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デザインって何?

皆さんこんにちは。
デザイナーの小野です。

皆さんは、「デザイン」という言葉を聞いて何を思い浮かべますか?

「デザイン」という言葉を聞いて、パッと思い浮かぶのは目を惹きつけるような広告だとか、カッコ良いおしゃれなグラフィックや服とかでしょうか?あるいは、携帯電話などのデバイスや家電、家具、車などのプロダクトのイメージでしょうか?

そういえば、UIデザインやUXデザインっていう言葉もありますね。

ここ最近、デザイン思考とかデザイン経営って言葉もよく聞くけど、わかるようでわからない。。

「デザイン」って言葉はフワッとしていてなんだかわからないなぁって思う方も多いのではないのでしょうか?

そこで、そんな「デザイン」のモヤモヤが少しでもスッキリできるように、「デザイン」の役割や「デザイン」の意味について、簡単ではありますが少し整理しようと思います。

このモヤモヤの背景には、社会の急激な変化の影響による「デザイン」の役割の変化ということが大きいと思います。

特に最近は不確実性の時代とも言われているように、少し先の未来の予測でさえも、昔よりもさらに難しくなっている感じがします。

このような社会の急激な変化に共鳴するかのように「デザイン」の対象としている領域も、急激に変化し「デザイン」の意味が拡張しているという状況が「デザイン」の意味を、さらに分かりにくくしている要因なのかなと思います。

そんな中、個人的にも興味深くて、象徴的な出来事が2つありました。

一つ目は2018年5月に経済産業省・特許庁が『「デザイン経営」宣言』を発表したことです。

下記リンクの各種資料は、とてもわかりやすくまとめられて凄く良いです。
https://www.jpo.go.jp/introduction/soshiki/design_keiei.html
公開当初にダウンロードして拝見したところ、有料になっていてもおかしくないくらいの高品質な各種資料を、無料で提供していてすごい!と興奮したものでした。

二つ目は、先日大きくニュースにもなった、デジタル庁の事務方トップのデジタル監にデザイナーの浅沼尚さんが就任されたこと。ちなみに浅沼さんはデジタル庁立ち上げの時からデザインの専門家としてご尽力されている方です。

ようやく日本の省庁や行政サービスの中にも、ユーザー中心のデザインやサービス、組織づくりが導入されはじめ、今後どのような展開になるのかとてもワクワクしております。
https://www.digital.go.jp/policies/priority-policy-program/

デザインという言葉について

まず始めに「デザイン」という言葉の意味から考えたいなと思います。

語源はラテン語の「Designare(デジナーレ)」から来ていると言われています。

「Designare(デジナーレ)」の意味は「考えや計画を、記号や形にして表すこと」だそうです。なのでこの事から、ただ単に表面を飾り立てたりすることが、デザインの本質では無いという事がわかるかと思います。

言い換えれば、「デザイン」とは人の思考や概念といった「抽象的」なものを、記号とか形といった「具体的」なものに翻訳する行為なのかなと思います。

では、この「デザイン」の起源とはいつ頃なのだろうか?

よくデザイン史などでは、18世紀末から19世紀に起こった産業革命以降からを「デザイン」の起源として取り扱われていたりしております。

確かに、「デザイン」がモダンデザインとして発展、確立され、一般的に浸透していったのは、産業革命あたりの近代以降からですが、しかし「デザイン」という行為自体は、当然既に存在していて、例えば、産業革命よりはるか以前のルネサンス時代やローマ・ギリシア時代にもありましたし、有史以来の人類の営みの中で、ホモ・サピエンス(最近では最古の洞窟壁画はネアンデルタール人が描いたとも!)は洞窟に絵を描いたり、石をカスタマイズして鋭利にしてさらに棒を取り付けつけるというイノベーティブな偉業を行ったりも致しました。

ラスコーの洞窟壁画

つまり体系化された「デザイン」が確立され、一般的に定着したのは産業革命以降ではあるものの、行為自体は人類が生まれてから脈々と受け継がれて来てきた、ということになります。

あと、少し話は逸れますが、このような人間が意図的に生み出した「デザイン」以外にも、自然が生み出した「デザイン」なんてものもありますね。

例えば、私たちは黄金比率のアンモナイトの渦巻模様をみた時や、またはシンメトリーで美しい蝶の羽根模様をみた時にも、なんでこんなに綺麗なの!?遺伝子の中にこのような模様を生み出すプログラムが組み込まれているなんて驚愕!と思うのではないでしょうか?

