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地域と企業と人が交わる2時間「めぐるめくSoup up!」を開催

めぐるめくプロジェクトでは、地域でタベモノヅクリ(※)に挑む方々の出会いの場をつくるべく、各地域で内外のプレーヤーが交流する「食卓会議」をはじめ、日本各地の方々と手を取り合ってイベントを開催しています。

※タベモノヅクリ:めぐるめくプロジェクトで定義している「食の生産・加工」を表す言葉。食べ物+モノづくりの造語。 

そして、「地域チャレンジャー × 企業」の場として開催しているのが、今回レポートする「めぐるめくSoup up!」です。地域で活動する方々を丸の内にお呼びし、さまざまな企業とマッチング。ネットワーキングの時間も設けながら、新たな可能性を生み出すイベントです。(前回のレポートはこちら) 

「めぐるめくSoup up!」とは…地域チャレンジャーとさまざまな企業とが出会い、語り合い、“soup(スープ)”のように混ざり合っていくことで前向きな共創が生まれることを目的にしたプログラムです。都市部ではなかなか出会うことのできない、食の課題解決に取組むチャレンジャーの想いを聞き、実際に食を味わいながら、地域と企業の価値共創の機会をづくりを目指しています。

今回は、九州で活躍するチャレンジャー、地域と都心をつなぐ水族館仕掛け人、世界中に拠点を持つ老舗企業、というバラバラの背景を持った3名にお越しいただきました。それぞれのプレゼンテーションから、盛り上がったパネルディスカッション、時間の足りなかったネットワーキングの時間までをレポートします。


都内の水族館が仕掛ける「地域との共創」

最初に登壇したのは、サンシャイン水族館を運営する株式会社サンシャインエンタプライズの山辺 英生さんです。「地域との共創が高める企業価値」をテーマに、都心の企業としての視点を共有してくれました。

山辺 英生さん
株式会社サンシャインエンタプライズ 事業企画部 次長

1979年生まれ、青森県弘前市出身。ワシントン州立大学動物学部を卒業後、2005年に㈱サンシャインエンタプライズに入社し、サンシャイン水族館(当時はサンシャイン国際水族館)にて主に海獣類の展示飼育担当として勤務。2013年よりしながわ水族館勤務となり、鯨類を含む海獣類の展示飼育を担当。201年より飼育部門を離れ、事業企画担当として勤務。現在、事業運営や開発に関する業務を担当しつつ、野菜の水耕栽培と魚の養殖を組み合わせた農法「アクアポニックス」の研究と情報発信を目的として、青梅市の一般社団法人「Iwakura Experience」と連携して活動中。

山辺さん「地域との共創がテーマなのに『なんで突然、水族館?』と思われる方も多いと思いますが、水族館と地域、実は切っても切り離せない密接な関係にあるんです」
 
そう切り出した山辺さん。まずは日本全国に大小130ほどある水族館と地域の関係性について説明してくれました。
 
山辺さん「水族館の多くは、海の近くにあります。そのメリットは、天然の海水を汲み上げてこられること、そして地域の漁師さんとの連携です」
 
いくら水族館スタッフとはいえ、勝手に海や川で生き物を捕まえてくることはあまり良いこととされておらず、地元の有権者や漁師と連携することが必要だと話します。ときには漁に混じっている“売り物にならない魚”を引き取ることもあるのだそうです。
 
山辺さん「ちゃんと地域の方とのコネクションがあるので、水族館に連絡が来るんですね。 水族館からすれば、地域の方々や自然のおかげで展示が成り立っているといえます。その一方で、地域にとっても、観光拠点としての展示や情報発信が、地域全体のPRに繋がっていくため双方にとってWin-winの関係であることがほとんどです」
 
その上で、東京の水族館であるサンシャイン水族館やしながわ水族館の取り組みを紹介。定期的に海へ出て生物の採集や調査活動をおこない、地域の漁師との連携を深めているといい、「地域の方々との連携をちゃんとしていかなければ、都市部の水族館は魅力がどんどんなくなってしまう危険性を感じている」と話します。

また、沖縄県の恩納村と協力関係を結んでおこなっているサンゴ保全活動「サンゴプロジェクト」、東京の岩倉という地域を舞台にしたアクアポニックス研究「AQUARIUM FARM TOKYO」 についても紹介しました。
 
恩納村の漁業組合と連携し、水族館でサンゴの現状を展示、人工的に育てたものを沖縄の海へ返す保全活動を始めたのが17年前。そこから、山辺さんを含めた水族館のスタッフが沖縄の海を調査・サンゴの養殖をおこなったり、池袋の街全体を巻き込んだ沖縄PRイベント「沖縄めんそーれフェスタ」に発展したり、大きな広がりを見せています。
 
「AQUARIUM FARM TOKYO」では、一般社団法人Iwakura Experienceと連携し、水耕栽培の新しい農法であるアクアポニックスに取り組んでいます。育てた野菜が水族館の動物の餌になるなどの循環のほか、今までは踏み入れることがなかった「農業」という文脈にも関係性が持てたことが大きな成果だと話しました。
 
