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Made For Advertising : 広告収入のためだけに作られたサイトの定義策定への働きが米国で

ほとんどのメディアというのは、『暮しの手帖』などの一部メディアを除いては、(純)コンテンツと広告との共生関係にある。このことは紛れもない事実であり、メディアの歴史もそのように進んできている。

もともとメディア事業というのは多大な設備投資が必要なものであった。紙媒体であれば印刷や配送に関するコストがかかり、放送媒体でであれば送信設備などにコストがかかる。そのため、メディアを始めるというのは設備産業そのものだったのである。

しかしながらインターネットの世界に関しては、メディア運営のコストは大幅に低下する。

印刷や配信・送信のための設備は不要だし、それらに匹敵するサーバーやCMSといったもののコストは、従来媒体のコストに比べればかわいいものだ。

そして、従来のマス四媒体においては、人的な営業による広告販売がその収入のほとんどを占めていたのに対し、(初期はそれらと同様だったけれども)インターネットの世界ではアドネットワークだのプログラマティックだのといった、“営業不要”の広告ビジネスモデルができあがった。

こうした、

  • メディア運営における設備投資が安価

  • 収入を人的な営業に頼る必要がない

といった、参入障壁の低さから、昨今のステマ規制で話題になるようになったアフィリエイトのために作られたサイトや、MFA: Made for Advertising と呼ばれる、広告収益を得るためだけに作られたサイトといったものが、ネットの世界には大量に生まれた。

また生成AIの誕生・普及といったものが、メディア運営における最後の参入障壁であった「コンテンツ制作」においても、その敷居を下げようとしている。

ある意味、もうロマン主義的な話にはなってしまうが、広告というのは、人々に適切な情報を適切に届けるために、メディア運営を支援するためのものとも考えられる。私が昔在籍していたネイティブ広告/SSP企業である Sharethrough においては、"Ad Fund"といった言葉が使われ、広告によってメディア運営をファンドする(=運営資金を生み出す)といった考え方があり、それゆえに広告を死なせてはいけないという全社的な認識があった。

しかしながら、デジタル広告の世界はもうスモーキーマウンテンのようになってしまい、ユーザーに嫌われる世界になってしまった。

また、広告主からはブランドセーフティやアドフラウドといった問題を突きつけられ続けている。

インターネット広告費は右肩あがりと報道されるが、一方でその仕組みは壊れているのである。いや、壊れているからこそ、右肩上がりなのだろう。

さてそうした中で。日本ではステマ規制が始まり、

米国では MFA: Made For Advertising なサイトについての規制の議論がスタートしそうである。

上記の記事についての詳細は、日本のDIGIDAY編集部が早々に翻訳記事を公開してくれると思うので、重要部分だけ抜粋して説明したい(※DIGIDAYさん、この記事は無料公開が望ましいとおもいます)。

さて上記の記事から引用したいのは以下の2つ。まず1つ目。

MFAとは何か?の特徴について以下のように示している。

1. A high ad-to-content ratio of 30% or higher on desktop

2. Rapidly auto-refreshing ad placements, including many banner ads, autoplay videos and slideshows that force users to click through multiple pages to access content, which have multiple ads

3. High percentage of paid traffic sourcing

4. Generic content that is syndicated across many sites, is out-of-date and is templated or non-editorial in nature

5. The website itself is poorly designed or uses a template

日本語に訳すと以下の通り。

1. デスクトップにおいて表示されるもののうち、30%以上が広告である。

2. 自動的にリフレッシュされる広告枠がある。例えば、数多くのバナー広告、Auto-Play動画、スライドショー(カルーセル広告?)へのクリックを促し、広告が多数表示される複数のページに誘導する。

3. 有料トラフィック誘導が多い
※解説:MFAや悪質アフィリエイトサイトの多くは、ページでの広告収入の何割かを他の広告媒体への広告費として投資し、収入と支払う広告費の差額を収益としている。これを“アービトラージ”という。

4. 多くのサイトにシンジケートされ生成されたコンテンツで構成され、古く、テンプレート化された、本質的に編集されたコンテンツではないもので構成されている
※解説:シンジケートというのは他のサイトと連携しているという意味。SEO的な効果もあり、こうしたサイトではタケノコやイチゴの根のように生成したサイト間を繋いで、トラフィックを共有している。そのためページレイアウトなどはテンプレート化されており、コンテンツもどこかから奪ってきたようなコンテンツで構成されている

5. サイトのデザインが貧弱。テンプレートを活用したサイト。

こうしたサイトの存在は、一見するとユーザーや広告主にとって、なんの害もないように考えられるのだが、今度は次の引用をあげておきたい。

4A's (the American Association of Advertising Agencies) の media, technology and data部門 の EVP である Ashwini Karandikar の言葉。

“The hope is that we work with the supply side to create guidance around what good media looks like, because the truth is that the advertiser and agencies need good supply and ethical journalism. This is a symbiotic relationship.”

私たちはサプライ側と協力して、良いメディアとはどのようなものかという指針を作ることを望んでいる。というのも、広告主や広告代理店は、良質なサプライと倫理的なジャーナリズムを必要としているからです。これは共生関係なのです

つまりこの問題というのは、「儲かるからといって、質の低いコンテンツを提供し続けることを許して良いのか?」、「そうしたメディアに広告を出すことは、広告主や代理店の倫理として良いのか?」という倫理、しかも社会と接合している問題としてとらえられている。

こうした米国での MFA に対する動きというのは、おそらくはだが、次の大統領選に向けて加速しているとも考えられる。このあたりの規制を行っておかなければ、フェイクニュースに広告収入を与えてしまうことになるからだ。

さて、日本においてはこの動きはどうなることだろう?

ステマ規制などもそうだが、日本においては広告業界の業界団体が動いても問題が解決しないということが長年続いてしまっている。業界の自浄作用は期待できない。そもそも業界団体に属していない輩がいろいろやらかしているのであるから、ガイドラインを作っても効果を発揮しない(いや業界団体所属企業のすべてが全くシロとも言えないが)。

なので、MFAがステマ規制の延長線上で(景表法の延長線上で?)規制されるときが来るのは遠い先かもしれない。

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