このような、人間が一切介在しない、自然が生み出したセンス・オブ・ワンダーな現象も、私はある意味デザインだと思っております。

ここまで来ると取り止めが無いのでやめますが、今回は「デザイン」が飛躍的に発展&変化していった産業革命以降の「デザイン」、産業の中での「デザイン」の役割にフォーカスを当て、概要を俯瞰してみてみたいと思います。

時代による「デザイン」の役割の変遷

1.大量生産の時代

18世紀半ばから19世紀に起こった産業革命以降、大量生産により安価で粗悪な製品が世の中に出回る事になりました。

そんな中、19世紀後半にその反動で生まれてきたのが「アーツ・アンド・クラフツ運動」です。詩人・思想家・デザイナーのウィリアム・モリスが主導したデザイン運動で、中世の手仕事の美しさや職人技を重視し、「生活」と「芸術、工芸」の統一を目指しました。

テキスタイル「いちご泥棒」 William Morris

この運動はそれ以降のモダンデザインの源流となりました。

その後、アーツ・アンド・クラフツ運動はヨーロッパ中に派生し、大きな影響を与えました。

19世紀末から20世紀初頭にかけてからは、都市化と産業化を背景に、自然と調和したライフスタイルを目指した「アール・ヌーヴォー」といった芸術運動・様式が生まれました。

この運動はヨーロッパを中心に広まり、家具やファッション、建築、工芸品、グラフィックデザインなどに影響を与え、華やかに発展していきました。

アール・ヌーヴォーは植物を模したものや曲線的な装飾が特徴

「アーツ・アンド・クラフツ運動」から「アール・ヌーヴォー」などといったムーブメントの流れの中で「デザイン」は生活の質を向上することに貢献し、その役割が浸透されていきました。

さらに、「アーツ・アンド・クラフツ運動」の思想を継承した「ドイツ工作連盟」を経て、第一次世界大戦後のドイツでは、美術、工芸、写真、デザイン、建築の総合的な教育をおこなう世界初の「バウハウス」という学校が設立されました。

工芸・写真・デザインなどを含む美術と建築に関する総合的な教育を行った

バウハウスは1919年から1933年までの14年間という短い期間ですが、ナチス台頭による講師陣のアメリカなどへの亡命や卒業生の各地での活動により、そのデザイン思想やメソッドが世界中に拡散される事になりました。

このような潮流のなかで、徐々に「デザイン」の概念が確立されるようになります。

1950年代以降は、バウハウスの機能的、合理主義的なデザイン思想から生まれた「デザイン」は当時の産業とも密接に結びつき、さまざまな建築、プロダクトやグラフィックデザインなどに色濃く反映され、影響を与え続けました。


ところで「CIデザイン」というのをご存知でしょうか?

「CI(コーポレート・アイデンティティ)デザイン」とは、企業や組織の精神、理念、倫理などを簡潔に効果的に表すためにビジュアライズし、社会に向かって発信する手法で、企業のイメージ向上や事業展開をわかりやすく伝える効果があります。

1950年から1980年頃まで、製造工程の高度な発達や通信・交通手段の発達といった社会背景もあり、特にこの時代、多くの企業が世界に向けて大きく成長していきました。そういった状況下で「CIデザイン」は企業戦略として取り込まれ、急激に発展していきました。

その中で、ポール・ランドさんが手がけたIBMのCI(コーポレート・アイデンティティ)システムは象徴的なデザインとして有名ですね。

18世紀半ばの産業革命から20世紀に渡る時代の中で、大量生産で生み出される製品のクオリティは当初は低かったものの、徐々に技術の発展と製品開発、流通の基盤が整備されるようになり、またデザインと結びつき、消費者のニーズに添うような高品質な製品が、次々と世に溢れるようになりました。

20世紀半ば以降、プロダクトが飛躍的に高品質化した

そういった背景で、プロダクトデザインは成熟を極めました。また同時に製品等を宣伝するグラフィックや映像等を使った広告デザインなどが華やいだ時期もこの頃でした。

 19世紀〜20世紀
モダンデザインが確立した時代
グラフィック(サイン、シンボル、印刷)、インダストリアル(プロダクト)の発展、人間工学、ユニバーサルデザイン


2.コンピューターの時代

このように18世紀半ばに起こった産業革命以降「デザイン」は主に産業と結びつき、モダンデザインとして確立・成熟していったわけですが、20世紀中期以降に、また別の文脈から新たな「デザイン」が登場することになります。

