清 繭子/小説家になりたい人(自笑)日記

きよしまゆこ/小説家になりたい人  四十を過ぎて小説家を目指す、己を笑うしかない日々の…

清 繭子/小説家になりたい人(自笑)日記

きよしまゆこ/小説家になりたい人  四十を過ぎて小説家を目指す、己を笑うしかない日々の記録。web「好書好日」にて新人賞受賞者へのインタビュー「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」連載中。出版社で雑誌・まんが編集を経て独立。「深大寺恋物語大賞」審査員特別賞受賞。

マガジン

  • ひとひら小説

    これまでのひとひら小説をまとめました。400字から1000字の掌編です。

  • 刺繍詩集

    清 綿子(きよしわたこ)として、刺繍で詩を描いてたときの作品集です。 「ことばを持って歩く」をコンセプトに、ことばと、そのことばの持つ情景をハンカチに刺繍した「ことばハンカチ」を作っていました。毎年個展をし、装苑で「新しい詩集作家」として取材されたことも。またいつか、詩の続きを描きたいな。

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固定された記事

「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」

「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」と言われたのだった。 あまりの衝撃で唖然としてしまった。ひとまず、公平にするためには文脈もあわせて伝えるべきだろう。 そ…

エッセイストになるまで【6】有名人のお友だち枠

17年ほどマスコミにいたので、私にはいわゆる有名人の知り合いがちらほらいる。 でも、すごいのはその人なのに、自分はその人とただ偶然、知り合ったに過ぎないのに、その…

ハッピバースデートゥーミー

17歳の頃は、38歳のことをおばさんとは思っていなかったけれど、42歳のことはおばさんだと思っていた。 今日、その42歳になった。 友だちに教えてもらった剥がせるジェル…

エッセイストになるまで【5】 40歳が怖くなくなった私たちは

40歳の誕生日直前に会社を辞め、40歳の誕生日に「文筆業」として開業届を出した。 Z世代と呼ばれる人たちが新人賞を次々とっていくのをみると、こちらの世代の書くものに…

エッセイストになるまで【4】売れるタイトルか似合うタイトルか、それが問題だ

初稿に取り掛かる前に、エッセイ本のタイトル案をいくつか考えることになった。タイトルのニュアンスによって、エッセイの方向性も固まる。まだ仮とはいえ、大事な作業だ。…

「望まれて生まれてきたあなたへ」やまもとりえ

3時間目まで仲良くしていた友達に、4時間目が終わり、昼休みになってから、無視されたことがある。何を話しかけてもそっぽを向かれ、いないものとして扱われた。 無視はし…

エッセイストになるまで【3】ボツになった原稿「ルック・アット・ミー」

「人は誰でも誰かに見ていてほしいと願っているのよ。私もだから絵を描き、人形を作るの。私の作品は私の代わりに叫んでいるの。ねぇ、私を見て!って」  祖母はいつもそ…

エッセイストになるまで【2】初稿を提出したら「五月蝿い」って言われた(もめてません)

ただnoteを縦書きにしただけではエッセイにならない(当たり前)ということに気づいた私は、色んなエッセイを読んで勉強することにした(当たり前)。 まずはタイトルを知…

エッセイストになるまで【1】 ~noteの記事をただ縦書きにしてみたら

担当Kさんとどんなエッセイ集にするか打ち合わせをしたところ、 「あの『小説家になりたい人(自笑)日記』が面白い。あれをベースに色々書きおろしも加えて書いてください…

九段理江さん外伝「小説家には99.9%の人がなれない」

連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」は今回も特別版。「小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。」と題して『東京都同情塔』で芥川賞…

小説家になりたい人が、エッセイストになるまで

このたび、エッセイストとしてデビューすることになりました。 あれ? あれれ? 小説家になりたい人を自称し、小説家になった人にインタビューする連載をしてきたわたくし…

【特別公開】第六回深大寺恋物語 審査員特別賞「象のささくれ」

連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」の特別編として、深大寺恋物語で選考委員を務める井上荒野さんにお話を伺いました。 こちらを記念し、今回、特別に…

子どもが子どものままでいられる世界を

大学時代、学童保育のバイトをしていた。 毎日、可愛い子どもと駆け回り、一緒にお絵描きをし、おやつを食べ、本気でオセロをするという夢みたいなバイトだった。 そのな…

ドキュメント二次通過、そして…

R18文学賞が二次通過した。はじめての二次通過だ。 その時私はなぜかスーパー銭湯に来ていた。超リラックスした状態で岩盤浴に寝転びながらXを眺めていたら、R18関…

ことばと新人賞・池谷和浩さんに聞いた、二次選考通過後の正しい過ごし方

連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」第九回は、ことばと新人賞を「フルトラッキング・プリンセサイザ」で受賞した池谷和浩さんにお話を聞きました。 記…

「俺はまだ本気出してないだけ」 才能も根性もないまま夢を見る

40歳で会社を辞めて、小説家を目指した。 人には照れ隠しで「へへ、何やってんだって感じだよね~」ということはあったけど、心の中では「えらい!よくやった私!」って思…

