽が五種類もあり、コの字型に配置されており、動線が素晴らしかった。そして、46℃ぐらいの高温風呂と20℃の水風呂が並んでいた。これは、交互浴するにはちょうどいいではないか、とひらめいた。

せっせと46℃の高温風呂で100を数え、20℃の水風呂でも100を数えるのを3ターン行った。外気浴で休憩するのはやらなかった。多分、それがまずかった。

3ターンを終えると、上半身の皮膚が粟立つような感覚に襲われた。

これが「ととのう(整う)」というやつなのか!

わたしの頭はくらくらしていた。めまいも感じたが、確かな多幸感もある。ああ、このまま、死んでもいいや、と思った。その後、電車に乗り、帰宅後は歯を磨いて寝床に入った。

横たわると、なんだか脚が痛い。そのうえ、胸のあたりがつかえるような、息が詰まるような感覚があり、心臓のあたりが痛い。ストレスかしら。いやいや、どう考えても、無理な入浴方法が原因である。このことが原因で死んだとしても、誰も同情してくれないだろうな、と思いながら眠りにつく。

翌朝、目覚めると、全然、頭がすっきりしていない。だるい。胸のあたりが痛い。そのうえ、自分の体がプールくさい、つまり、塩素くさい。

これで会社を休むのもどうかと思い、体中に違和感を抱えたまま、出勤して、会議で偉そうに話したりしていたが、オイラは無理な交互浴が原因で胸に痛みを抱えてしゃべってんだぜ、という謎の被害者意識を持ったまま、業務にあたっていた。

何事もほどほどに、中庸が大事。非日常を求めすぎて、やりすぎてしまった。そのうえ、危険な行為で、誰も推奨していないやり方でやってしまったのだろう。

しかし、まあ、整いかけた人間としては、あれに夢中になってしまう人の気持ちはすごく理解できた。ドーパミンが放出されまくっていたはずだ。

『ドーパミン中毒』という本で、水(氷)風呂を繰り返すと、ものすごい量のドーパミンが出るのだと知識としては心得ていた。それをちょこっと体験したのだが、その後の痛みと不快感を天秤にかけると、もう二度とやりたくない。

5kmぐらいを真面目に走ると、エンドルフィンは出てくるから、おそらく走った方がいいのだろう。心拍数をあげるのだって、運動したほうが健康にはいいはず。

しばらくは保湿系の入浴剤(液体)を買って、おとなしく養生に努めたいと思う。

人間、退屈していると、ろくなことをしないね。

チップをいただけたら、さらに頑張れそうな気がします(笑)とはいえ、読んでいただけるだけで、ありがたいです。またのご来店をお待ちしております!