山辺さん「都市部で暮らしている我々からすると、地域には新しさと懐かしさが同居するような魅力があると感じます。都市には多くの人が集まり、関係人口が増やしていかれるメリットがあります。私たちももっと積極的に、地域と連携して発信していきたいと思います」

「共創」を形にしている地域プレイヤーの言葉

市部の企業である山辺さんに続いて、宮崎県から参加した村岡さんが壇上へ。山辺さんのプレゼンとは打って変わって、地域で活動する側からの視点を共有しました。

村岡 浩司さん
株式会社一平ホールディングス代表取締役社長

1970年、宮崎県生まれ。人口12,000人のまち、宮崎市高岡町で廃校となった小学校をリノベーションし、カフェやシェアオフィス・コワーキングを併設するMUKASA-HUBを運営。“世界があこがれる九州をつくる”を経営理念として、九州産の農業素材で作られた「九州パンケーキミックス」をはじめとする商品開発の他、カフェ・飲食店を国内外に展開。食を通じた地域活性化やコミュニティ創生にも取り組んでいる。

村岡さん「僕らは、九州を大きな島・ビッグアイランドというひとつの地域として捉えて、島のなかのさまざまな資源や技術をいかした商品作りをおこなってきました」
 
九州のさまざまな地域をめぐり、人々をつなぎ合わせて、九州全体の価値を創出してきた村岡さん。共創関係にあるメンバーは200人を超え、生み出した商品の数々はMakuakeで総額1億円以上の資金調達を達成しました。
 
常に「共創」の和を広げ続ける村岡さんが、話してくれたのは「CSV(Creating Shared Value)」という考え方です。ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が2011年に発表した考え方に、村岡さんは衝撃と勇気をもらったと話します。それまでのビジネス界における“競争戦略”ではなく、同じ課題解決に向かうためにビジネスを活用する“共創戦略”という考え方です。

村岡さん「どういう社会を実現したいのか、我々が解決しなければならない課題は何なのか。そういったソーシャルコンセプトに向き合い、組織として何ができるかを明示していく。同時に、ソーシャルコンセプトの実現のためには、事業プランやビジネスの内容を変えてもよい、という概念に救われました。どんどん変えながら、課題解決に到達すればいいんだ、ということです」
 
特にコロナ禍において、飲食店を多く経営していた村岡さんを始め、さまざまなビジネスに打撃がありました。台湾にオープンした「九州パンケーキカフェ」が閉店し、これからどのような動きをしていけばいいのか悩んだと言います。
 
村岡さん「3年間、やっていることを変えながら、それでも『地域の明るい未来に辿り着きたい』と、常に考えながら走っているような次第であります。そのなかで辿り着いたのが『九州パンケーキのワッフル』というワッフル屋さんでした」
 
このワッフル屋さんが大好評、ついには台湾で2号店をオープンすることも決まりました。九州と台湾の連携を深め、お互いを盛り上げていこうという流れにもつながっているのだそうです。
 
また、この『九州パンケーキのワッフル』の国内展開には、新たな方法を取り入れています。九州の食材や工場でできたワッフルの材料を、日本全国の食の活動をする人々に提供し、オリジナルのワッフルを作ってもらうことにしたのです。「47都道府県ワッフルプロジェクト」として、ワッフルというものを通じた全国でのつながりを作ろうとしています。
 
「共創が生み出す価値創出を実感するには、長く時間がかかります。それでも一つ一つ動いて、価値を証明して伝達していくこと。それが大事だと、私も気づいたところです」

「道具」を起点に地域と食をつなぐ

前半最後に登壇したのは、株式会社貝印の上保 大輔さんです。めぐるめくプロジェクトへの参画を、企業としていち早く表明している貝印。老舗企業として、めぐるめくプロジェクトが掲げる共創に対して現状感じている可能性について話しました。

上保 大輔さん
貝印株式会社 取締役上席執行役員

総合刃物メーカーである貝印において、研究開発やマーケティングの部門を管掌。また、創業の地であり、現在も製造部門が立地する岐阜県にて産官学連携のプログラム推進なども担当している。食事業による地域活性化への取り組みを大きなテーマとして積極的に進めており、飲食店の経営や食品製造など、モノづくりからコンテンツづくりへ事業領域を拡大。今回のプログラム参加でも、食に関連するサービスづくりの面で貢献を目指している。

100円のカミソリから、数万円の包丁まで。1万点ほどの商品を持ち、「刃物と言えば貝印」と言っても過言ではない会社の本社は岐阜県。地域に拠点を置く企業でありながら、日本全国、最近では海外の売上も伸びているといいます。また、地域の事業者との距離も近く、一緒にものづくりをすることも多いのだそうです。
 