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「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」

「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」と言われたのだった。 あまりの衝撃で唖然としてしまった。ひとまず、公平にするためには文脈もあわせて伝えるべきだろう。 その人は「新人賞を獲るような小説は今は書けないのかもしれないね。別のやり方で小説を書くしかないのかもね」と付け加えた。 理由は、「子どもという大事なものがすでにあるから、(小説と子どもという)二つのものを同時に極めるのは難しい」というようなことを言った。 「今じゃないのかもしれないね」気の毒そうに少し愉快そうにそ

エッセイストになるまで【6】有名人のお友だち枠

17年ほどマスコミにいたので、私にはいわゆる有名人の知り合いがちらほらいる。 でも、すごいのはその人なのに、自分はその人とただ偶然、知り合ったに過ぎないのに、その人と遊んだりその人によくしてもらったことを、ベラベラと人に話し、「えーすごいね」と言ってもらうのは超絶ダサいこと。それに、そういうことをしていると、その人との信頼関係が濁る気がする。 エッセイを書くにあたり、そこに悩んだ。 だって本当は、自慢したいっ! 森三中の大島美幸さんがカメラの回っていないところでもどん

ハッピバースデートゥーミー

17歳の頃は、38歳のことをおばさんとは思っていなかったけれど、42歳のことはおばさんだと思っていた。 今日、その42歳になった。 友だちに教えてもらった剥がせるジェルネイルを試して、ウキウキで写真を撮る。爪はつやつやになったのに、指がどう撮ってもしわしわでしょんぼりとする。 このあいだは朝起きたら上の子どもが、「ママのあしのうらはどうしてしわしわなの」と興味深そうに自分のと見比べていた。君のはぷりぷりのぱつんぱつんだもんねえ。その日から、一応クリームを塗るようにしたけ

エッセイストになるまで【5】 40歳が怖くなくなった私たちは

40歳の誕生日直前に会社を辞め、40歳の誕生日に「文筆業」として開業届を出した。 Z世代と呼ばれる人たちが新人賞を次々とっていくのをみると、こちらの世代の書くものに需要などないのだろうか、と落ち込む。Z世代の書くものは、到底真似できない。というか、もし真似をしてしまったら、それはものすごくダサいものになるだろう。 この「年齢」というものも、私のエッセイの鍵となるだろうか――。 そう考えていたら、雨宮まみさんの『40歳がくる!』というエッセイ集と出会った。 6つ年上の彼女

エッセイストになるまで【4】売れるタイトルか似合うタイトルか、それが問題だ

初稿に取り掛かる前に、エッセイ本のタイトル案をいくつか考えることになった。タイトルのニュアンスによって、エッセイの方向性も固まる。まだ仮とはいえ、大事な作業だ。 編集者時代も、本のタイトルを考えるのは好きだった。小説のタイトル付けもわりと上手い方なんじゃないかと思う。(井上荒野さんに褒められたこと、あるし!) だから今回も張り切って考えた。 それをKさんと書評家の藤田香織さん、ライターの菊池良さんとの会食の場で見てもらえることになった。 案1「宇多田ヒカルじゃないほう人

「望まれて生まれてきたあなたへ」やまもとりえ

3時間目まで仲良くしていた友達に、4時間目が終わり、昼休みになってから、無視されたことがある。何を話しかけてもそっぽを向かれ、いないものとして扱われた。 無視はしばらく続き、私はお弁当を一緒に食べる子がいなくなって、それを他のクラスメイトに知られたくなくて、お昼休みは亡霊のように学校を漂った。 何がきっかけだったか、その子は謝ってくれ、無視は解消された。でも信頼関係が戻ることはなかった。今、帰省するたび会うのは、その子ではなく、そのとき、臨時のお弁当仲間になってくれた別の

エッセイストになるまで【3】ボツになった原稿「ルック・アット・ミー」

「人は誰でも誰かに見ていてほしいと願っているのよ。私もだから絵を描き、人形を作るの。私の作品は私の代わりに叫んでいるの。ねぇ、私を見て!って」  祖母はいつもそう言っていました。  訃報をこのような場で伝えるのは、何も知らない人たちに悲しい気持ちを押し付けることになる。  とんでもない傲慢だとわかってはいますが、祖母は私の自慢の祖母で、祖母の作品展「ルックアットミー」展をプロデュースしたほどです。今すこし、祖母の願いつづけたルックアットミーを叶えてあげたい。少しの間、祖母の

エッセイストになるまで【2】初稿を提出したら「五月蝿い」って言われた(もめてません)

ただnoteを縦書きにしただけではエッセイにならない(当たり前)ということに気づいた私は、色んなエッセイを読んで勉強することにした(当たり前)。 まずはタイトルを知っているエッセイ本を読んでみた。 「負け犬の遠吠え」酒井順子 「私たちがプロポーズされないのには101の理由があってだな」ジェーン・スー 「もものかんづめ」さくらももこ 「父の詫び状」向田邦子 「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」岸田奈美 などなど。 もともとnoteを始めるにあたって、一番参