それはコンピューターの出現に伴う、情報のデザインやインターフェースのデザインでした。

コンピュータの普及により、情報やインターフェースのデザインが発展した

1950年代後半は、冷戦時代だった背景もあり、アメリカは当時のソビエト連邦に遅れを取るまいと、米国国防省内に作られたARPA(高等研究計画局)が先端技術の促進を目的に多くの研究機関を支援していました。その中の一つにスタンフォード研究所がありました。

その研究所には、後にマウス、ハイパーテキスト、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)などを開発するダグラス・エンゲルバートがいました。

ちなみにGUIが世界で初めて実用化されたのは、1963年に開発されたSAGEというアメリカ空軍の防衛管理システムです。

また、エンゲルバートは1960年代中頃に、UI(ユーザーインターフェース)のアイデアの多くを考案し開発したそうです。

こういったエンゲルバート(またはエンゲルバートのチーム)が開発したコンピューターの技術に影響を受け、コンピューターをさらに飛躍的に発展させた人物がいます。

それがアラン・ケイです。

先ほどのSAGEのように、当時のコンピューターは、今と違って個人で扱うような代物ではなく、高価で巨大なので大きな組織で取り扱うような代物でした。

当時の大型汎用コンピューター

しかしアラン・ケイは、いずれコンピューターは誰でも簡単に扱える「パーソナル・コンピューター」になるだろうと予見致しました。ケイは今でも受け継がれている、パーソナル・コンピューターの様々なアイデアを考えた人です。パーソナル・コンピューターの父とも言われていますね。

彼のアイデアで有名なのはDynabook(ダイナブック)構想です。

このダイナブック構想というのは、彼が考えた理想的なパーソナル・コンピューターのコンセプトのことで、片手サイズでGUI環境を備え、低価格で子供でも扱えるといった、今のノートPCやタブレットみたいなイメージです。

このケイの「ダイナブック」のアイデアを取り入れ、スティーブ・ジョブスはAppleコンピューター初期のオフィス向けパソコンのLisaやMachintoshを開発致しました。

その後のパーソナル・コンピューターの進化(あとネットワークの進化も重要ですね)は、現在の私達の生活の基盤になっているくらい、欠かせないものになっていきました。

こういった一般向けの「パーソナル・コンピューター」といったハードウェアの進化やそれに伴うソフトウェア、ネットワークなどの発展により「デザイン」の領域は、インターフェースや情報設計、インタラクションといった部分にも拡張していきました。

デザインの領域が情報設計、インタラクションといった部分にも拡張

このようにUIデザインや情報デザインといった、インタラクションデザインの進化のなかで「人間中心設計(Human Centered Design)」という考え方も非常に重要な役割を担っていました。

 1980〜
インタラクション(インターフェース、インフォメーション)、人間中心設計、Apple Human Interface Guidelines


3.サービスの時代

20世紀半ば以降は、技術、生産工程、流通網等の進化・発展により、様々な分野で高品質な製品群が、一般的に世の中に出回るようになりました。

当初は製品の高品質化というものが、企業間との競争優位だったのですが、それも次第に一般化(当たり前品質)になり、製品の高品質化だけでは競争に太刀打ちできないような時代になっていきました。

そんな中、1990年代を境に徐々に、「サービス」を軸に競争力の優位に立つという考え方が出てくるようになりました。

これが、サービスデザインという考え方です。

サービスデザインとは、簡単にいうと「サービス」と「ユーザー」とのインタラクションをデザイン(設計)することであり、ユーザーのサービス体験(UX)をデザインすることです。

デザインがサービス体験の設計まで拡張していった

その起源は1980年代のリン・ショスタックによるサービスのマーケティングやマネジメント領域での研究に遡ります。

研究者で元シティバンク銀行の副社長のリン・ショスタックさんは、サービスのプロセスにもプロダクトの合理的な管理手法を導入しサービスを「デザイン」するという考え方を打ち出しました。

その後、リンさんの考え方に触発され、ドイツやイタリアのデザイン教育機関を拠点とし、「サービス」を新たなデザイン領域として捉えようとする動きが現れました。

1990年代後半から2000年代にかけて、サービスデザインの教育研究の流れは、イギリス、北欧、アメリカにも次第に展開していきます。

それと同時に、Livework社やIDEO社といったデザイン関連の企業が「サービスデザイン」に特化したプログラムを企業等に提供し始め、徐々に拡がっていきました。

サービスデザインは、ユーザー中心のアプローチを通じて、サービスの質を向上させるプロセスです。また、従来ならばエンドユーザーのみサービスの対象を置いていましたが、サービス提供者など全てのステークホルダーも含めた包括的なユーザー体験の設計を重視しています。

