徹底したパタゴニアのBeingとDoingの一貫性がブランドを作り、消費者を変革する

2022年9月15日、多くの人の心を動かすニュースが出ました。創業者イボン・シュイナード氏が保有していた同社株式のすべてを環境NPO団体に寄付するというものでした。「地球が私たちの唯一の株主」というイボンの言葉は資本主義社会でビジネスを商う目的やその先にあるパーパス経営の本質を問いかけてくれました。

パタゴニアは、1973年設立のアウトドア用品メーカーで、環境問題や社会問題に対して責任のあるビジネスを展開している企業です。サーキュラーファッションの文脈において、物質を含めた多くの循環を指すときに、彼らは、“サーキュラーエコノミー“ではなくCircularity & Responsibilityという言葉を使っています。Responsibilityは自分達が地球上に生み出し搾取するものへの責任として汚染を排出しないということ、そしてCircularityは物質の循環ではなく次の世代や地球への循環を指しており、本リサーチの第一章で示したCircularityやRegenerativeの考え方に親和性があります。

今回はパタゴニアサステナブルブランドマネージャーの篠氏に、日本におけるサーキュラーファッションの可能性や、繊維の循環に関連したCircularityビジネスの成功にむけたヒントを伺いました。


Q:パタゴニアジャパンが取り組まれていることを教えてください

Responsibilityー自分達が作り出すものへの責任

我々は2025年までに石油原料のバージン繊維の使用をゼロにする、そして2040年までに新しい素材開発や製品の製造、販売にかかるエネルギーのネットゼロの目標を掲げています。現時点での製品のリサイクル素材の使用率は94%です(2022年11月時点)。また、各製品の採取・製造過程でかかる環境負荷について環境損益計算書を作成し、消費者にむけてHP上で公開しています。この数値は新製品開発にあたっての判断基準の一つともなります。
また、日本ではリペアセンターが2箇所あり、店舗・オンラインともにリペアを受けていることや、worn wear surf tourというリペアトラックを走らせるサーフギアの移動式リペアも行なっており、商品を長く使うためのサービスが充実しています。

2022年7月にはフィンランドで開発されたリサイクル繊維“インフィナ(Infinna)”を用いたTシャツを発売しました。よくみられるリサイクル繊維素材の開発は、素材自体がリサイクル繊維であっても回収・再利用される繊維はわずかしかないのが事実です。その原因は、素材の開発と販売、回収、リサイクルが別々の運営母体をもち分断されているためです。パタゴ二アの取り組みが画期的な点は、販売小売であるパタゴ二アがサプライチェーンの各運営母体と組み、全体を包括して一つの製品の循環を作り出している点です。リサイクル繊維の開発およびリサイクルはInfinited Fiber Companyと組み、回収は国内老舗であり地場の回収スキームをもつナカノ株式会社と連携し、販売と製品の再製造はパタゴニアが担っています。それぞれが自分達の強みを生かしてサプライチェーンで繋がることで一つの製品の循環を完成させています。

 

Regenerative 地球や人や文化の再生

コットンの栽培についてはリジェネラティブ・オーガニック農法を行うインドの綿花栽培農家を2,200以上支援しています。これは化学肥料を使用せずに土壌を修復させるだけではなく、動物福祉の観点、そして農家の暮らしを改善させることを目的としています。2022年にはリジェネラティブの認証コットンの製品を発表しました。

またよく知られているのが、自社の売上1%を環境団体に寄付する「1% for the planet」です。最近では、廃棄される漁網からダウンを作り出すブレオ社と共にダウンジャケットを製造販売し、その売上の1%を海の保全に還元しています。今後はそれを南米の他の海岸地域にも拡大する予定です。

その他には、店舗の再生可能エネルギー切り替えに際して千葉県匝瑳市の農地にソーラーシェアリングパネルを設置しています。再エネの生成に加え、有機農業との組み合わせによって、二次的、三次的に、地域社会そして環境面でのベネフィットをもたらします。また、運営を地元の市民団体に委託し、定期的に周辺の地域コミュニティを巻き込んだイベントを行なっています。これにより、周辺市民の理解や関連企業への環境問題への意識が高まっています。

 