エッセイストになるまで【1】 ~noteの記事をただ縦書きにしてみたら

担当Kさんとどんなエッセイ集にするか打ち合わせをしたところ、 「あの『小説家になりたい人(自笑)日記』が面白い。あれをベースに色々書きおろしも加えて書いてください」とのこと。 「清さんのは、夢を叶える一代記というわけでもなく、自己啓発というわけでもなく、『ファミレスの景品の食器と小説』みたいに、地に足がついたまま、でも何者かになりたいんだっていうのが新しい。ほんとはみんな、なにかしらになりたいのだけれど、それをこんなふうに正直に出せるひとはいなかった」 Kさんの言葉はとて

九段理江さん外伝「小説家には99.9%の人がなれない」

連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」は今回も特別版。「小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。」と題して『東京都同情塔』で芥川賞を受賞した九段理江さんに取材しました。 じつは記事にしたのは、常人でも(まだ)共感できる部分。九段さんのミステリアスな微笑みの中で語られた言葉には、「AI使用率5%」のような物議を醸しそうな発言も。でも、あのおっとりとした口調で言われると、「ああ、たしかにそうかもしれない」と不思議と納得してしまうのです。 声や口調

小説家になりたい人が、エッセイストになるまで

このたび、エッセイストとしてデビューすることになりました。 あれ? あれれ? 小説家になりたい人を自称し、小説家になった人にインタビューする連載をしてきたわたくし。 連載中もせっせと小説を書いては文学賞に応募し、最終的に連載で「小説家になった人になったよ!」と言いたかったのですが、そんなに文学道は甘くなく……。 と、そうこうしていたら、「エッセイ集を出しませんか?」というお誘いが……!  しかもなんと、 なんと…… あの幻冬舎さんから! さらに声を掛けてくださった方が

【特別公開】第六回深大寺恋物語 審査員特別賞「象のささくれ」

連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」の特別編として、深大寺恋物語で選考委員を務める井上荒野さんにお話を伺いました。 こちらを記念し、今回、特別に不肖・私めの受賞作「象のささくれ」転載のご許可を事務局様よりいただきました。 あくまで2010年時点での水準ですが、「ふーん、これで審査員特別賞か」「10枚だとこれくらいか」「これなら私の方が巧いわい」などなど目安や奮起の材料になれば幸いです。あらためて書き起こしてみると、たいへんこっぱずかしいのですが、14年前の作品

子どもが子どものままでいられる世界を

大学時代、学童保育のバイトをしていた。 毎日、可愛い子どもと駆け回り、一緒にお絵描きをし、おやつを食べ、本気でオセロをするという夢みたいなバイトだった。 そのなかに、ちょっと乱暴者の男の子がいた。 小ぶりのジャイアンといった感じで、誰かを叩いたり、癇癪を起して暴れたり、悪口でほかの子を泣かせたりした。 だから、周りの子もその男の子が遊びの輪に入るのをちょっと嫌がるようになった。その子は妹が生まれたばかりだった。だから、赤ちゃん返りもあったんだと思う。 こんなに小さなうちか

ドキュメント二次通過、そして…

R18文学賞が二次通過した。はじめての二次通過だ。 その時私はなぜかスーパー銭湯に来ていた。超リラックスした状態で岩盤浴に寝転びながらXを眺めていたら、R18関連のツイートがちらほら流れてきて、「これは二次の発表あったな……」と思ったもののしばし結果を見に行くのを躊躇してしまった。 せっかく休みを取ってスーパー銭湯にきたというのに、もし結果がダメだったら? そのあとの岩盤浴、そのあとの炭酸泉、そのあとのサウナ、そのあとのオロポ、全部全部心ここにあらずになる。MOTTAINA

ことばと新人賞・池谷和浩さんに聞いた、二次選考通過後の正しい過ごし方

連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」第九回は、ことばと新人賞を「フルトラッキング・プリンセサイザ」で受賞した池谷和浩さんにお話を聞きました。 記事にも書いた通り、池谷さんは連載第一回から私のXをフォローしてくださった方。「池谷和浩」というフルネームのアカウント名は印象的で信頼感があり、いつも「いいね」をしてくださるので、心強く思っていました。 じつは、第一回・市川沙央さんのとき、市川さんが千葉雅也さんの小説に影響を受けたくだりを池谷さんが引用リツイートして

「俺はまだ本気出してないだけ」 才能も根性もないまま夢を見る

40歳で会社を辞めて、小説家を目指した。 人には照れ隠しで「へへ、何やってんだって感じだよね~」ということはあったけど、心の中では「えらい!よくやった私!」って思ってた。 今も小説家になれてないけど、 根拠もなく自己肯定感が高いまま、夢を目指せているのは このマンガと出会えたからだと思う。 「俺はまだ本気出してないだけ」/青野春秋 私の大事なバイブルだ。 バツイチ子持ちの大黒シズオは40歳で会社を辞めて、漫画家を目指す。 たまたま一作目で努力賞をもらったのが運の尽き。