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日本にも影響? アカデミー賞の「ダイバーシティ・ルール」で何が変わる?  


2月3日(土)TOKYO FM, TOKYO NEWS RADIO LIFEでレポートした内容に、加筆再構成しています。

東京首都圏の方、放送はタイムフリーで9日(金)まで聴けますので、ぜひチェックしてくださいね。

それ以外の日本の方エリアフリーで。

TOKYO NEWS RADIO~LIFE~ TOKYO FM 2024/2/3(土) 06:00-07:00 https://radiko.jp/share/?t=20240203063552&sid=FMT #radiko

日本以外の方はすみません。ここで読んでください!

アメリカはさまざまな映画や音楽賞のアウォード・シーズンに入っています。
そんな中、第96回アカデミー賞のノミネート作品の発表が先日ありました。

日本からは宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」がアニメ作品賞。「ゴジラ・マイナスワン」が視覚効果賞、そして、「パーフェクト・デイズ」が国際長編映画賞にノミネートされて、受賞への期待が高まっています!

今回の注目、最多ノミネートは「オッペンハイマー」で13部門。それに「哀れなるものたち」「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」そして「バービー」が続いています。

実は、96年のオスカーの歴史の中でも今年は歴史的なアカデミー賞。
「ダイバーシティ・ルール」が今年適用されたからです。
どんなルールなのか、日本の映画にはどう影響するのかをお伝えします。

1. アカデミー賞のダイバーシティ・ルールとは?

ダイバーシティは多様性という意味ですが、
ルールの正式名称はrepresentation and inclusion standards

つまり作品賞のノミネートの対象になるためには、一定の「ダイバーシティ=多様性」をクリアしていなければならないということです。

ちょっと複雑なんですが・・・。

例えば、主演または助演俳優のうち、少なくとも1人が、製作された国では、マイノリティの人種民族であること。つまり、アメリカだったら白人ばかりではダメということですね。

また、脇役の少なくとも3割に、マイノリティ人種や女性、LGBTQ、そして障害者が含まれていること。また、スタッフにこうしたマイノリティが含まれている、作品のテーマがマイノリティの話であることなど。

もちろん全部ではないのですが、そのうちある程度の基準を、クリアしていることが必要です。

2. 「ダイバーシティ・ルール」なぜ必要?

アメリカは歴史的に白人主導の社会ですが、人種が多様化していく中で、アカデミー賞で勝てるのは白人ばかりというのは、おかしいという批判が出てきました。

特に2015年にノミネートされた俳優が全員白人だったために、「#ハッシュタグ オスカーは白すぎる」というのでSNSで大炎上。さらに2020年のブラックライブスマター運動などの影響もあり、この「ダイバーシティ・ルール」が作られました。

ただこのルール適応を待たず、ここ数年のアカデミー賞にはかなり変化が見えてきているというのも事実です。

特に、その動きの中で、ここ数年大躍進しているのが、アジア系と言われています。

私がアメリカに来た30年前には、映画やテレビアジア系の俳優はほとんど見ませんでした。出ていてもちょい役、チャイニーズレストランの店員みたいな感じ。それが変わってきたのがここ10〜15年くらいです。

3. アジア系の大躍進

そして、ついに2020年韓国映画「パラサイト」が、初の外国語映画として作品賞を受賞。

去年2023年は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」が、アジア系中心のダイバーシティキャストで、作品賞に輝くなどしています。

これもオスカーは白すぎるという、強い批判を受け、審査員に女性や黒人を増やすなどの努力に、影響されたと考えられています。

このようにマイノリティの存在が、映画などのメディアで表現されることは、私たちの毎日や、社会のありかたにも、大きく影響すると言っても過言ではないんです。ありません。

どれほど重要なのか?

