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『最強姉妹の末っ子』第17話

 そういえば、どうしてムーニーと黒い騎士はこんな場所で話をしているのだろう。
 耳がまともにならなくなりそうなくらいやかましい場所だというのに。
 そう思っていると、床に線みたいなのが引かれていた。
 試しにまたいでみると、騒音がピタリと止み、ムーニーの声だけが聞こえた。
 一歩下がってみると、またうるさくなった。
 なるほど、この線から大扉までは外部からの騒音が遮断されているんだな。
 けど、どういう仕組みでやっているのだろう。
 左右を見たり見上げたりしていると、天井の方に光を放っている球体が設置されている事に気づいた。
 あれが音を遮断させる装着なのかな。
 一旦仕組みは置いておいで、彼らの会話を聞き漏らさずに情報を得るにはうってつけだ。
 そう思った私は線をまたいだ。
「はぁ〜〜〜〜?! 王女を取り逃がしたぁ〜〜〜〜!?!?」
 あぁ、またあの憎たらしい声が騒音の中でも聞こえてきた。
 ムーニーが黒い騎士に向かって怒っていた。
「はい、元王国の剣士にやられて逃げたそうです」
 黒い騎士が淡々と報告する。
「うむぅ……平和ボケしている奴らだから、警備を手薄にしていたけど、完全に舐めていたわ……」
 ムーニーは溜め息を尽きながらフラスコの中にあるラムネを口に放り込んで、ガリゴリ食べていた。
「あと、《《例のもの》》は出来ているの?」
「はい、完成間近かと」
 その報告を聞いた途端、ムーニーは怪しい笑みを浮かべた。
「フフフ……ようやくね。ここまで来るのに長かったわ」
「はい。ただ職人達の疲労が限界に達しているようでして……何人か倒れている者もいるようです」
「そんなの無理やりやらせればいいだけの話じゃない。文句言うなら、ロボットに改造させるぞと脅せば、ビビって言うこと聞くわよ」
 ムーニーが卑劣な事を言ったのを聞いたティーロとティーマスが彼女に向かって殴りかかろうとしていたので、私は必死に止めた。
 まだ何か良い情報が聞き出せるかもしれないと思ったからだ。
 私が必死になだめているのを見た二人はようやく落ち着きを取り戻した。
 ムーニーは気づく素振りはなく呑気にラムネを食べていた。
 が、何か思い出したような顔をした。
「……ところで、ロリンお姉様とクソ末っ子はこの国に来たの?」
 突然私の事を言われてドキッ……とはせず、苛立ちがまさった。
 なんだよ、クソ末っ子って。
 私がムッとしていると、黒い騎士が首を振った。
「門番の報告によると、そのような方達は来なかったそうです」
「そう……」
 ムーニーが少し暗い顔をしていた。
「ロリンお姉様、まだ着かないのかな……もしかしたら、何かあったのかも……すぐに捜索隊を派遣して探しに行って!」
「そのように手配しておきます」
 黒い騎士が頭を下げると、そのままどこかに行ってしまった。 
 入れ替わるように、牛頭の魔機が近寄ってきた。
「ムーニー様、魔機千体の出荷準備が整いました」
「うん、いつものようにドラゴンちゃんに運んでもらってね」
「かしこまりました。あと、これは注文票です」
 牛頭が一枚の紙をムーニーに渡すと、彼女はラムネを食べてから受け取った。
「どれどれ……『オーク型五百体、ゴブリン型千体、スライム型三百体、コボルト型四百体、ワイバーン型二百体』……うへぇ、こんなに注文が来ているのね。
 納期は二週間後で、報酬は……うん、まぁ、悪くないわね。
 すぐに製造に取りかかって」
 ムーニーは注文票を返すと、牛頭は一礼して去っていった。
 なるほど、何となくわかったぞ。
 この魔機達は他国へ輸出するためのものなんだ。
 どこの国と取り引きしているか分からないけど、きっと想像もできないような莫大な金が動いているに違いない。
 ムーニーはラムネを食べて何か考え事をしていた。
「はぁ、もしロリンお姉様が遺体で見つかったらどうしよう……他のお姉様になんて言えば……末っ子だったらそこら辺でのたれ死ぶへあっ!!」
 あ、しまった。
 つい反射的に殴ってしまった。
 ティーロとティーマスの方を見ると、『お前が殴るんかい』とでも言ってそうな顔をしていた。
 どうしよう、完全にバレてしまった。
 けど、まぁ、いいか。
 もうこれ以上話を聞いても、何か得られそうにないし。
 それにもうそろそろ作戦を開始しないと。
 ロリン達の準備も完了したと思うし。
 私がチラッとムーニーの方を見ると、彼女は鼻から血を流して尻もちをついていた。
「む……ぐっ……いったいな……」
 なぜかジッと私を見ていた。
 私が首を傾けると、まるで鏡のように彼女も首を傾げた。
 違う方に頭をかしげて、ほぼ同時に瞬きをした。
 あ、これ、もしかして……。
「見えてるぅうううううう?!?!」
「末っ子ぉおおおおおおお?!?!」
 私とムーニーはほぼ同時に叫んだ。
 ムーニーはすぐさまポケットからスイッチを取り出し、間髪を入れずに押した。
 すると、工場中に響き渡るくらい警告音が鳴り響いた。
「魔機たち、作業は取り敢えず中断して、侵入者を排除して!」
 ムーニーがそう叫ぶや否や、騒音が止み、雄叫びが聞こえてきた。
 わらわらと魔機達が迫ってきていた。
「作戦開始だな」
 ティーロがそういう言うと、手首を捻った。
 ありえない方向に曲がり、パカッと外れた。
 そこから二つの小さな筒みたいなのが飛び出してきた。
 それを上空にいるワイバーンに向けた。
――バンッ!
 耳を塞ぎたくなるほどの音が聞こえたかと思えば、けたたましい影が目の前に通過した。
 そいつには胴体に風穴が空いていた。
「いっちょあがり」
 ティーロが少しだけ口角を上げていた。
「一体何をしたの?」
「俺の片腕には銃があるんだ。自分で改造したんだが……威力は絶大だ」
 ティーロはそう言うと、肘を突くような動作をして、また発砲していた。
 ティーマスは自身の剣を使って、オーガの鞭に対抗していた。
「よし、私も……」
 私はポケットから硬化のポーションを取り出して、一口食べた。

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さて、ようやくムーニーが登場しましたね!
激しいバトルも開幕したようなので、ワクワクしています!

では、次回までお会い……あ、電話だ。
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