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第177話 花束


 リトの小さな心の中には、いつもこんな想いがあった。

「また、僕の知らないところで大人たちだけで勝手に決めて、お母さんは僕を捨てて行っちゃうんだ。みんな僕のことなんてどうだっていいんだ。」

 仕方がないことではあったけど、当時の父も母も、まだ幼く戦争を理解していないリトを蚊帳の外に置くしかなかった。
 だけどそれはリトにとっては、“自分ばかりが除け者にされて、大人たちが結託してよからぬ相談をしているのだ”、“自分とは母に捨てられた要らない子なのだ”と、そんな想いとして植え付けられた。
 だから“私”の根底には、今世再会したけーこに対し、彼女が何をやっていても、どんな選択をしても全部が全部気に入らないという思いがあった。シリウス以来本当の意味で他人を信用したことがなく、その中でも特にけーこは気に入らず、大嫌いで仕方がなかった。
 本当は“嫌える”というそれこそが甘えさせてもらっていた正体なのに、果たして“普通の人のように”他人に甘えるとは一体どういうことかがわからないまま現在まできてしまった。

 この時のカルマがプレアデスやレプティリアンへと続いていくのだが、それはさておき私とは、あの日以来子供らしく無邪気に笑うことをすっかり忘れた魂だった。

「もっと甘えろ。もっと叫べ。」

 いくつかのやり取りののちにけーこにこんな返信をされた。

 そんなことを言われても、どうしたら甘えるってできるんだろう。愛される価値のない要らない自分が甘えるなんて、そんな馬鹿みたいなことできる訳ないのに……。

 理屈でいくら考えてみてもそれは『無理』に近かったけど、それでも午後の間はずっと、そんなことへと思いを馳せた。
 それからお風呂の湯船の中でも“うーんうーん”と唸っていると、たったひとつ、ようやくひとつ、水面に映った光の反射みたいな小さな想いを心の奥に発見した。
 ハッと息を飲む。それを慌てて両手で掬い上げると、そのまま大急ぎでお風呂から出て消えないうちにスマホを開いた。

 あった!あった!私にもあった!!
本当はプライドが許してないけど、今言わなかったら絶対この先も言えなくなるから自分に対して屈辱だけど、これだけはけーこに伝えなきゃ。

「お風呂ダッシュした!けーこに甘えたいこと、ひとつだけあった!
ミトじゃなくてけーこでいいの。リトにひとこと、『愛してる』って送って!」

 天邪鬼が、精一杯の試みをした。お風呂あがりのせいではなく、気恥ずかしさで顔の温度が上がっていた。

「明日まで待って!大丈夫だから待ってて!
それからタケくんからひみに、この歌渡してって。」

 ミュージックビデオの添付と共に、すぐに彼女から返信が届いた。刹那を生きるあの二人から、彼らとは対照的なリトと私のための、そんな歌が流れていた。
 耕し、種を蒔き、芽がでるのを喜び、花を待ち望む小さなリトの姿にぴったりの曲だった。シリウスの田舎の風景が重なった。

「けーこありがと、タケくんもありがと。
もう涙でクタクタだから今日は寝るね。二人が大好き。おやすみなさい。」


 そして翌日。
玄関前にけーこから、二通の手紙と大きな花束が届いていた。手紙の一つは五歳、一つは十七歳宛てのもので、そのどちらにも深い愛情が感じられた。

「……おそらのうえから、リトくんのことみまもってるよ。リトくん。あいしてる。だいすきだよ。ママ。
……えへへー、ママだってー。」

 何度も何度も音読しては、お母さんではなくママという響きにそのたびリトが泣き笑いしている。
 そして、けーこが行きつけの花屋さんにお願いしたという花束には、不思議なことにアレンジにナズナが入っていて、野の草花に囲まれたあの素朴な故郷を私の胸に思い起こさせた。

「受け取ったよ!ありがとう!
花束なのに、“ぺんぺん草”が入ってたからびっくりした。タケくんの贈ってくれた歌ともぴったりで、もうさっきから涙と鼻水が止まらないよ。」

「今こっち、それで揉めてる。
あいつから、『花束渡すなら動画も今日見せれば良かっただろ!』『そんなん知らねーよ!』って喧嘩した。
……ねぇひみ。なんか一緒に事業でもするかい?
なんかふと思った。」


 じんわりと、心にあったかいものが広がっていった。けーこと一緒に何かができる。これからもけーこと一緒にいられる。こんなに嬉しいことはなかった。
 遠いシリウスの土の上にリトが蒔いた花の種が、地球で実を結ぼうとしていた。けーことひみのmeetooが、その誕生の時を待っていた。






written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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まさかこのあと自分が私小説を書くことになるなんて思っていなかったので、けーこに「ナズナがあったよ連絡」のためだけにしか撮ってないブレブレ写真を引っ張り出してくることになるとは笑
本当すいませんね。
二つの花瓶にとりあえず分けて、置物でしかない我が家のテレビ前にひとまず置いたなんともな状態です。
ナズナってとこが、葉っぱがハート型なのが宇宙の計らい!

タケくんからの歌はないしょ♪
けーこによると、そのあとしばらくこの歌のタイミングが原因で、彼らは口をきかないという“夫婦喧嘩”をしてたらしい笑

そして、はいこちら、いつかのアメブロ↓
このシリウスのネタばらしのあとから読んでいただけますと、理由がわかってもらえるというね。

あーちなみにね、
余談だけど、スサナル先生は私の2学年上なんだけど
けーこもタケくんも実は私より年下なんですよ笑

『けーこのツインくんのちょっとした弱点』↓↓



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←今までのお話はこちら

→第178話 愛と憎しみとツインレイ

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