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”持続可能”の意味と向き合う 八重山食卓会議 後編

照りつく太陽が輝く7月下旬、私たちは沖縄県八重山(やいま)地区の石垣島を訪れました。今回の食卓会議も、めぐるめく事務局に加えて、全国各地から多領域の食農に関わるメンバーが現地に集いました。(前半のレポートはコチラで詳しくお伝えしています。

エメラルドグリーンと向きあうサステナブルツアー

石垣島、2日目の朝は4時起き。2020年7月1日から毎日欠かさずアースクリーン(ゴミ拾い)を行っている縄文企画の「南の島の拾人(ヒロインチュ)」こと田中秀典さんにお誘いいただき、朝日を見にいきました。到着した先に広がる想像を超える絶景に言葉を失うメンバーたち。しばし無言で各々の時間を噛み締めました。

 

朝日が昇りきった後にはラジオ体操を行い、早速アースクリーンの開始です。田中さんは石垣島のアースクリーン&アップサイクルワークショップ体験を通じて、さまざまな社会問題を“ジブンゴト”にするきっかけづくりを行っています。

 

 「石垣島の海ってなんて綺麗なんだ〜って思うでしょ。でも足元ちょっと見てください」

濁りのない綺麗な海と、真っ白な砂浜。最初はそう見えていた景色も、よく眼を凝らすとそこらじゅうに海洋ゴミが落ちています。冬には風向きや潮流でさらに大量の漂流ゴミが流れつき、社会問題になっているそうです。

 

灼熱の中での作業に体力は失われながら、一向は黙々とゴミを拾い続けます。1時間で拾えるゴミなんて大したことないのではと思い挑んだものの、実際は想像を超える量の海洋ゴミ・漂流ゴミ。朝日のときとはまた違う意味で言葉を失いました。

<1時間弱で集まった海洋ゴミ・漂流ゴミの山>

続いて訪れたのは沖縄を代表する伝統的な小型木造漁船「帆掛サバニ」を制作している「吉田サバニ造船所」です。

 

「お金を稼ぐことにどこか抵抗があったんですね。お金がないほうが社会は幸せなのではないかと思っていて。あとはなるべく自然と共存したいと思っていて。なのでこの仕事に就くまでは、さまざまな地域で自給自足のような生活をしていました」

そう話す吉田友厚さんは友人の誘いがきっかけで石垣島に移住し、縁ありサバニを造る師匠と出逢い、この道に進むことになったそうです。

サバニは、金属の釘を一本も使わず全て木材で組み立てていきます。沖縄の伝統的手法でつないでおり、海水で錆びることもなければ、海を汚すこともありません。

 「このサバニを造船する仕事は、私たち人間が手放してしまったものを取り戻す仕事だと思っています」

造船の様子を見せていただいたあとは、サバニに乗り込みシュノーケリングへ。帆で風を受けながら進んだ先で、美しい珊瑚礁と白化してしまった珊瑚礁、それぞれを直接目にしました。

二代目、三代目が受け継ぐ歴史とこれから

石垣島の海に触れたあとは、石垣牛の飼育を行っている畜産農家「ぼーのファーム」へ。

 家族で経営している牧場の責任者として、日々牛飼いに励んでいる宮良 央(みやよし なか)さんは、規格に縛られない牛肉の生産に取り組んでいます。今後は自身で育てた石垣牛の販売や製品の製造、飲食店経営などの事業展開を考えているところです。

ちなみに「ぼーの」とは、石垣島の中でも白保地区独特の方言で「僕の」という意味だそう。イタリア語の「おいしい」とのダブルミーニング。宮良さん親子のおおらかなキャラクターも相まって、ほのぼのとした牛たちとのひとときを楽しみました。

 ぼーのファームを後にし向かった先は、於茂登集落で月桃などのハーブを栽培から加工、販売までをしている「畑里(はるさと)」。迎えてくれたのは、2代目となる伊良皆 高虎(いらみな たかとら)さんです。

「祖父の代に入植してからサトウキビやマンゴー、パイナップルなどさまざまな植物の栽培にチャレンジした末、もともと石垣島に自生している植物、月桃に着目。栽培、加工しハーブティーとして販売を始めました」

月桃とはショウガ科の植物で笹のような形をしており、日本では九州南部から沖縄県に分布する南国の植物です。爽やかで少しだけ自然の甘みも感じる味わいで、暑い石垣島にはピッタリ。グビグビと喉を潤しながらお話しを伺ったあと畑へ。

一緒に同行していたかわみつ農園の川満さんが、畑に廃棄された使用済みの月桃の葉を見て「堆肥に使えそう!」と一言。早速活用する話となり、この食卓会議をとおして新たなコラボレーションが生まれました。