このように、「モノ」から「サービス」へ、デザインの対象が変化した時代でもありました。

製品を通してどのようなサービスを提供できるかを、様々な視点で共創的に考え、より魅力的なサービスを「持続的」に提供することによりプロダクトの価値を高め、それが競争優位性を生み出すようになっていきました。

よりユーザー中心のアプローチがサービス設計に求められている

またこの頃、サービスを「デザイン」する上で、欠かせない思考法を、先ほどの「IDEO」のティム・ブラウンさんが定義しフレームワーク化を致しました。

それは「デザイン思考」という考え方です。

ちなみに「デザイン思考」は(デザイナーではなく)主にビジネスサイドの方々が、ビジネス上の問題を解決するための考え方です。

「デザイン思考」を簡単にご説明すると、デザイナーが普段行っている制作アプローチ(ユーザー視点、多様な発想→統合、視覚化)をビジネスに応用したフレームワークになります。

この頃を境に「デザイン」の概念はさらに拡張し、デザイナーの手を離れ、全ての人々が利用できるツールになっていきました。

 2000〜
サービスデザイン(体験のデザイン)


4.システムの時代

このように2000年くらいになると、ビジネスの世界でも、プロダクトといった「モノ」中心の考えから、顧客中心のサービス設計のような「コト」中心の考えが、ビジネスを展開する上で、非常に重要な要素になっていきました。

さらに、時代の潮流は変わり続けます。

この時代を象徴するキーワードとしては「VUCA」という言葉があると思います。

「VUCA」は、2010年代ころから徐々にビジネスシーンの中でも浸透されるようになっていった言葉で、皆さんも一度は耳にした事があるのではないでしょうか?

ちなみに「VUCA(ブーカ)」とは元軍事用語で、
社会状況やそれを形成するビジネス、市場、組織、個人などあらゆる環境が変化し、「将来の予測が困難になっている状況」を意味している言葉です。

Volatility:変動性
Uncertainty:不確実性
Complexity:複雑性
Ambiguity:曖昧性

このような不安定で不確実性の時代の中で、現在私たちは生きております。

また、ここ最近はDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉も(念仏のように。。)よく聞きますね。

世の中がデジタル化へ変革するという「DX」という言葉も、ここ最近耳にする時代を象徴するキーワードかなと思います。

特に政府や企業などの組織は、今までのやり方では近い将来デジタル化になった時に対応できないのでは。。。という不安と共に、早急にデジタル主体の新しい仕組みや、組織作り、サービスを構築する必要に迫られております。

領域を超えて、誰もがデザインする時代に

しかし、不確実性の時代と言われるだけあり、何をどう考えるのか。。どうすれば良いのかわかりません。また、現在は益々深刻になっていく環境問題などもあり、今までのようにただサービスを作れば良いわけではなく、巨視的な視点で持続可能なプロダクトやサービスを考えなくてはいけません。

そういった複雑で予測不可能な世界の中で、多くの組織は「デザイン思考」や「デザイン経営」といったデザイン的手法を組織にインストールし、新しい体制作りに役立てようとする流れが出てきております。

はじめの方で、少しご紹介した、デジタル庁のデジタル監に浅沼さんが就任されたニュースは、そういった今の時代を象徴するような出来事だと思います。

2010〜
システム(コミュニティ、組織、ビジネス、政府、教育)のデザイン

まとめ

ここまで、ざっと簡単ではありますが、「デザイン」の役割の変遷をみてきました。

かなり簡略化してまとめたのですが、やはり「デザイン」の歴史と変遷が多岐に渡るため、長々となってしまいますね。

産業革命後は意匠的な要素が多かった「デザイン」ですが、時代背景によってその意味や役割が徐々に変化し、拡張していったのがわかったかと思います。

時代によってデザインの役割が変化し拡張していった

「デザイン」は、その対象を「モノ」から「コト」に変化し、さらにデザイナーの手からも離れ、非デザイナーの方々でも扱えるツールへと変化しつつあります。

これから「デザイン」は、より一層、デザイナーも非デザイナーも含め、さまざまなバックグラウンドの人々と共に、共創的にサービスや仕組み、組織作り、課題解決などに役立てられるイノベーティブな道具になると良いな思います。

Design for Peopleの時代からDesign By Peopleの時代へ


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