上保さん「例えば、枕崎の鰹節の事業者さんと鰹節削り器を一緒に作って、鰹節とセット販売してみたり、徳島のスダチの農家さんに頼まれてスダチが絞れる商品を作ったりと。我々は百貨店から小さな小売店まで、“売り場”とのつながりがあるという強みがありますので、それを生かして共創してきました」
 
包丁などの調理器具も多く手がける貝印は、食に関する事業にも力を入れています。料理家のためのメンバーズクラブ「Kai House Culinary Artist Club(カイハウス・カリナリーアーティスト・クラブ)」や、伊勢丹新宿にあるレストラン「Kitchen Stage」を運営。食の価値を体験する場を作り出す料理教室やシェフとのネットワークを構築しています。また、規格外の野菜を活用した商品販売や、フードロス対策としての野菜の切り方発信など、サスティナビリティという視点も持ちながら、食の事業に取り組んでいます。
 
上保さん「特にシェフの方々とのネットワークを生かした取り組みは、これまでもおこなってきました。例えば、メニュー開発や商品開発の取り組み、シェフと一緒に産地を訪れたりなどなど。そうやって生まれたものを、全国の料理教室やSNSで発信や、伊勢丹で試験的にメニューとして出してみるなどの展開が期待されています」
 
貝印単独でおこなってきたネットワークを生かした連携を、今後はめぐるめくプロジェクトを通してより広げていきたいと語った上保さん。今年で110周年を迎える老舗企業としても、これからどのようなつながりができていくのか楽しみだと語りました。

上保さんのプレゼンテーションのあとは、いよいよお待ちかねのランチです。今回提供されたのは、8月末におこなわれた「東三河食卓会議」で提供されたランチのパワーアップ版。貝印のシェフ、柬理美宏さんが考案した、東三河の食材をふんだんに使ったカレーと副菜の数々です。(貝印のみなさんが参加してくださった、東三河食卓会議の様子はこちら。) 

<東三河の旨味の強い合鴨と、貝印が開発した乾燥野菜「OYAOYA」を、東三河のブランド米「女神の微笑み」にかけて。副菜は、東三河のさつまいもやレモンなど、素材のおいしさをいかしたものばかりです。>

【パネルトーク】4者それぞれから見た「共創」とは

カレーを食べる参加者を前に、登壇者3名とめぐるめく事務局の広瀬が登壇。「共創」をテーマに、地域や立場を超えたパネルトークが行われました。
 
最初に広瀬から、山辺さんと上保さんに投げかけられたのは「都心側のプレイヤーは、地域のどんなところに関わりたいのか」という点。今回のイベント『めぐるめくSoup up!』に参加しているのは、都心側のプレイヤーが中心ということもあり、企業側から見た地域の「関わりしろ」について聞きます。
 
「ロマンチックなことを言いたいわけじゃないんですが」と前置きした上で、山辺さんが語ったのは、どんな地域にも共通している「愛」というキーワードです。
 
山辺さん「さまざまな地域の方と話していて思うのは、地元の海や暮らしをどれだけ愛しているかが、大きなエネルギーになっているということ。自分たちが生まれ育った地域へのまっすぐな愛情は、都市部の私たちにとっては新鮮ですし、社会を動かしていく力になっていくと感じています」

一方で、上保さんは自身の移住の経験も含めて、企業としてできることについて話してくれました。
 
上保さん「私自身、地域に移住して2年ほど経ちますが、地域の人たちが“当たり前”だというものの価値に驚くことがあります。ただ、それをあまり特別だと思っていないから、PRも足りない。情報の伝え方の工夫は、企業としてももっと貢献できる部分だと考えています」
 
話はそのまま、ビジネス視点で進みます。企業として「社会・地域のため」と「稼ぐこと」の両立ができるのか。社会課題の解決は“稼げない”のか。都心部と地域、それぞれでバランスを取りながら活動する3者それぞれの視点で語りました。村岡さんの取り組む「九州パンケーキのワッフル」と水族館でコラボする「お魚のワッフル」のアイディアも生まれ、盛り上がりを見せたパネルトークとなりました。

今回のテーマである「共創」として、地域を超えた仲間作りについての話題も。真摯に長く向き合い続けること、変な期待を持たせずに率直にコミュニケーションを取ることなど、それぞれが意識していることが話し合われました。地域で活動する村岡さんからの言葉も、都心部で働く参加者のみなさんに届けられました。
 
村岡さん「先日、ある大学教授から『イノベーションは利他の場でしか生まれない』という話を聞いて驚いたんです。でも、本当にそうだなと。理想とするソーシャルコンセプトを実現するための手段として、ビジネスを成り立たせていくということなんだと思います」

つながりを生めば、共創も生まれる

パネルトークを終え、最後はネットワーキングの時間です。それぞれの登壇者の取り組みや想いを聞いたからこそ、つながってみたい・一緒になにかできないか、という話が生まれやすくなるように感じました。

今後、『めぐるめくSoup up!』から、都市部や地域、企業の枠を超えた「共創」が生まれていくことが、楽しみです!


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