二日目の最後は、石垣島の泡盛「白百合」「赤馬」の蔵元である池原酒造所を訪問。1951年の創業以来、親子三代で経営している伝統のある蔵元です。洗米から蒸留まで全ての工程を手作業で仕込む、昔ながらの泡盛の製法を守り続けています。

「微生物の働きで作られる泡盛は、環境の変化などに味が左右されがちです。安定した品質を保てるよう、日頃から目視で注意深く観察しています」

製造から販売まで一貫できる特長を活かし、チョコレート専用の泡盛や、島内でも人気のカフェ「KLATCH COFFEE」とコラボレーションした泡盛など、新たな商品を積極的に開発しています。

「小ロット生産蒸留所ならではの特長を活かして、これからも泡盛の可能性も追求していきたい」

 そう話す代表、池原 優さんの挑戦はこれからも続きます。

 関係性をめぐらすキックオフ

あっという間の最終日。1日目の交流会で『嵩田グリーンツーリズム構想』について話してくださった花谷友子さんの「仲田園芸ヘナガーデン」を訪れました。

「仲田園芸ヘナガーデン」は、3000坪の畑でヘナ・プルメリア・ヘリコニアなどの観葉植物の苗木を、農薬や化学肥料はまったく使用せず栽培し販売。 ヘナを使って、天然の髪染めやアロマセラピー、ヨガリトリートの体験プログラムを展開しています。

せっかくだからとヘナ畑で摘んだ新鮮なヘナの生葉をミキサーにかけてペーストをつくり、その場でヘナ染め体験。そこへ、おばぁ(友子さんのお母さん)がひょっこりと顔を出してくれました。「わたしはねぇ、もうすぐ89歳になるんだけどヘナで染めてピンピンだしずっと健康よ〜。み〜んなが健康になって長生きすることがわたしの願いさぁ」とニコニコ顔で話してくれました。

 3日間に渡り交流を深めた後に、いよいよダイアログの時間です。

<島内のプレイヤー>

かわみつ農園 川満起史さん
フルーツ園金城 金城龍太郎さん 
花谷農園 花谷まゆさん
ぼーのファーム 宮良央さん
畑里 伊良皆高虎さん
仲田園芸ヘナガーデン 花谷友子さん

 <域外のローカルプレイヤー>

”場”に生み出すまちづくり専門家合同会社HOC 濱久貴さん
料理研究家の観点でワクワクをクリエイトするtetoteto 井上豪希さん
日本一小さな村で新しい当たり前づくりに挑む70seeds 岡山史興さん
各地でプロジェクトを立ち上げ伴走支援を行うfoodskole 大森愛さん

まず、川満さんから「この食卓会議では地域の皆さんと大小関係なく、夢を語りあう場にしたい。そして夢をひとつひとつ叶えるきっかけの日になれたら」という力強い挨拶がありました。そして、沖縄県農林水産部八重山農林水産振興センターのおおたさんからは、石垣島の一次産業の半分以上が畜産(肉用牛)であることなど、島の特徴や課題について共有いただきました。

その後、島内で農薬や肥料を使用せず有機農業を行っている花谷農園の花谷まゆさんから、土壌微生物と農作物の関係性、そして土づくりと海の関係性について手作りのわかりやすい資料と共にお話しいただきました。

続いて、市議会議員でもある花谷シローさんからは、石垣島の荒廃しつつある自然や観光の現状についてお話しいただき、石垣島全体の一次産業の様子を共有いただきました。

ローカルプレイヤー、島内のプレイヤーそれぞれの自己紹介を終えて、いよいよディスカッションです。以下の2テーマを、3チームに分かれて話し合います。

◎2030年に向けて、これからの石垣地域に必要なモノ・コトって?

◎八重山地区の2030年、どうなってたらワクワクしますか?

「ただの観光地として消費するだけではなく、八重山の魅力を一緒に考えてくれる観光客が必要だよね」

「自然を守ることとビジネスが二項対立になってしまっているけど、そのバランスはとれないか」

「離島が故の輸送コストや災害時の脆さがある。一次産業の付加価値をしっかりつけることが必要なのではないか」

などの様々な意見が飛び交いました。

 

その中でも「ゆんたく会のようなコミュニティの場所づくりが必要なのではないか」という、昔から続いている場の必要性がどのチームでも出たことが印象的でした。

 

最後に、川満さんの「この対話を一過性のものにしないで、一つ一つに向き合うことで地域の活性に繋げていきたい」という言葉で、2泊3日に及ぶ食卓会議は終わりました。

この2週間後には早速ローカルプレイヤーとの振り返り会も設けられ、この食卓会議を機に新たな循環が生まれそうです。

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