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本が好き、その想いだけで書く文章たち。
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【三鷹散歩】太宰治の足跡をめぐる一日

2024年、冬、某日。 私は東京の三鷹駅に降り立った。 三鷹は、太宰治が、戦争期〜晩年を過ごした街である。 青森県の北津軽に生まれた太宰は、1930年、東京帝国大学入学を機に上京。その後、1939年から1948年に亡くなるまで、三鷹に居を構えていた。 太宰にとって終の住処となった三鷹の家は、12畳半ほどの質素な借屋だった。 その家で、『人間失格』『斜陽』など、後期の傑作が数多く生み出された。また、「東京八景」や「十二月八日」などの短編では、作品の舞台としても登場し、

書簡体小説は、新境地へ。 【おすすめ書簡体小説3選】

「書簡体小説」とは、登場人物の書簡を用いて、間接的に物語を展開する小説のことである。 古くは、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』、夏目漱石の『こころ』など、数々の傑作文学でこの手法が用いられてきた。 2年ほど前、書簡体小説がなぜ読者を惹きつけるのか、その面白さについて考え、noteを書いたことがある。 手紙には、宛先がある。 手紙に書かれる文章は、通常の小説のような不特定多数に向けた文章ではなく、特定の個人に宛てて綴られた文章だ。 書き手と読み手の世界に閉じた、ごく個

私が併読をすすめる理由。

本好きの皆さん、「併読」してますか? まず、併読とは何か。広辞苑を引いてみます。 このnoteでいう併読とは、2冊以上の本を、同時並行で読み進めることを指します。 本の読み方は人によって千差万別ですが、大きく「併読するか/しないか」に大別できます。 複数の本を同時に読み進める”併読派”。一冊の本を読み終えるまで別の本に移らない”熟読派”。 皆さんは、どちらの読み方で読書をされていますでしょうか? 私は、生粋の”併読派”です。 それも、「読んでいる本に飽きたから、

すっかり熟成した”積読候補本”たちを供養しよう #うちの積読を紹介する

面白そうなお題を見つけたので、急遽noteを書くことにした。 「#うちの積読を紹介する」は、読んだ本ではなくて、まだ読んでいない本、これから読もうと思っている本を紹介するところに、いつもと違う面白さがある。 昨年ひとり暮らしを始めたタイミングで、実家にあった本を少しだけ新居に持ってきてはいるが、ほとんどは手放すか、実家に置いてきてしまった。 加えて最近は、図書館を頻繁に利用している(ひとり暮らしの出費スゴい……)。そのため、今新居にある積読本は、実はかなり少ない。 そ

【愛用ブックマーク紹介】シーンに合わせて、栞を選ぶ

今回は、私が愛用している、お気に入りの栞たちをご紹介。 前回、【愛用ブックカバー紹介】と題して、気分やシーンに合わせてブックカバーを選ぶという提案をした。 ブックカバーと並ぶ読書の必需品、栞についても、私は同じ提案をしたい。 ブックカバーと栞を組み合わせる、読書グッズのコーディネートも楽しみのひとつ。 さて、掘り下げていくと奥が深い、ブックマークの世界へご案内。 BIBLIOPHILICのブックマーク 私が持っている栞の中で、最も使用頻度の高いものがこちら。 本

【愛用ブックカバー紹介】シーンに合わせて、ブックカバーを選ぶ

今回は、私が愛用している、お気に入りのブックカバーたちをご紹介。 私は、靴やバッグなどのファッションアイテムと同じように、ブックカバーも、気分やシーンに合わせて選ぶという提案をしたい。 例えば、手に取った本のジャンルや内容に合わせて、ブックカバーを選んでみたり。 ファッションやインテリアのコーディネートに合わせて、ブックカバーを選んでも良いかもしれない。 ブックカバーの選択肢をいくつか持っておくことで、読書ライフは、もっと豊かになる。私はそう思っている。 さあ、シー

どっぷりハマる、SF沼。 【おすすめSF長編3選】

小説は何だってできる。人間が想像できることは、何だって。 どんなに突飛な超常現象も、銀河を駆ける星間戦争も、時間や空間を超越した恋愛劇だって、実現できる。小説に限界は存在しないのだ。 今回は、おすすめの長編SF小説をご紹介。 壮大な世界観に圧倒され、予想外の展開に翻弄され、主人公の覚悟と勇気に、胸を熱くさせられる。 そんな読み応え充分のSF作品を、3つ揃えた。気になる作品があれば、ぜひチェックしてみていただきたい。 デイヴィッド・ミッチェル|ボーン・クロックス英国の

