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車内食

前職では企画系の仕事をしていたのだけど、転職した会社で今は営業をしている。まずは商品のことを理解した方がいいからということだったが、正直私は職種にあんまりこだわりがない。人事がなんでも好きにしてくれたらいいよと思っている(ただし残業少なくて休みがとりやすくてまわりがいい人ならな!)。

そういうことで今日も今日とて社用車で営業活動に出かけていた。午後のはじめに行く訪問先がなんともへんぴなところで、まわりに飲食店が全くなかった。ここのみなさんはランチどうしてるんですかと聞きたくなったが、私はお弁当の営業ではないし、まず心配すべきは自分の昼食のことであった。しまった先に近くまで来てしまった……!営業として最も大切なランチの確保を怠るとはあるまじきミスである。

Google mapを見てみると、近くにスーパーがポツンと1軒だけあるのを見つけた。ここでパンでも買って食べるしかない。スーパーに入ってパンを探していると、まずお弁当のコーナーが目に入った。なるほど意外とお弁当もいろいろ種類あるな……と思って眺めていたら、気がついたら私はカレーをレジに持って行っていた。

「なぜカレーなの?」とどこからか声が聞こえてくる。「あなたはなぜロミオなの?」と似たような問いだ。ロミオとちがうのは「なぜあなたはいかにもこぼしそうなカレーを選ぶの?ここはイートインもない。外は雨。社用車で食べるなら匂いもつきそうなのに……」もしくは「なぜカレーを見つめる目がそんなに嬉しそうなの」の意味が質問に含まれているところだろう。

やれやれ。質問の間に村上春樹の主人公ならパスタ3束は茹でとるわ。あなたは将棋の棋士が対局中によくカレーを頼むのはなぜかご存知か。私は知らん。なんかそれっぽい理由をつけたかったがまあ食べたかったから選んでしまったのだ。無性に食べたくさせる魔力がカレーには、ある。

電子レンジであたためて(そういえばイートインはないのに電子レンジはあった)、まわりからの「まさかコイツ車内でカレーを…勇者か…?」という目線に胸を張って応えながら(姿勢を良くしないとこぼすから)車内に運ぶ。

そうっと蓋を開けて一口。ふむ、うまい。むしろカレーにハズレなどそもそもないのだ。チキンカレーを選んだのだが、野菜の具は玉ねぎだけでチキンだけしこたま入っているのがまた良い。そこに野菜とかバランスはいらない。チキンだけを噛み締めて生きていきたい時ってあるもんな。すくっても、すくってもチキンというのが潔い。

どんな人が好き?と聞かれた時、大人になると嫌われない答えってあるじゃないか。「好きになった人がタイプかな」とか「優しい人がいいですね、大事なのって内面だし外見はすぐ衰えちゃうから……」とか。あれですぐ「美人!」って言い切れる人、潔いよな。「お金持ち!」とかさ。チキンカレーに野菜あまり入れないで、チキンドバッと入れるのはそういう潔さに近いな。

うむ。とてもおいしかった。カレーは飲み物と誰かが言うならば、カレーは甘酒に代わる飲む点滴といってもいいだろう。私は午後の仕事に向けみなぎるパワーでネクタイをするするっと外し、今日からクールビズのスタートとした。ネクタイつけてるとほら、もう暑いからな。洗濯物もよく乾きそうだしな。

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