Q:繊維の循環を考える際に日本のファッション業界が大切にするべき点は何だと思われますか

日本の強みのローカライゼーション

「日本の価値観と日本の製品に根ざした」ローカライズ手法を編み出す必要があると考えます。今、職人や生産量が減り、伝統工芸のような扱いになっている製品でも、かつて便利なプラスチックや合成繊維が生まれる前は日常的に使われていたモノがあります。例えば麻製品は高千穂地域では神事に欠かせない素材として、地方経済を支えた農作物だったと聞いています。様々な歴史の歪みにより現在は栽培されなくなっています。そう言った元来の文化に紐づいた製品が再活用されることは、既存の環境負荷の高い製品からの脱却に繋がると考えます。そして、日本の伝統的な織物や職人の技術が次の世代にも引き継がれていくことを心から願っています。

 

Q:Circularity成功にむけたヒントはありますか

MORE VALUE WITH FEWER RESOURCES

我々は、新しい製品を開発する際、どうやったら販売量を縮小させながら利益を出せるか、1つの製品から何度も利益が出るモデルを検討します。手段としては、製品の持っている価値の再定義や再資源になりやすい素材、他地域展開の可能性などがあります。

例えば、廃棄漁網からのリサイクルダウンを例にあげます。我々はマテリアルリサイクルではなくケミカルリサイクルの開発に力をいれており、素材開発のブレオ社にはパタゴニアのノウハウや技術を惜しみなく提供しました。いまやネットプラスの素材はパタゴニアの150製品に使われるようになりました。ケミカルにこだわるのは、質が高く製品を再資源化でき、付加価値が高まり、その結果多くのステークホルダー(漁民やリサイクル業者)に富が分配できる仕組みを作るためです。ネットプラスによる製品は環境負荷を減らすだけでなく、作れば作るほど、地域の再生や人の幸せを向上することにつながっています。また、原料調達は現在はチリで行われていますが、今後南米の各国、中米、そして北米の海岸沿いのルートができつつあります。日本にも同じスキームで廃棄漁網を使って日本版ネットプラスによる製品の製造・販売がされる可能性もあるでしょう。2014年から開発を継続してきましたが、世界各地の漁網リサイクル繊維の効果を考えると時間やコストに見合った投資でした。つまり素材や製品の企画時点で、全体のシステムを把握し、次の循環やその次の循環を想定するために、回収・再資源化フェーズで起こりうる課題を考慮して進めることが大切です。

 

透明性が公平な分配と信用に繋がる

複雑なサプライチェーンを定量化することは製品の製造の判断軸になるだけではなく、改善箇所の影響度の特定にもつながります。また、数値を出すことで、公平・対等な富の分配のエビデンスになります。そして、消費者の信用やパートナー企業の信頼確保に繋がります。ただし、多くの中小企業にとって導入コストについては課題でしょう。

 

オープンソース化とイニシアティブ

サーキュラーエコノミーやサーキュラリティなど既存のシステムを大きく転換する取り組みには、業界全体にイノベーションを促進する必要があります。我々は、グリーンビジネスのプロセスを社外秘関係なく公開しています。

各自が取り組むのではなく、企業同士が情報を出し合い、協力しあって、実現にむけて歩むことが必要です。競合を恐れて情報をオープンにすることができない企業は多いですが、まずは自分が情報をオープンにしてイニシャティブをとると良い関係が生まれ、相手が安心して情報交換が始まり、よりよい世界にむけたビジネスを共にすることができます。なによりも正しいことをすれば利益はついてくることを我々が証明しています。

 

筆者の考察:パタゴニアが愛される理由 BingとDoingの一貫性

パタゴニアのすべての取り組みには一貫性があります。「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」をミッションに掲げ、ビジネスはそのための手段にすぎないのです。パタゴニア・ブランド全体も、自らが販売する製品や販売方法を通じて、人々の考え方や行動の変化をもたらす役割を担っています。

いまや洋服の見た目や品質などは技術の進化により大差がなくなっています。それではどこで差別化されるのかというと、ストーリーです。パタゴニアの様に「ゆるぎないミッション・ビジョン・パーパス」と、それに一致した行動がブランドへの興味や関心を高める鍵であり、それが売上につながります。そして単に売上を伸ばすだけではなく、パタゴニアの文化や価値観に人々が魅せられ、巻き込まれ、消費者の意識を少しずつ変えているのです。

パタゴニアの事例には、中小規模の企業に大きなヒントがたくさんあります。

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