アジア系アメリカ人の芸術家をサポートする、非営利団体Asian American Arts Allianceの代表リサ・ゴールドさんにお話を聞きました。

4. 映画のダイバーシティは、人と人とを繋ぎ、ビジネスチャンスにもなる

「アジア人に限らず、映画などのメディアで表現されることは、皆にとって、必要です。自分と似た顔が見たい、というのは自然な欲求ですから。
また、アメリカではここ数年、反アジア感情や、偏見が膨らみました。アメリカで生まれているのに、外国人呼ばわりされたり、よそ者扱いされることもありました。
でも私たちアジア系も、普通の隣人であり、通っている病院の医者であり、誰かのガールフレンドでもある。それを物語として伝えることが,共感を生み出し、理解を広げて偏見を無くすんです。私たちはお互い、思ったよりもずっと似ている、と感じられる。これが思いやりと、理解を築く上で、とても重要だと思います。」と語るアジアン・アメリカン・アーツ・アライアンスのリサ・ゴールドさん。

さまざまな人々の、物語を見ることで、みな同じ人間なんだという理解を広げて、偏見を無くしていく。映画におけるダイバーシティはそんな大事な役割を持っているんです。

ではリサさんは、アカデミー賞の、新しいダイバーシティルールについては、どう評価しているのでしょうか?

「特に素晴らしいのは、画面に映る俳優だけなく、リーダーや舞台裏のスタッフにも。多様性が求められているところです。
アメリカは今後、さらに多様化し、2045年までに、白人が過半数を割る、と予測されています。そうなると、映画産業はビジネスですから、もっと多様な人々が見たい作品、つまり多様な人が出る映画を、作るようになる流れでしょう。多様な私たちがお互いを見て、理解し合う機会がもっと増えることを期待しています。」

5. 日本の映画にもチャンスが増える

リサさんが言うように、ダイバーシティは、ビジネスチャンスでもあるという捉え方が広がりつつあります。

アメリカだけでなく、さらに多様な人が住む、世界を市場として考えれば当然ですね。
逆にそういうものを作らなければ、見られなくなってしまうという危機感もあります。今回のアカデミー賞のダイバーシティルールも、その表れと言っていいと思います。

多様性が重視されている今、日本の作品も注目されやすくなっていく、チャンスだと思うし、日本がどんどん良い作品を作って、世界に届けることで、分断した世界をつなげることにも、貢献できると思います。

6. 今年の作品賞ノミネートのダイバーシティは?

今年は作品賞10個のうち3つに外国語作品が入り、これはこれまでで最多です。

韓国系アメリカ人による「Past Lives」。ドイツ語の「The Zone of Interest」フランス語の「Anatomy of the Fall」の3作品。

また人種的ダイバーシティという意味では「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」という作品は、ネイティブ・アメリカン連続殺人というノンフィクションの映画化です。そして主役のリリー・グラッドストーンは、ネイティブ・アメリカンとして初めて主演女優にノミネート。
また、「American Fiction」はアフリカ系アメリカ人への偏見を、自虐的に皮肉ったコメディ。

「バービー」「哀れなるものたち」も女性のあり方に新たな光を当てた作品でもあります。

こう見るとダイバーシティルール適応の最初の年としては、まずまずのスタートではないでしょうか。ただし、受賞結果がどれほどダイバーシティに溢れたものになるかは、また別の問題です。

7. 日本の作品は今回のアカデミー賞で受賞できる?

作品賞は「オッペンハイマー」良くも悪くも悪くも重要なアメリカの歴史を描いた映画であることと、既に大小の賞を総なめにしているので、作品賞はまず間違いないと思います。

日本作品を見ると、宮崎駿監督は既に世界のアニメ界のトップスターで、今回の作品も非常に評価が高いのと、既にゴールデングローブ賞を受賞しているので、「君たちはどう生きるか」はかなり期待できると思います。他候補のスパイダーマンと一騎討ちとも言われています。

視覚効果賞の「ゴジラ・マイナスワン」は、ハリウッドの特撮映画の10分の1以下の予算で作られています。それでここまでできるんだ!というショックを与えたので、受賞の可能性は十分あると思います。

国際長編映画賞の「パーフェクト・デイズ」 このカテゴリーはなかなかの激戦区で、中でも「The Zone of Interest」は作品賞にも同時ノミネートで、最有力候補。「パーフェクト・デイズ」アメリカでは2月に入ってからの公開なので、ここからどれだけ話題作りができるかが勝負かもしれません。

アカデミー賞の受賞発表セレモニーは現地時間3月10日、日本時間11日です。




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