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#映画感想文300『カラーパープル』(2023)

映画『カラーパープル(原題:The Color Purple)』(2023)を映画館で観てきた。

監督はブリッツ・バザウーレ、脚本はマーカス・ガードリー、出演はファンテイジア・バリーノ、タラジ・P・ヘンソン、ハリー・ベイリー、ダニエル・ブルックス、コールマン・ドミンゴ、コーリー・ホーキンズ。

製作がオプラ・ウィンフリー、スティーブン・スピルバーグ、スコット・サンダース、クインシー・ジョーンズ、製作総指揮には原作者のアリス・ウォーカーの名前もある。

2023年製作、141分、アメリカ映画。

舞台は1909年の南部ジョージアの小さな町。アメリカの奴隷解放宣言は、1862年であるから、それから50年後が舞台である。

黒人の少女のセリー(ファンテイジア・バリーノ)は、父親から性虐待を受け妊娠し、二人の子どもを産む。しかし、その赤ん坊たちは父親に奪われ、どこかに連れていかれてしまう。セリーは、父親が赤ん坊を間引きしているのではないかと疑っている。そんなセリーが唯一信頼し、頼りにしているのが、妹のネティで、二人は親友のように暮らしている。

ある日、ミスターと呼ばれる男は、妹のネティに目をつけ、結婚できないかと父親に持ちかける。父親は「ネティは賢いから教師にする。セリーなら嫁がせても構わない。牛一頭でどうだ」と娘を家畜と同じように売買する。ミスターのところに嫁いだセリーは、ミスターに奴隷のように扱われながらの生活を余儀なくされる。ある日、妹のネティが、セリーの家にやって来る。父親に性的関係を迫られ逃げてきたのだという。しかしながら、ネティはミスターが結婚したかった女性であり、すぐにレイプされそうになる。ネティは殴られ、銃殺されそうになりながらも逃げだす。セリーに手紙を書くわ、とだけ言い残して。

セリーは一時間が永遠のように長く感じる、と言う。ミスターになじられ、殴られ、彼女に尊厳はない。ただ、彼女は文字を読むことができる。ネティの手紙を心待ちにするものの、ミスターが郵便配達員から直接受け取るため、ネティが生きているか死んでいるかもわからない。

時が経ち、ミスターの息子であるハーポ(コーリー・ホーキンズ)の結婚が決まる。相手のソフィア(ダニエル・ブルックス)は気が強く、男の暴力を決して許さない。やられたらやり返すし、暴力で解決を試みる男がいれば別れる。そんな自信満々の彼女にセリーは嫉妬を覚える。結局、ソフィアはハーポと別れて、別の男と再婚する。

ある日、ブルースの歌手として成功したシュグ(タラジ・P・ヘンソン)が、セリーのもとへやって来る。ミスターが結婚できなかった、今も思い続けている女性で、セリーにする接し方とはまったく違う。でれでれとしたミスターに、彼女はショックを受け、またも自尊心を傷つけられる。そこに一つの光がさす。セリーに世話をされ、彼女を気に入ったシュグは、いずれあなたをここから連れ出すと約束をしてくれるのだ。ただ、その約束が果たされるのかどうか、セリーは信じ切れない。

セリーの人生は、あまりにも過酷である。彼女のもとものと性格がどんなものであったかわからない。虐待された動物が、恐怖に脅え、心を開かないように、セリーはいつも恐怖で萎縮している。

『カラーパープル』とは、白人に搾取され続けた黒人もまた、黒人の女を搾取し続ける、という家父長制批判の物語なのだ。もちろん、女性差別の問題だけではなく、黒人を屈服させたい白人の権力者も登場する。黒人であり、女性であるがゆえに、二重三重の差別があり、黒人女性は最下層に置かれる存在だという現実が嫌と言うほど描かれている。あまりに悲惨なので、歌でも歌わないとやっていられない。ミュージカル映画にして大正解だが、本当につらいシーンでは誰も歌っていなかった。

最終的には大団円を迎えるのだが、もう一つの軸は、キリスト教の「赦し」である。神はわたしたちの中にいる、という台詞が何度か出てくる。神様がいるのなら、なぜわたしたちはこんなにつらい目に遭うのか、という嘆きもある。それでも神を信じよう、あなたのおかげで神の存在を信じられた、という言葉もあった。

セリーは、父親と夫に虐待されながらも、「赦す」ことを選ぶ。しかしながら、加害者を無罪放免にするリスクと、男性に対する甘やかしになるのではないか、という危惧は残る。

素晴らしい映画だったが、キャストがほぼ黒人、主題はフェミニズムと家父長制批判、かつミュージカル映画なので、観客を選ぶのだろうか。わたしは公開三日目に行ったのだが、客席は心配になるぐらいガラガラであった。『バービー』よりも、ずっとわかりやすいのだが、暴力描写はとても怖い。しかし、多くの人に観に行ってほしいな、と思う。

そして、映画を観ながら、「あれ? この話、何だか知っている気がする」と思った。Amazonで検索したら、集英社文庫の表紙には見覚えがある。通読したかどうか覚えていないのだが、二十年前ぐらいに読んでいたっぽい。自分の忘却力にも驚いたぜ。もう一度、原作も読んでおこう。(わたしはアリス・ウォーカーとトニ・モリスンが同じフォルダに入ってしまっていて、時々混乱しちゃうのよね)

『カラーパープル』が発表されたのは、1982年。なんか、諸々のことが遅々として進まない現実も、再認識させられてしまった。



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