体験小説「チロル会音楽部 ~ ロック青春記」第3話*チロル会演劇部★ドッキリ企画爆笑編(^^)!
僕らがテープレコーダーに録音したのは、演奏だけではなかった。チロル会には、なんと「演劇部」なるものまで存在していた。我がチロル会は、実に幅広い活動をしていたのである(笑)
演劇といっても、それは音声だけのラジオドラマ。効果音や回転スピードの変化を使って、コミカルなショートドラマを録音していた。ストーリーはその場でディスカッションし、適当に決めていった。
そうして録音したものの中で、真っ先に思い出すのが、ディズニー・アニメに登場するキャラクター、チップとデールが登場する場面。
普通に喋ったものを4倍速で再生すると、まったくチップとデールそのものの声になり、早口過ぎて何を喋っているかも分からなくなる。
ストーリーの展開上、そのチップとデールの笑い声が必要になった。だが、素人なので、マイクを前にして自在に笑うという芸当が、なかなかできない。
では、どうしたら笑えるか・・・。
「どうせ何を喋っているか分からんのだろう?」
「そう、絶対にわからないよ」
「じゃあ、好きなことしゃべろうぜ」
「〇〇のバカが」(〇〇の中には、器楽部を指導していた先生の苗字が入っていた。)
「わはははははは! おいおい、あはは、しかし大丈夫か? あはは」
「絶対に分からんって」
「いつもわけのわからんことばっかし言いやがって、あの〇〇は!」
「○○ケシメ!」(※「けしめ」は、鹿児島弁で「死ね」という意味)
「はよ、ケシメ! あはははは!」
「あははははは!」
腹筋崩壊した中坊たち、止め処ない爆笑の嵐。
実際、腹の底から笑っている声を録音するには、こんなセリフが最も有効だった。部活でハーモニカ人生を強いられている鬱憤を、こんなしょうもない形で爆発させる平和な小僧たちであった。
録音終了後、速度を上げて聴いてみると、実際、何を喋っているのか全くわからない。その出来には大いに満足。120点!
チロル会演劇部員は、そのシナリオの続編を、自分たちだけの閉鎖的な世界のに留めておくことが出来なくて、リアル空間の中に描くことにした。
その内容とは・・・、
できあがった演劇のテープを学校に持って行き、チップとデールの高速会話の中で高笑いの対象にした当の本人に聞かせるというもの。
自分がバカにされているのも知らずに大喜びする姿を、その後、物笑いのタネにする、というところまでで完結。
これは、中坊たちにとっては、魅惑のストーリーだった。
** ** **
翌日。
全員、朝からわくわくしながら、その時を待っていた。
授業が終わると、皆踊るような足取りで音楽準備室に集まった。
そして、いよいよ音楽の先生が姿を現し、待ちに待ったその時がやってきた。
生徒たちは、逸る気持ちを抑えつつ、皆の「中年アイドル」をテープレコーダーの前に連れてきて、
再生スタート!
そして、いよいよチップとデールの登場!
「ほう、本当にディズニーの漫画みたいだなぁ」
― 面白がって聴いてるぞ! ―
小僧たちは、必死に笑いをこらえている。
異変が起きたのはその直後だった。
「これは、何と言っているんだ? ちょっと回転を落としてみろ」
ー ドキッ☆★ ―
一瞬、息を呑むチロル会の面々。
「あ、いえ・・・、つまらないことしか言ってないので・・・、聴いてもしょうがないですよ」
何かを隠している空気は見え見えである。
興味津々といった面持ちで、自らテープレコーダーに手を伸ばす音楽教師。テープを戻し、そして通常の回転速度に設定した。
静まり返った音楽準備室に、
スイッチ音だけが、
無常に響く・・・
カチャ☆
テープレコーダーからは、声の主の顔をはっきりと浮かび上がらせながら、身も蓋もないセリフと下品な笑い声が、リアルに再生され始めた。
― お・・・、おい、頼むから止まってくれ!
時すでに遅し。後の祭りである。
本人を前にして、バカだの死ねだの罵詈雑言の乱れ撃ち。腹をよじって馬鹿笑いしている声が、部屋中に響き渡る。
身じろぎ一つしない生徒たち・・・
動きを失ったのは、生徒だけではなかった。
音楽教師もまた、それまでの笑顔が失せ、回転するオープンリールを神妙な顔付きで見つめ、じっと耳を傾けていた。
チップとデールのセリフが終了。
沈黙・・・。
彼は、ゆっくりとスイッチに手を伸ばし、テープを止めた。
恐る恐る顔を覗き込む小僧たち。
「・・・・・・」
「ふふん」
眼鏡の奥で、ニヤリと薄笑いを浮かべる音楽教師。
くるりと踵を返し、スタスタと出入り口に向かい、無言のまま足音だけを響かせて遠ざかっていった。
「おい・・・、どうする?」
「どうするって・・・」
「この後、部活でどんな顔をして会ったらいいんだ??」
「わからん」
** ** **
その後、両者の関係に、どのような変化があったかは覚えていない。
生徒側の捉え方としては、常時敵対関係にあったような印象だったが、今こうして振り返ってみると、なかなかどうして、じつにチャーミングな関係を築いていたようにも思えてくる(笑)
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