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「チック・コリアを初めて知ったとき ~ 青春回想」

 その時僕は、高校1年生だった。ロックを演奏していたバンド仲間の中の1人でドラムを叩いていたN君宅を訪ねた時だった。

 「チック・コリア知らないの? ピアノを弾くんでしょう?」

 生意気盛り真っ只中にある若者特有の、容赦の無い表情を浮かべてそう言われたとき、悔しさと共に、その名前が頭の中にこびり着いてしまった。その悔しさが起爆剤となり、レコード・ショップで探し出し、早速購入。その単純すぎるほどの若いエネルギーがなんとも懐かしい。

 アルバム・タイトルは、“Now He Sings, Now He Sobs”。ベースに ミロスラフ・ヴィトウス、ドラムに ロイ・ヘインズを起用したピアノ・トリオでの演奏が聴ける。
 1968年3月の録音なので、それからわずか3年余りが経過したばかりの頃だ。僕自身、まだ音楽経験が浅く、キース・エマーソンの新グループ、エマーソン、レイク&パーマーのクラシック近代に影響を受けた鋭角的な響きに惹かれていた頃で、ジャズも現代音楽も良くは知らなかったが、先鋭的な音楽に対する憧れは相当強かった。今思えば、早過ぎずも遅過ぎもしないという絶妙なタイミングでこのアルバムと出会ったと思う。
 1曲目の“Steps-What Was”が聴こえてきた途端、その新鮮な響きにショックを受けた。才能を感じたし、その響きやタッチの鋭さが実にカッコいいと思った。
 イントロは、あまりジャズらしくない。響きだけを聞くと、バルトークやプロコフィエフのピアノ曲をリズム的に崩した感じとでも言えそうな、その不協和な響きが良かった。そこにベースとドラムスが加わり、アップテンポの4ビートに移行する所などは鳥肌モノだ。
 その後繰り広げられる確かなテクニックによるインプロヴィゼーションもあまりジャズ臭くなく、硬質かつ無機質で、淀みなく流れ出るフレーズがこの上もなくスマートでカッコ良かった。今聴くと、所々に、コードを機械的に上下するような手癖的フレーズが現れるなど、ほんの僅かにのめり込めなくなる瞬間が無くもないが (などと言いつつも、こんな風に自分が弾けたら、どれだけ気分が良いだろう)・・・。

 今ではすでに故人となってしまったが、彼が発表した全アルバムの中で、このアルバムが最高という声も多い。そんなレビューに出会うたびに嬉しくなる。僕も全く同感であり、今まで聴いた全てのジャズ・アルバムの中でも特別な1枚だ。

 このアルバムの中では、“Matrix”の人気が高く、アルバム・タイトル同名曲も、メロディーの美しさでは1番で、この曲が最も好きだという人も多いが、僕にとっては、今でも1曲目の“Steps-What Was”が特別な1曲で、聴こえて来た瞬間にゾクゾクするし、全体に漲るスピード感に快感を覚える。

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