爆ぜる文学性。”エモい本”を読んで、感情を揺さぶろう

皆さん、感情、揺さぶってますか? 平日は仕事に行って帰るだけ、休日はずっと寝ているだけ、そんな単調な日々をお過ごしの方も、もしかするといらっしゃるのではないでしょうか。 そんな感情の起伏の少ない日々に、一筋の光を差し込んでくれるのが、”エモい本”。 感情を揺さぶるようなエモい本を読むことで、忘れかけていたあの頃の気持ちが蘇る——今回はそんなnoteです。 ”エモい本”とは? 最近よく使われるようになった「エモい」という言葉。 実はこちら、『三省堂国語辞典』に収録さ

人に本を勧めるのは、実は結構難しい。

「趣味は読書です」と公言していると、よくこんな質問を受ける。 実際にこの質問を受けたことがある人はお分かりかもしれない。 これ、こんな軽いノリで聞いていい簡単な質問とちゃうで。 おすすめしたい本はたくさんあるけれど、いや、おすすめしたい本がたくさんあるからこそ、この質問に即座に答えるのは、実は結構難しかったりする。 人に本を勧めることは、ひとつのスキルだと思う。 ただ自分が好きな本を勧めても、なぜか相手の心に響かず、会話が盛り上がらない……なんてことがよく起こる。聞

【2023年版】今年読んで良かった本

2023年の読書を振り返ろうと思います。 2023年は、199冊の本を読みました。 なんと、200冊まであと1冊! 読んだ数が全てではないけれど、なんとなく悔しい……。 今年は、月別の読了数もカウントしてみました。 月に大体15〜20冊ほど読んでいたようです。11月が引っ越しでバタバタしていて伸び悩みました……。 続いて、私が2023年に読んで良かった本を7冊紹介します(本当は3冊に絞ろうと思っていたのですが、絞りきれませんでした……)。 それでは、さくさく紹介し

読書は、”知の冒険”。 〜孫泰蔵『冒険の書』を読む

『冒険の書』と聞くと、「ドラゴンクエスト」というRPGゲームを思い浮かべてしまうのは、ゲーム好きの幼少期を過ごした者の習性である。 幼い頃の私にとって、「ドラゴンクエスト8」は、間違いなく革命だった。同世代の方は、きっと頷かれていると思う。 ドラクエ8は、それまでのナンバリング作品に比べ、「冒険している感」が段違いだった。3次元的にどこまでも広がる、大地、海原、そして青空。 今でこそ、「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」に代表されるオープンワールドゲームは一般的になっ

【雑記】本には、読むタイミングがある。

読書が好きになったのは、大学1年生のとき。 通学に電車で往復4時間もかかり、暇すぎて何かやることがないかと探した結果、本を持ち歩くようになった。 私は本を読むスピードが比較的早く、300ページほどの小説であれば、往復4時間のうちに読み終えられてしまう。 そんなわけで、当時はほぼ1日1冊くらいのペースで本を読んでいた。次々と面白い本に出会い、あれよあれよと読書の世界にハマっていった。 それでも時に、「自分には合わないかも?」と思う本と出会うことがあった。 そういう本に

森見登美彦『四畳半神話大系』の好きな台詞選手権!

先日、高校時代の友人と森見登美彦氏の『四畳半神話大系』の読書会をした。 徹底して硬派で知的な文体、なのに内容はくだらなくて馬鹿馬鹿しい。この絶妙な”ズレ感”が癖になり、すっかり森見ワールドに取り憑かれてしまった。 ということで、勝手に『四畳半神話大系』好きな台詞選手権を開催! このnoteをお読みの皆さんにも、森見ワールドの一端を体感いただきたい。 まずは冒頭の名文から。 森見登美彦作品の魅力のひとつに、「キレッキレの冒頭」が挙げられる。開幕からエンジン全開の森見節

本を持ち、旅に出る。

私は旅に出る時、必ず文庫本を鞄にしのばせる。 読書において、「どんな本を読んだか」は、言うまでもなく大切だ。 加えて、その本を「誰と、どんな時に、どんな場所で読んだか」も、非常に大切な要素だと思う。 本棚に並ぶ背表紙を、ふと眺めているとき。 この本は、学生時代にあの人から勧められて読んだな。 この本は、旅先の小さな書店で偶然出会って読んだな。 そんな、所持する本にまつわる”自分だけのエピソード”を、思い浮かべる時間は幸せだ。 私は、移動時間や待ち時間に、本を読む